第三話 コボルトの王
額から湧き出た汗が頬を伝わり、ポタッと垂れる。
ウオオオォォォォォン
人三人以上の丈を持ちいかにもごつい鉄の鎧を着たその巨大なコボルトは、怒り狂った形相でこちらを睨みつけ咆え叫ぶ。そして手に持ったおおよそ人が持てると思わないほどの巨大な鉄の太刀を振りかざす。
素早く地面をける。
次の瞬間メキメキッと音を立て、先程まで立っていた地面の岩がボロボロになって砕ける。恐らく一度でも攻撃に当たったらぼろ雑巾のようにぐちゃぐちゃになって即死するだろう。俺は思わず身震いをする。
右、左、右、右。一つ一つの攻撃は単調であるものも、一度でも当たってはいけないという激しいストレスの中コボルト・キングの攻撃を避け続ける。
更に厄介なのが取り巻きの存在だった。これがボス部屋によるボス戦なら1on1で挑んでいるのだが、此処はコボルトの巣だ。コボルト・キングだけでなく、十数体に及ぶコボルトたちが襲い掛かってくる。
コボルト・キングの攻撃の合間を縫うようにして、一匹一匹を倒していが、このままではいつまでも決着がつかずらちが明かない。さらに、今はまだ先程仕掛けた罠が効いて大丈夫だが、騒ぎに気付いたコボルトたちの増援も来てしまうだろう。
そう思った俺は、決意を固め一旦キングと距離を取り、取り巻きの一人の背後に回り込む。そのまま膝蹴りを食らわせ、ひるんだところを突き飛ばしコボルト・キングの太刀の軌道の先へと飛ばす。仲間を切ってしまうことを躊躇ったコボルト・キングは太刀の動きを止めようとするが、巨大な太刀はその慣性によってキングの体勢を崩す。
その一瞬を狙った俺はコボルト・キングに一気に駆け寄り、すれ違いざまにわずかな鎧の隙間から剣で首を捉える。勢いよく刺さったそれはコボルト・キングの硬い皮膚を貫き、その強大な肉体は地に伏せた……。
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ギンコンガンコン
コボルト・キングを倒した俺は取り巻きのコボルトが持っていたバトルアックスを使いけたたましい金属音を鳴らしながら扉の南京錠のような鍵を叩き割ろうとしていた。
というのも、最初に倒した守衛や取り巻き、キングを見ても誰も鍵を持っていなかったのだ。なんで外回りの奴がカギ持っていて、こいつ等が持っていないのかはなはだ気になるが、仕方ないので時間を掛けて物理的に鍵を開けることにしたのだ。
しばらく叩くと、バキバキと鍵が砕けるように割れ扉が開く。ブーヒートラップを警戒しながらゆっくりと中へ入って行くと、流石コボルト・キングが統率していた群なだけあり、長いこと保管してあったであろう大量のレアアイテムや財宝が保管されていた。
特に目を引いたのは、壁に掛けてあった大きな地図だ。縦二メートル、横三メートル程の大きさのそれは、おそらくこの階層の地図だ。コボルトの不器用な手で書かれた跡があるので、おそらくキングの指示によって作成されたものだろう。基本的に魔物の上位種というのはほかの個体と比べて、高い体力、攻撃力そして知力を持っていることが多いがまさかここまでとは。
少し地図を眺めていると、地図に階層ボスの部屋とその先の下層への階段がかかれていた。魔物は自分の住む階層から出れることは無いので、そこで地図は終わっていたが、問題はそこではなかった。
ボスが居るタイプの階層は、ボスを他をさない限り下の階層への扉は開くことはない。つまり……あのコボルト・キングがボスを倒してその力を吸収していたのだ。そうすれば、この驚異的な強さにも納得ができる。
さて、小一時間程コボルトの地図を頼りにダンジョンを歩いていると、道中特に敵に出会うこともなく白い大理石によって作られた神殿のようなボス部屋を発見した。
中に入ってみると、本来ならばここまで来た冒険者を迎えるべく作られたであろう部屋は、強力な「何か」が争った形跡がみられる。純白の壁は大量のひっかき傷や切り傷の様なものでボロボロになり部屋の所々に建てられた壮大な柱は今にも崩れそうであった。おそらく、このボス部屋にいたのは準ドラゴンとも呼ばれるワイバーンであろう。
まるで怪獣映画のセットにいるような気分でも味わいながら、俺は改めて、あのコボルト・キングに驚異を感じながら最下層へと足を進めっていった。
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情景描写って凄く難しいですね。自分の頭の中にある風景が読んでくれている方に届いているかどうか……。
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