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色吉捕物帖 三  作者: 真蛸
神出魅没
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「なに」

 色吉は一足飛びに理縫の部屋に飛び込み、見回した。整然とした室内はたしかにひと目で理縫がいないことがわかった。若い男が押し入れを開けて、布団を乱暴に引っぱり出し、反対側も開けたが、そこにも見当たらない。

 色吉は押し入れに顔をつっこんだ。いない。

「おいおいなんだよてめえは、邪魔すんじゃ――」

 若い男が言いかけたが、色吉のひとにらみで黙った。

 留緒のところに駆け戻ると、留緒は違う若い男にからまれていた。

「ねえちゃん、もう暗いからよ、提灯を用意しな」

「なに言ってんのよ、ずうずうしい」

「なんだとこのアマ、生意気いってると痛い目見るぜ」

 留緒がおびえにすくむ。

「おう、留緒ちゃん、用意してやんな。ついでにおれのも――いや、あるだけ頼む」

 色吉が横からそう言うと、留緒はちょっと驚いたような怒ったような顔をしたが、すぐに黙って台所から提灯を五つほど持ってきた。

 行燈から火を移して縁側に並べると、さっきの若い男が得意げに取っていく。「おう待ちな」色吉はそう言って呼びとめると、他にも何人か集まってきたものたちに、

「ようしおまえら、提灯は二、三人でひとつを使うんだ。庭をあたれ。小さな女の子がいたら連れてこい。六歳の女の子だ。もし庭に見つからなけりゃ、外に探しにいくんだぞ」

 色吉が、自分も提灯をひとつ取りながら言った。中年の商人らしき女が、

「なに言ってんだい、なんであんたが指図しだしてんだ」

「やかましい。鬼なんざいねえ、いなけりゃ大次が詫びを入れるって約束だ、こっちの言うことに従ってもらうぜ」

「いたらどうすんだ」

 また違う誰かが言った。

「そんときゃ二、三人で連れてって好きにしな。だが残った奴らは女の子を探してくれよ」

「へ、餓鬼のことなんざ知ったことか」

 残りの提灯は家探し連中に持っていかれてしまった。

「あ、待ておい……くそ、ひでえ奴らだな」

 ぶつぶつ言いながら色吉も庭に降り立った。

「うひゃあ」

 庭に出ていた連中が情けない声とともに戻ってきた。

「どうしたい、鬼でも出たか」

 がくがくと顔をうなずかせる。からかったつもりが意想外の答え、色吉は青ざめたが、幸い暗いので誰にも覚られなかった。「だだ、だらしねえ奴らだ、鬼を探しにきたんじゃねえのか」

 といいながら後ずさる。

「ほら色吉さん、行くよ」

 色吉の手から提灯を取りあげ、留緒が先に立って庭の奥に進む。

 色吉はおっかなびっくりついていったが、留緒の掲げる提灯に不気味な顔が浮かびあがると、「ひいい……」と声にならない悲鳴をあげた。腰を抜かしてへたり込みそうになる寸前、それが多大有だと気がついた。


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