十四
夕食の席に、松伍は出てこなかった。
「今日はわたしが台所でずっと料理の様子を見張っていた、怪しいものも紛れ込まなかったから安心だと言ったのだがな」
惣太郎が言った。
「若旦那、まだいたんですかい」
平太が言った。
「こっちのせりふだ。おまえこそ船宿に戻れと言ったはずだろうが。いまからでも帰ったらどうだ」
「まあお待ち。明日、清治のお弔いに送らせたついでに、宿に置いてくるとしようよ」
お畝が言った。
「ついでに宿に置いてく、ってお嬢さん、まるで人を荷物じゃあるまいに」
「姉上、清治殿の葬式に参列なさるおつもりか」
「そりゃそうよ」
「なりません、姉上が出かけるなどと」
「そういうわけにもいかないでしょ。なにしろうちの寮、ここで亡くなったんだし、それよりなにより、友達だったじゃないの」
「そうですよ、惣太郎殿。わたくしも行きますよ。あなたも姉上が心配ならばいっしょに行きましょう」
友之助が助け舟を出した。
「ああ……そうですね」
惣太郎はあまりに身勝手であったことに思い至って恥じたのか、少し頬を赤らめた。
その日の夕餉は通夜のように静かだった。実際のところ、清治の通夜という意識が、少なくともお畝にはあるように見えた。そしてとくになにごともなく終わった。騒がしい松伍がいないことが大きかったが、友之助もふだん通り静かで、お畝への求婚者の一人だというのに、お畝に話しかけようともしなかった。もっぱら話したのはお畝で、寺散策で歩き通しでくたびれた、夕顔がきれいだった、昼間はまだまだ暑いが晩は冷え込むようになった、昼と夜といえば、昼間の蝉もだいぶ元気がなくなってきたが、その代わりに夜、鈴虫などが鳴きはじめてきた、あたしはどっちも風情があって好きだ、などと他愛もないことばかりだったが、このところずっと気を張りつめていた平太はずいぶんとこころ慰められた。