九
「なに」
色吉は一足飛びに理縫の部屋に飛び込み、見回した。整然とした室内はたしかにひと目で理縫がいないことがわかった。若い男が押し入れを開けて、布団を乱暴に引っぱり出し、反対側も開けたが、そこにも見当たらない。
色吉は押し入れに顔をつっこんだ。いない。
「おいおいなんだよてめえは、邪魔すんじゃ――」
若い男が言いかけたが、色吉のひとにらみで黙った。
留緒のところに駆け戻ると、留緒は違う若い男にからまれていた。
「ねえちゃん、もう暗いからよ、提灯を用意しな」
「なに言ってんのよ、ずうずうしい」
「なんだとこのアマ、生意気いってると痛い目見るぜ」
留緒がおびえにすくむ。
「おう、留緒ちゃん、用意してやんな。ついでにおれのも――いや、あるだけ頼む」
色吉が横からそう言うと、留緒はちょっと驚いたような怒ったような顔をしたが、すぐに黙って台所から提灯を五つほど持ってきた。
行燈から火を移して縁側に並べると、さっきの若い男が得意げに取っていく。「おう待ちな」色吉はそう言って呼びとめると、他にも何人か集まってきたものたちに、
「ようしおまえら、提灯は二、三人でひとつを使うんだ。庭をあたれ。小さな女の子がいたら連れてこい。六歳の女の子だ。もし庭に見つからなけりゃ、外に探しにいくんだぞ」
色吉が、自分も提灯をひとつ取りながら言った。中年の商人らしき女が、
「なに言ってんだい、なんであんたが指図しだしてんだ」
「やかましい。鬼なんざいねえ、いなけりゃ大次が詫びを入れるって約束だ、こっちの言うことに従ってもらうぜ」
「いたらどうすんだ」
また違う誰かが言った。
「そんときゃ二、三人で連れてって好きにしな。だが残った奴らは女の子を探してくれよ」
「へ、餓鬼のことなんざ知ったことか」
残りの提灯は家探し連中に持っていかれてしまった。
「あ、待ておい……くそ、ひでえ奴らだな」
ぶつぶつ言いながら色吉も庭に降り立った。
「うひゃあ」
庭に出ていた連中が情けない声とともに戻ってきた。
「どうしたい、鬼でも出たか」
がくがくと顔をうなずかせる。からかったつもりが意想外の答え、色吉は青ざめたが、幸い暗いので誰にも覚られなかった。「だだ、だらしねえ奴らだ、鬼を探しにきたんじゃねえのか」
といいながら後ずさる。
「ほら色吉さん、行くよ」
色吉の手から提灯を取りあげ、留緒が先に立って庭の奥に進む。
色吉はおっかなびっくりついていったが、留緒の掲げる提灯に不気味な顔が浮かびあがると、「ひいい……」と声にならない悲鳴をあげた。腰を抜かしてへたり込みそうになる寸前、それが多大有だと気がついた。