第六話 初めての狩りの時間 後編
日付をまたいでしまいましたが、本日二回目の投稿です。
遥か地平線から吹いてくる乾燥した風が、広大な草原を駆け抜けていく。風に当たった腰ほどの背丈の草が、揺さぶられるようにしてたなびいてゆく。
それらの風は殆ど、のどこまでも平坦な草原をそのまま駆け抜けたが、ごく一部はその中で屈んで草にかくれながら慎重に動く、三つほどの人影へと当たっていた。
風で、匂いが流れたのだろうか。距離にして五十メートル程離れたところで気づかれた。ラッシュ・ボアーはこちらの方を向いたかと思うと、一瞬ためた足をばねのようにして一気にこちらに向かって来る。
奴の狙いは、不幸なことに俺たちの方へと向いていた。
「いいか、クリスタ。ラッシュ・バッファローは、速度は速いが、急には止まれない。だから、小石を自分の後ろに置いておいて、ギリギリまで粘った後に、垂直にかわすんだ。そうすればうまく避けれる。ついでに、ラッシュ・ボアーは、止まれずそのまま小石に突っ込んで、ぶっ倒れる。そこを狙えば安全に狩れる。」
「は、はひ」
緊張した声で、俺の説明に返事をする。その間にも、バッファローはどんどん距離を詰めていた。
「よし、それじゃ「ご、ごめんなさいやっぱり無理です~‼」
バッファローが、目の前まで迫って来たのに怖気着いたのか、言われた事を全部無視して、いきなり逃げ出してしまう。
「おいっ!そんな中途半端な時に逃げ出したら逆に危ないだろう!」
走って逃げようとするも、却って大声を出したせいで目立ってボアーの注目を引いてしまう。
「やめて。来ないで!」
逃げても逃げても、圧倒的な速度差でどんどんボアーとの距離が縮まって行く。その時だった。
慣れない格好だったのもあるのだろうか。ボアーをこかすための石が手から、滑り落ち足元に落ちる。そして、それを予期していなかった身体は、大きく前のめりになり、そのままこけてしまったのだ。
「あっ!」
とっさに、後ろを振り向くとボアーが、目の前まで来ており、もはや避けようがないと思われていた。転んだのを確認し直ぐさま、駆け付けた俺もそれには間に合いそうに無かった。
「クリスター!」
思わず叫んでしまう。思わず、俺は衝突の一瞬目をつぶってしまった。……が!目を開けるとそこには、無事なクリスタと、クリスタが落とした石に、思いっきりつまずきくるっと回りながら宙に浮いたボアーがいた。
よく考えれば、人間が対応できない物を走る事しか能がないラッシュ・ボアーが、避けれるはず無いのだ。次の瞬間には、ボアーは、クリスタの丁度真上を飛び越え、逆さまになって地面に背中を打ち付けていた。
とりあえずボアーが起き上がらないように、軽く剣を打ち付けて気絶させると、急いでクリスタのところへ向かった。
「大丈夫か?怪我はないか?」
あっけにとられて、固まっている全身を一通りチェックし、軽いかすり傷以外が無い事を確認した俺に、はっと我を取り戻したクリスタが、涙を流して抱き着いてくる。
「すまん怖い思いをさせてしまったな。」
しゃっくりを出しているクリスタの背中を、トントンと軽く撫でてやる。しばらくすると、落ち着きを取り戻したのか、俯いていた顔を上げ、話し出す。
「ごめんなさい。私、こういうの初めてで、慣れなくて怖くて、気が付いたら逃げ出していました。」
「大丈夫か?まあ、落ち着きな。私だって、魔物を初めて見たときはそんな感じだったさ。」
少し離れたところから異変に気付き、駆け付けてきたレティシアがクリスタをフォローする。
「そうだ、それにたまたまとは言え、魔物は倒せたんだ。初めてにしては上出来じゃないか。」
「そ、そうですね。ありがとうごさいます。」
「私の時なんか、もっと酷かったぞ」
「お、それは気になるな。後で、その武勇伝でも聞かせてほしいところだ。」
「そういう君は、どうなんだい?」
「それは、まあな?」
そんなやり取りが、クリスタにはおもしろ可笑しかったんだろうか、いつの間にか顔から笑みがこぼれクスクスと笑っていた。それを見た俺たちは、クリスタには今回の事がトラウマにはなっていない様で安心した。
まあ、もともとクリスタは戦闘向けでは無いのだ。しばらくはどちらにせよ、クリスタとの魔物の討伐は控えるべきかもしれない。
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