第五話 初めての狩りの時間 前編
数時間後、
帝都ウネサ
南方地区、冒険者ギルド
あの後俺たちは、いくつか店を回り、クリスタに必要な装備や服を買ってきた。
買い物を終えた後のクリスタを、改めて見てみる、白の麻布一枚のか弱そうだった時に比べ、今は、魔硬化レザーアーマーに、鋼の短剣、それから、白い髪を隠すための白いニット帽を被り、立派な女冒険者になっていた。
本当なら、剣を買った時のように、クリスタが遠慮して買い物進まず一日つぶれるかと思っていた。ところが、防具鍛冶屋で金貨云枚という単位が出始めた辺りで、諦めた顔をして急に静かになったのだ。
その影響で、午後からの予定が空いたので、クリスタの実戦練習も兼ね、冒険者ギルドに向かい簡単なクエストを受けることにしたのだ。
ウネサの冒険者ギルドは、基本的には前のウンリンの街と同じように、傭兵の依頼が主らしい。ギルド中は殆ど同じ、待合室のような構造が大半を占めていた。クエスト類が張り出されている掲示板が、ギルドの奥の受付にあったが、この街自体魔物が余り出ない草原のど真ん中にあることも重なり、余り多くなかった。
「クリスタは確か、魔物と戦ったりした事は、無かったよな?」
「はい、一度も」
初めてでも簡単にこなせるクエストとなると、殆ど無かった。一応、この街のクエストぐらいならば、クリスタを補助しながら、クリアすることは難しくない。しかし、何せ初めての土地なので、不測の事態が有るかもしれない。それに、これは戦闘に慣れてもらう為の物なので、下手に強い敵と戦ってトラウマになってしまっても困る。
ん~、どうしたものか。しばらく悩んでいると、突然声を掛けられた。
「おおエミール君、今朝ぶりだね~。」
「こんにちは⁉ラムシャーロさん。」
周りに、注意を払っていなかった俺は、驚いてはっと後ろを振り向くと、そこにいたのは今朝、宿で声を掛けてきたラムシャーロであった。しかし、この人冒険者だったのか。宿では、冒険者らしかなる格好だったので、てっきり違うと思っていた。
「あはは、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。まあでも、冒険者の方は、本業ではないからね。そう見えるのも仕方ない。」
「そうなのか?」
冒険者が、副業だなんて初めて聞いたので、少し腑に落ちなかった。
「それにしても、クエスト掲示板の前に突っ立って、どうしたんだ?お前の装備から考えるに、そんなに難しい物も無いし、悩むほどに量も無いと思うが。」
「ああ、それは、クリスタを連れて行こうと思っているからなんだ。この辺りで、クエストするのは初めてだから、どのあたりが安全か、測りかねているんだ。」
「なんだ、そう言う事か。私も、この街に来て一月ちょっとだが、この常設クエスト『ラッシュ・ボアー討伐』なんかどうだ?こいつなら、初めてでも苦労しないだろう。心配なら、私も着いて行こう。」
ついて来てくれるとは心強い。クリスタを買ってから、アルビノの事も有り、余りパーティーで行動するつもりは無かったが、この人は、もうすでに知っていたので問題なかった。断る理由も無いので、その提案を受け入れることにした。
ーーーー
あれから、街を出た俺たちは、三十分程歩いた草原の、ラッシュ・ボアーの生息地に到着していた。
丁度そのあたりで俺は、少し遠目に何かの影を見つけた。
「レティシア、あれが例のラッシュ・ボアーか?」
前世の知識というか偏見から、ボアー系の魔物と言うと牛位の、人間より少し大きい感じを想像していたのだが、どちらかと言うとサイズ的には、少し大きめのイノシシといったところであった。
「ああ、そうだ。あのイノシシの魔物で間違いない。そしたら、少し散会してくれ。あの魔物は、弱いっちゃ弱いんだが、遠くから助走をつけて走って突撃してくるんだ。当たったそこそこ痛い目に合うからな気をつけろ。」
「ひえっ」
クリスタが少し怯えた様子でこちらを心配そうな目で、見つめてくる。
「そこまで、心配する必要もないさ。しっかり防具をつけてれば、そう死ぬことは無い。それに、突進してくると言っても殆ど一直線で来るから、しっかり相手を見ていれば、当たることは無いさ。」
そういわれると、少し心配も和らいだらしく、頷いた。
「よし、じゃあクリスタは屈みながら俺に着いて来てくれ。おっと、剣もさ出しとけよ。」
こうして、クリスタの初めての狩りは、始まった。
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