第七死合い 喜助夫婦
「はっ! やべ~!遅刻だ!!」
レンジは何時もの習慣で飛び起き、辺りを見渡す。
(あいててて!)
昨日の幸村との戦いであちこちが痛かった。
レンジは部屋の戸を開けた。外は燦燦と太陽が輝き、良い陽気だった。
外でニワトリの世話をしていた奉公人の喜助と目が合った。
起きて来たレンジに向かい喜助は、
「今日はよく眠れたようじゃな!」
「ええ、まあ。おかげさまで・・・・・・」
居候のくせにばつが悪いレンジは頭をかきながら。
「喜助さん、何か手伝う事ないっすか?
薪割りでも何でもします!!」
「薪割りは間に合っとる。昨日あんだけ割ったからのう!
だったら夕食の支度手伝ってもらえんかのう?」
「はい!」
レンジは屋敷の台所へ向かった。
台所には一人の女性がいた、
「あの~、喜助さんに言われて手伝いに来たんですが・・・」
「うちの人に言われなすったかね、そりゃたすかるわ!」
「うちの人?」
「喜助は私の夫です」
「あっ、そうでしたか」
「私は富子よろしくね!」
「で、富子さん! 俺は何をすれば?」
「そこの竈に火を起こしといてくれんかね!」
「はい!」
レンジは竈に薪を放り込み、火を付けようと新聞とライターを探した。
「富子さん! 何か雑誌とライターあります?」
「・・・・・・」
レンジの言葉を理解できない富子。
(あ~、そうだった。この時代にそんなものあるわけ無いよな~)
「マッチとかないっすかね~?」
「・・・・・・」
「無いか~・・・」
「火打石ならほれ、足元にあるじゃろ!」
「火打石?」
ぼけ~っとしているレンジに業を煮やして富子は自分で火打石を手に取り、
(カチッ、カチッ)
石を鳴らして火花を散らし、藁に火を付け、薪のなかに放り込む。
程なくして小さな種火は薪に燃え移り、ぱちぱちと音を立てて燃え上がる。
「お~~~~!」
レンジは初めて見る光景に感動した。
「近ごろの子は、火の起こし方も知らんのかね?
あんたどこか裕福な所の子か?」
「いや、そうじゃなくて・・・なんかすんません」
そんなやり取りをしていると、喜助がかご一杯の野菜をもって台所に入って来た。
「富子、今日は大量じゃ」
「ほお! 見事な野菜だねえ」
「おお、レンジ。お前が薪割りしてくれたお陰で、じっくり畑弄りできたわ」
「いえ・・・」
「それよりお前その顔どうした?
あざだらけだが、どこかで喧嘩でもしたのか?」
「あっ、これは昨日幸村と・・・・・・」
「幸村様と喧嘩でもしたんかね?」
「そうじゃないんだけど・・・・・・
あいつ容赦なくて、しかも無愛想だし、あいつは鬼だ!!」
「幸村様を悪く言うもんじゃねえ!」
「はい?・・・・・・」
「ああ見えて、幸村様は心優しい人なんじゃ」
「そうなんすか?」
「そうとも。わしら夫婦がこうして真田家で元気に働けていけるのも幸村様のおかげなんじゃ」
「どう言う事っすか?」
「あれは三年前の事、わしら夫婦は大事な一人息子を戦で無くしてのう。
三日三晩泣きとおしたわ。
そんで、生きる希望も無くして夫婦揃って川に身投げしようと決めたんじゃ。
そこに通りかかったのが幸村様じゃ。
川に飛び込もうとしていたわしらに幸村様は、死ぬな! 死ぬくらいならわしに仕えろ。
そう言ってくださったんじゃ。
死んだ息子にどこか面影が似ている幸村様の言葉に、息子が乗り移りわしらに諭していると思えたんじゃ。
それ以来、わしら夫婦はこの真田家に仕えさせてもらっておるんじゃ。
今では幸村様の成長を見守るのがわしらの一番の生き甲斐になっとるんじゃ」
「そうだったんすか・・・・・・」
熱気を込めて語る喜助の言葉に、少し幸村への考え方が変わったレンジであった。