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色吉捕物帖 三  作者: 真蛸
四猿賊
177/183

 梯子階段を昇った二階は広間になっているが、そこにお吟の言っていた通り三人いた。色吉があがっていくといっせいに顔を向けた。

「どうも、あっしゃここの親分とこに助っ人にきている金助町の色吉ってもんです。よろしくお見知りおき願います」

 色吉が頭をさげると、

「いや、俺たちも助っ人だぜ。俺は入谷の庄助ってもんだ」と三人のなかで一番若い、色吉と同年輩の男が言った。

 庄助はそれから、「こっちは谷中の忠太、あっちが三ノ輪の岩松だ」と他のふたりを紹介した。忠太も岩松も庄助よりもぐっと年嵩で、ふたりとも四十は越えているようだった。

「実はあっしは今日からでして。兄さんがたはもうずいぶん長いんで?」

「俺たちは昨日からだ」

 谷中の忠太が言った。腹のつき出た、太った男だ。

「助っ人つっても、ふだんとかわらねえ。縄張りを廻っただけだけどな」

 三ノ輪の岩松が言う。こちらは細い男で、座っていてもずいぶん背の高いことがわかる。

 それでもふだんはやらぬような聞き込み、怪しい奴を見かけなかったか、ということを道ゆく者に尋ねたり、通りに軒を連ねるさまざまな店で聞き込んだり、といったことをしたという。

「ま、結局はなにも出てこなかったけどな」

 若い入谷の庄助がくりくりと目をいたずらっぽく動かしながら言った。

 そこに階段をあがってくる足音がして、その響きから色吉は四人と踏んだが、はたして武佐蔵と、そのあとに三人あがってきた。

「おう、これでそろったな、ご苦労」武佐蔵が言った。

 あとの三人は武佐蔵の直の子分で、名を五平、鉄蔵、伴六といった。

 入谷の庄助がさっと立ちあがると、忠太と岩松も続けて立ちあがった。若く小柄な庄助の動作が敏捷なのは当然だが、中年の岡っ引ふたりのなかなか機敏な動きに色吉は感心した。

 いま入ってきた四人とあわせて八人で車座に座りなおすと、さっそく武佐蔵が話しはじめる。

「俺はこいつを連れて神田日本橋両国本所と廻ったが、怪しい奴はいなかったぜ」と、色吉を顎で示した。

「まあ怪しい奴を見かけたらすぐに知らせるよう町人どもには約束させたがな」

 それから入谷、谷中、三ノ輪の三人がさっきの話をやや詳しく語りなおした。

「結局俺たちも何も出やせんでしたが」

 入谷の庄助が残念そうに言った。

 武佐蔵の三人の手下どもは、御府内の西、青山、赤坂など武家地のほうに足を延ばしているとのことだった。

「別に今日に限った話じゃなく、ここ半月ばかりかかりっきりなんだがな」

 と五平。四十がらみのがっちりとした男だ。

 武家地とはいっても、もちろん武家に聞き込みなどできるはずはなく、農家や町人あたるだけだが。

 いちばん若い伴六――といっても三十半ばだが――など今日は新宿まで足を運んだという。

「まあ俺が直に聞きまわったより、地元の御用聞どもに聞き込みの結果をうかがうのが多いんでやすがね」

「それでもたいした足労だ、そう卑下したもんでもねえ」

 武佐蔵が言ったが、これは子分をねぎらうためというより助っ人たちに聞かせるためだろう。

「我々も親分や三ノ輪の親分たちと同様、かんばしいものはねえ」

 いちばん年嵩の、五十がらみの鉄蔵が言った。

 武佐蔵はうなずき、

「本郷小石川あたりは大次っつう俺のもう一人の子分の受け持ちなんだが、今は手つかずだ。大次がいねえので手薄になっちまったが、まあ仕方ねえ」

「あー親分、そこいらはあっしの縄張りでして、怪しいやつはおりやせん」

 と色吉が苦笑まじりに言う。なにしろ自分の縄張りになんの通達もなしに大次を当たらせていたとは、この馬道のなんとかいう親分もずいぶんとなめた真似をしてくれたものである。

「おめえは他人ひとの縄張りを荒らすのに忙しくて、てめえの縄張りはおろそかなんじゃねえのかねどうせ」

 縄張り荒らしてるのはどっちでえ、と言いたいところ、しかしここで揉めても面倒が増えるだけだ。色吉はぐっと堪えて話をかえた。


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