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第7話 王都脱出はコブ付きで

 使用人が家族や親戚に声をかけて、大急ぎで荷物をまとめる。必要最低限の荷物を積んでも、荷馬車は12台の集団になってしまう。そこへ人間が乗る馬車が3台という大所帯だった。


 出来るだけ目立たないよう、複数に分けて屋敷から馬車を出す。街道の入り口で待ち合わせるよう言い聞かせ、全員を送り出したへーファーマイアー公爵嫡男ベルンハルトは屋敷をでた。


 成人するまで領地で暮らしたため、あまり思い出はない。大した執着もない屋敷を振り返ることなく、彼は馬を走らせた。夕方の忙しい時間まで余裕のある昼過ぎは、街道が空いている。今のうちに街を出ようと走らせる馬の前に、少女が1人飛び出した。


「っと! 危ない」


 器用に手綱を捌いて馬を止めたベルンハルトに、少女は声をかけた。どうやら偶然飛び出したのではなく、待っていたらしい。


「あの、アゼリア様のご家族様ですか?」


 淡いピンクの高そうなドレスを着ているが、身なりや仕草は平民のようだ。しかし馬から降りてベルンハルトは対応した。街中を馬で走るなら、民にケガをさせない技量と心が大切だ。万が一にも彼女がケガをしていたら、そのまま通り過ぎることは出来なかった。


 妹の名を出されたことも気になる。


「アゼリアを知っているのか?」


「えっと……騎士様が教えてくれました」


 見ると物陰に立つ青年が、騎士の礼を取った。男爵家の子息か。貴族名鑑を丸暗記した記憶から引っ張り出したのは、有能な騎士であり叙勲を受けた彼の父親だった。


 他国から攻め込まれた砦を守り抜いた指揮官だ。この国の貴族として、ヘルマン男爵家は尊重すべきだろう。命がけで敵を食い止めて国を守った。


「ヘルマン男爵家の騎士といえば、次男か?」


「ご存知でしたか。さすがは異才ベルンハルト様ですね。実は、我々も一緒に逃して欲しいのです」


「父君はご存知なのか?」


「はい、もし公爵閣下のお許しがいただけるなら、我がヘルマン男爵家は馳せ参じてお役に立つでしょう」


「それは心強い。こちらからお願いしよう」


 救国の英雄と称しても大袈裟でない男爵だ。息子達も優秀な騎士として名を馳せていた。だからこそ、あの場で王宮勤めを辞める潔さを見せたのだ。王宮勤めの騎士は華だが、己が認める貴族家に勤める道もあった。


 物陰から出たブルーノは騎士服ではない。街の若者のような身軽な格好に、剣をベルトで腰に()いていた。


「エルザ、きちんとお詫びとお願いをして」


「王都にいたら、またあの王子に捕まってしまいます。私はあんな人、嫌。昨夜、アゼリア様を貶める気はなくて……でも、ごめんなさい」


 騎士ブルーノは王宮で辞職を突きつけた後、聖女として連れてこられたエルザを送り届けた。しかし彼女の住んでいた家は、すでに別の住人がおり……彼女は家無しになってしまったのだ。


 孤児だったという苦労人のエルザの涙に絆され、気づけば惚れていたブルーノは、庇護を求めるなら最も安全な領地を選びたかった。


「ご覧の通り、私達は恋仲です。アゼリア様の婚約破棄騒動の原因となってしまったエルザですが、彼女は何も知らなかったのです」


 必死に嘆願する騎士ブルーノに右手をあげ、言葉を遮った。

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