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色吉捕物帖 三  作者: 真蛸
あやつり辻斬り再現
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 あやつり人形師の玉太郎と玉次郎の兄弟は、太縄を打たれ、同じ馬に乗せられて牢役人など十名ばかりに囲まれ、引き連れられていた。人形を使った辻斬りの罪により獄門と処されることになったが、そのまえに市中引き回しにさらされているのだ。

 ふたりは前後に体をくっつけあい、いっしょに縄に巻かれていた。ほんとうは別々に馬に乗せられ、別々に刑場に送られる手はずだったのだが、役人が、

「おまえらはふたりでやっと一人前なのだろう。いや、さらに人形がいてようやくか。人も馬もかけるのはもったいないことだ」と言って、このような光景が出現することとなった。警備の員数も半分ほどだった。のちにこの役人は責任をとって切腹するはめになる。

 まえに座る弟の玉次郎の、うしろ手に縛られたその指先から、するすると糸が昇ってきた。兄の玉太郎がそれをくわえ、唾で湿らせる。糸は風に乗るようにふわふわと、その先に馬の耳があった。漂いながら、しかししっかりと目指すところに向かっていく。

 小塚原につづく、千住のややさみしい道を行っているときだった。突然、兄弟を乗せた馬がいななき、暴れはじめた。後足で立ち、前足で立ち、後足で警備のもの数人を蹴り飛ばし、あるいは踏みつぶした。三人がその場で死に、二人が苦しんだあげくつぎの日までに死んだ。

 狂ったようにそこらを蹂躙した馬は走り去った。生き残ったものは、役人を含め茫然とそれを見送るのみだった。

 そして驚いたことに罪人二人は、振り落とされもせず暴れ馬とともに消えてしまった。

 しばらくのあいだ、公儀の御用を聞く者たちは御府内を探しまわったが、とうとう兄弟は見つからなかった。

 探索の依頼はもちろん色吉のところまで来た。話を聞いたとき色吉は憤慨した。

「せっかくの旦那の初手柄だったってのに。なにやってやがる」

 だが、武家地のことに町方の旦那がかかわっていた、などということが露見したら面倒になるであろうから、羽生多大有と色吉が玉太郎と玉次郎の捕縛した当事者であるということはもとから内密のことであった。

「文句を言えた筋合いでもないからの」

 この件を報告すると、歩兵衛もそう言った。

 当初は江戸市中の御用聞きども――そのなかにはもちろん色吉も含まれていたのだが――も逃げたあやつり師たちはいないかと目を光らせていたものだったが、ひと月ふた月経つうちに、ひとの噂も七十五日ではないが、いつしかそのような事件のことも忘れ去られていった。


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