十
何日かのち、例によって羽生邸をたずねた色吉が、例によって歩兵衛に事件の顛末始末について報告していた。部屋の隅には、例によって多大有も静かにたたずんでいる。
「玉太郎玉次郎の操り兄弟は、今度は引き廻しもなしに即日死罪となりやした。実のところでいえば、打首にするまでもなく厳しいお調べでもうくたばっていた、とのことらしいですが」
いつもにこにこと好々爺の歩兵衛も、このときばかりはしんみりとした顔でうなずいた。
「その厳しいお調べにあっても、逃走中の隠れ家、だれにかくまわれていたかについては口を割りませんで、まあ敵ながらあっぱれなやつらでやした」
歩兵衛がうなずく。
「動機は去年の浪人者、つまりこれは奥州左馬之介さんのことですが、彼に対する復讐で、みごと返り討ちにあった、ということで決着しました」
歩兵衛がうなずく。
「左馬之介さんは人形についていた妙な飛び道具にやられたんですが、運よく狙いを外れて、頭をかすっただけですみました」
色吉はちらりと多大有を横目でうかがった。
「うむ、それだけがこのたびのことでは救いになったのう。さて、色吉殿、今夜は夕餉を呼ばれていかれよ」
「へい、お言葉に甘えさしてもらいやす」
ちょうどそこへ、留緒が食事の支度が整ったことを告げにきた。
〈了〉