第一話 ダンジョンの闇の中で 前編
10/7 大規模改稿した結果、大幅に加筆したので二話に分けることにしました。
後半は、次回改稿します。
数年後……
あれから何年の月日が流れただろうか。
太陽の光が当たら無いダンジョンの中では、暦を知る術は無い。ただ、年単位の時間は確実に過ぎたであろう。
気づくと俺は、薄暗い不可解な明かりによって照らされたダンジョンの回廊を見つめていた。不気味な灰色のレンガで作られたそれは、永遠に続くのかとさえ錯覚させる程遠くへと続いていた。
何故、こんなダインジョンの奥にいるのだろう。そんな素朴な疑問が湧いてきた。確かに、ダンジョンの奥に犯罪者を閉じ込めるのは、あの街ではよくある事だった。しかし、あの時俺は悪い事は何もしていない。あの日、街から追放されるまで至って普通の冒険者だったのだ。
それが!なぜ!ゾンビやスケルトンと同じ扱いをされ、信頼していた仲間からは裏切られ、街からは追放されなければ行けないんだ!こんな理不尽が起こることを知っていれば、こんな世界に転生などしなかったに。
途中からは、この世界に俺を導いた、女神の悪口になっていた。
「くそくそ!」
ダンジョンの壁に打ち付けたこぶしがジーンと痛む。
長い事日の光を浴びずにいたせいかノイローゼになった俺は、あの日の事をこうやって定期的に思い出すのだ。
ーーーー
それは俺の主体時間で、十数年前の事であった。
当時高校生だった俺は、その日の朝もいつものように学校に向かおうとしていた。家を出て、表の大通りを自転車で走り、駅の駐輪場に留める。学校の友達とのいつもの待ち合わせ場所に向っていき、少し遠目に友達を確認し駆け足になる。
その時だった。何気ない日常が崩れ去ったのは。今思えば、はっきりっと自分の注意不足だと言えよう。しかしその時俺は、道を横切る車の姿が目に映らなかったのだ。
キーッ!というブレーキ音と共に、体が浮く。次の瞬間、慌てふためいて近づく友の掛け声空しく、俺の意識は暗転した。
……。
次に、意識が目覚めたのは、真っ白な空間であった。
最初は、病院か何かかと思ったが、ただの白い部屋にしては広すぎたし、病院ならあるはずのベットが無い。それ以前に、その空間には、俺以外存在しなかった。次に思いついたのが、死後の世界だった。もしそうならば一体ここはどういう所なんだろうか。天国何だろうか、地獄何だろうか。
あれこれ考えていると、突然俺の正面の空間が輝き始め、人型の影が見えてくる。
光が収まると、そこには美しすぎて却って正気度が減りそうなほどの美女が現れる。
驚いて、腰を抜かしていた俺にその女性は話しかけてきた。
「私は、女神です。」
神話に出てきそうな羽衣を纏いながら、ふわふわと宙に浮いており、いかにも女神らしかった。
「残念ですが、水庭直幸さん。あなたは……」
「……死んだ、のですか」
言われなくても分かっていた。自分でも随分と間抜けな死に方をしたものだと思っている。俺は、俯いて女神が言おうとしたことを言った。
「ええ、若いのに可哀そうに。」
女神は憐れみの目を向けてくる。
「あなたのような若い魂がこのまま、消えて行ってしまうのは悲しいです。そこで、提案があります。あなたの精神はまだ活力のあるので、次の生にも耐えられるはずです。このまま記憶を残したまま別の世界に転生してみませんか?」
「えっとそれは、その、いわゆる異世界転生みたいな物ですか!」
「ええ、そのような物です。だだ、その代わり一つ条件が有るのです。」
「なんですか?それは?」
俺は、少し食い気味になりながら女神に、質問した。さっきまでの憂鬱な気持ちは、異世界転生と聞いて吹き飛んでしまったのだ。もちろん前世への未練はある。しかし、異世界という今までファンタジーの中の存在が、現実になることに大きな興奮を抱いていた。
「え、ええ……。」
女神は若干引き気味になりながらも、答える。
「実は、あなたの転生する世界は、魔王が生まれようとしているのです。四百年前にも、その世界では魔王が生まれたのですが、その時は、人類が異世界から勇者召喚を行ったことで魔王は討伐されました。この魔王は本来、その世界の人類への試練として造られた物なのです。し、かし勇者によってあっけなく倒されてしまったせいで、世界全体のほんの、一部大陸東部にしか影響を与えられず、あまり意味がありませんでした。
直幸さんには、その二の舞を防ぐため、来るべき勇者と魔王の戦いの為に、世界を団結させる方向へと導いてほしいのです。
こんな言い方はしたく無いのですが、要は、下準備をしてほしいのです。」
正直、自分が勇者や魔王出ないことは残念だったが、この提案には異世界に行けるという事も有って非常に乗り気だった。しかし、
「俺なんかが、そんな事出来るのでしょうか。」
それが、一番の不安だった。俺が、前の世界で成し遂げたことが一つでもあったのだろうか。飽き性の俺は、何か面白い趣味や、目標を持って生きてきた人間ではなかった。毎日を惰性で生きるような人間だ。そんな人に、こんな大役が務まるのだろうか。女神は、そんな俺の心を読み取ったのか、
「それについては安心して下さい。転生してみれば、何をすればよいのか理解できるはずです。もしも指示があれば、あなたにだけ聞こえる声で連絡するので問題ないです。」
それを聞いた俺は安心し、その提案を受け入れ、異世界に転生したのだった。
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