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第12話 囚われのお姫様は騎士でした

 目が覚めて、豪華な天蓋とふかふかの柔らかな寝具に驚いた。旅の途中だったと慌てて身を起こせば、やたらと豪華な部屋に目を見開く。


「すごい、高そうな家具」


「古いだけだ」


 気配を感じなかったのに、声が聞こえて部屋を見回した。少し離れた机に頬づえをついた美形に気づく。彼は退屈そうな表情から、一転して口元を綻ばせた。僅かな変化なのに、劇的に表情が生き生きとする。手入れの行き届いた艶のある黒髪が毛足の長い高価な絨毯に触れても、彼に気にした様子はなかった。


 しなやかな獣のように音をさせずに立ち上がったイヴリースが近づくと、アゼリアの右手は腰のあたりを探した。


「剣ならここだぞ」


 机の上を示されて、鞘に納められた愛剣の存在に唇を噛んだ。残る武器はブーツに隠した短剣だけ。そっと足を持ち上げて乗馬用のブーツに手をかけた。


「短剣も預かった。危険だからな」


 誰にとって危険なのか明言せず、イヴリースはベッドの端に腰掛ける。伸ばせば届く距離で、ごくりと喉を鳴らしたアゼリアだが……すぐに肩の力を抜いた。


 ごろんとベッドの上に転がり、行儀悪くブーツを脱いで放り出す。


「……私ったら捕まったのね?」


「ずいぶんと諦めが早い」


 くつりと喉を鳴らしたイヴリースを下から見上げ、アゼリアは深呼吸して気持ちを落ち着ける。やたら顔が整ってるのも問題ね、顔を見て話すのが恥ずかしくなるもの。どう考えても私より美人じゃない。八つ当たりめいた感情を抱きながら、そのまま睨みつけた。


「諦めてないわ。お父様やお兄様が迎えに来てくれるから、それまで傷を作らず逃げる体力を残して待つのも『お姫様』の役目でしょう?」


 わざと自分をお姫様と呼称し、嫌味を突き付けたのにイヴリースは笑みを深めて頷いた。顔を近づけられ、さらりと流れた黒髪が頬に触れる。


「なるほど、囚われのお姫様ということか。そなたの国の御伽噺はどんな結末だ?」


 顔の距離が近すぎて、逆に緊張が解けた。近すぎるとぼやけて美形度が薄くなるなんて、初めて知ったわ。元婚約者とそんなに顔を近づけたことなかったし、あちらの方が明らかに劣るから。実験しても同じ結果は得られないでしょうね。酷評したアゼリアは質問へ淡々と答える。


 背を向けて座ったくせに、角度を変えて左手を顔の脇に着いた姿勢で覗き込んでくる。座り直さない理由は不明だけど、これが壁なら恋愛小説にあった追い詰められた状況じゃないかしら。


 外から見れば十分追い詰められた状況に見える自覚はなかった。元婚約者に一度もときめいたことのない自称お姫様は、恋愛音痴だ。浮気するほど男女の恋仲に興味はなかったし、恋愛に割く時間があれば鍛錬や勉強に費やしてきた。


「御伽噺なら、カッコイイ王子様か騎士が助けに来てくれるわ。魔王を倒して囚われの私を救い出して、キスをしてくれるでしょうね。最後は『お姫様は幸せになりました。めでたしめでたし』で締めくくられるの」


 王道の英雄譚だ。どこにでもある珍しくない御伽噺で、幼子は憧れるのだ。お姫様になって救われたい、英雄になって魔王を倒したい。男女問わず好まれる普通の御伽噺。


 けれど、アゼリアの場合は少し違う。自分がお姫様を助けに行く騎士になるのだと身体を鍛えた。彼女がコルセットなしで細い腰を誇れるのは、搾り上げ鍛えた身体の恩恵なのだ。胸はさすがに柔らかいと思うが、他の女性と比べたことはない。人並み以上のサイズがあるが、形が良いのも鍛えた成果だった。


「国が違えば、内容は真逆なのだな。どうだ、寝物語にサフィロスの御伽噺を聞いてはみぬか?」


 耳元で囁かれ、その声に肌がざわつく。悪寒とも違う、初めて知る感覚に身を震わせたアゼリアは両腕で己を抱き締めた。

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