第四十一死合い 旅の兄妹ー2
レンジは見回りを済ますと赤城商店での仕事もこなして家に戻る頃には辺りは暗くなっていた。
節約の為、店で売れ残った食材を抱えて帰宅した。
憧れの一人暮らしを始めてみたものの日に日に寂しさを感じてきた矢先の事、自分の家に明かりがついて居る事に何故か気分が良いレンジは戸を開けて、
「ただいまー!!」
いつもは誰も待っていない部屋に帰るので久しく言って無かった言葉を口にした。
「あー、お帰んなさい!」
部屋で寛いでるベニマルからの返事が返って来た。
レンジは家の中の二人を見て驚いた、
(おいおい! ちょっと待て・・・
確かに自分の家と思って寛いでいいって言ったけど、なんだこれーーー!!)
ベニマルは横になって頬杖をつきながらレンジの剣道具の中にあった貴重なポテチを勝手に開けて食べながら雑誌を読んでいた。
妹のカレンは壁にでかでかと落書きをしている最中であった。
「おーーい!! ちょっとーーーーー!!
お兄さん? 妹さん壁に落書きしてるんだけど、どゆこと!! 何で止めないの?
この家、借家だかんね! マジやめて、ホントなんなの?」
レンジの訴えにベニマルは、
「おーい、カレン! レンジはんがダメだって!!」
カレンは、
「えー! もうじき完成するでつ!!」
「しゃあないやろ! レンジはんがそう言うてるんやから!!」
カレンは小さなほっぺを膨らませながら納得いかない様子だ。
レンジは、
「ちゃんと消してくれよ!! 跡残らないだろうな・・・
大家さんに怒られちゃうよ・・・・・・」
そんなレンジを不思議そうにベニマルは、
「変わった人やなー、レンジはんって・・・・・・」
「何でだよ!! 普通人の家に勝手に落書きなんかするか?
しかも勝手に俺のポテチ食ってるし・・・・・・」
「そうなんでっか? 悪い事しましたか?」
「当たり前だろ!!」
「そうでっか・・・・・・
おーい、カレン! その絵、気に入らないから消せってさー!!」
ベニマルの言葉に、より不機嫌になったカレンは仕方なく絵を消す為に雑巾を取りに部屋の奥に向かった。
ベニマルは、
「もったいないなー、カレンの絵、売ればかなりの金額になるんやけどなー。
欲しがる人も多いからそんな人が見たら涙流して悲しむやろなー・・・・・・」
ベニマルの独り言に反応したレンジは、
「えっ! どういう事?」
「どういう事って、今言った通りですよ!
カレンの書く絵は人気があって、旅先で良くしてもらった時、お礼の代わりに書いたらお金がもらえたり、カレンの絵に惚れ込んで追っかけが来る事もあるくらいですわ!!」
「ま、マジで!!」
奥から雑巾をもって来て絵を消そうとしてるカレンにレンジは、
「ちょっとまったーーーーー!!
よく見たら、この絵すげーいいね!
いや、何て言うか最早芸術だね、うん!
この絵はこのままでいいかも・・・・・・」
実際レンジが言う様にカレンが壁に書いた絵は恐ろしく写実的に書かれており、ウサギが野を躍動的に駆ける姿を描いていた。
レンジは腕組みをして片手で顎を触りながら、
「いいねー! 実に良い!!
そうだ! どうせ書くのならこの戸に書いたらどうだろうか・・・」
そんな提案をするレンジ。実際、戸なら取り換えがきくし、絵を戸ごと売ってしまえば儲かると考えたからだ。
しかしカレンは、
「いやでつ! 今日は疲れたでつ!!」
そう言ってまだふてくされていた。
仕方なく夕食の支度を始めるレンジ。
部屋の中央の囲炉裏に【火の者】の力を使って火をおこす。
ベニマルは、
「【火の者】・・・・・・」
ボソッと呟いた言葉に気付いたレンジは、
「あれっ、知ってるの?」
「あっ、いや・・・
そんな力を使う人がおるって言うんを聞いた事が有りましてな。あははは・・・・・
まさかレンジはんが能力者とわ思いませんでしたわ!
サムライの中でもかなり鍛え上げた者しか手にできない力ですやろ?」
「そうなの? 俺別にサムライじゃねーし! 今は赤城商店って言う店を経営してるんだ!!」
「ホンマでっか? サムライじゃ無く、商人!!」
「うん! 見回りは幸村の家に世話になってたから何となくやってる感じかな・・・」
「そうだ! わいらここに世話になる間ただ飯食わせてもらうのも申し訳ないんでその店で使って貰えんやろか? 路銀稼いだら出て行きますよってからに!!
お願いします!!」
両手を合わせて拝むように頼む姿に仕方なく、
「いいよ! 人では多い方がいいから!!」
成り行きで新たに赤城商店に臨時とは言え二名の従業員が増えたのだった・・・・・・