第三十四死合い 盗賊団ー4
レンジは千代を腕に抱き、残して来た幸村が気がかりになって足早に来た道を戻っていた。
すると、馬を飛ばして幸村が現れた、
「大丈夫だったか?」
「ああ! この通りだ!!」
千代を見せつけるレンジ。レンジは、
「そっちこそ三人の盗賊はどうした?
巻いて来たのか?」
「奴らなら始末した」
「マジか!!」
「片付いたのなら帰ろう!!」
「ああ! あ!! 太一、太一が奴らに切られて酷いケガなんだ!!
幸村!! 千代を頼む!」
レンジは千代を幸村に渡して太一の元へ向かう。
幸村は自分の前に千代を乗せてレンジの後について馬を走らせた。
権平の家に着いたレンジは家に飛び込み、
「太一は? 太一はどうなった!!」
寝かされた太一の前に正座をしていた権平はレンジを見て首を振った・・・・・・
「うそ、だろ・・・・・」
レンジは太一のそばに駆け寄り、
「おい! 太一!! 起きろよ! なーーー!!
約束通り千代を連れ帰って来たんだぞ!! おい!」
レンジが揺り動かす太一の体は冷たく、唇は紫色に変色しており、顔は青白く息をしていなかった。
「何でだよーーーーーーーーーーーーー!!
なんで・・・・・・
千代を置いて行くなよ・・・・・・
バカヤローーーーーー!」
権平はそっとレンジの肩に手を乗せて、
「千代だけでも救ってくれて、ありがとうございますじゃ」
その言葉に首を振りながらレンジは、
「二人共助けられたはずなんだ・・・・・・
俺がもっと早く来ていたら・・・・・・
クソーーーーー!!
ごめん、、、
ごめんな太一。
痛かったろ! ・・・・・・
怖かったろ! ・・・・・・
俺のせいで・・・・・・」
馬から降りて幸村と共に部屋に入って来た千代はレンジの隣に来て太一に向かい、
「にーに、レンジが助けてくれたよ。もう大丈夫だよ!」
太一の体を揺すって、
「にーに? どうしたの? 起きて!!
あそぼ!! 起きてってばあ!」
権平は涙を拭いながら、
「千代! やめるんじゃ、太一はもうダメなんじゃ!!」
「ダメって? にーに! 起きて!! 起きて!!」
「やめろと言っとるじゃろ!!
もう太一が起きる事は無い!」
「起きないって? もうお話も出来ないの? 遊ぶ事も出来ないの?」
「そうじゃ!」
「そんなのやーだ! 起きてよ、にーにーーーーーーーー!!」
事態が飲み込めたのか千代は太一の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。
レンジは唇を噛みしめ千代の肩に優しく手を置く。レンジの唇からは血が流れていた。
レンジは両親を亡くした日の、お通夜を思い出していた。
お通夜の日、レンジは中学一年生、妹のチエミは幼稚園生であった。
お通夜の会場には親戚達が二人の死を悼んで詰めかけていた。
チエミはそれを見て、
「お兄ちゃん? 今日は賑やかだね!! パパのパパやママも来てるね!!」
レンジは力なく、
「そうだな・・・・・・」
参列者に出された料理を見てチエミは、
「美味しそう!! パパもママも遅いねー!
早く帰ってこないとなくなっちゃうのに・・・・・・」
両親の死を理解できないチエミ。
焼香の時、レンジとチエミは両親の遺影の前に進み出て手を合わせる。
写真を見たチエミは、
「あーーー! パパとママだ!! どうして手を合わせるの?」
レンジはチエミの頭に手を乗せ、
「パパとママが安心して旅立てる様に、お祈りしてるからだよ!!」
「旅立つ? パパとママ、どこかに出かけちゃうの?
いつ帰ってくる?」
「帰ってこない! もう帰ってくる事はないんだ!」
「帰ってこない? もう、会えないの?」
「もう、会う事は出来ないんだ!!」
「うそ!! そんなのやだ! そんなのやーだ!!」
理解して来たチエミは二人の遺影を前にして大声で泣きだした。
どうする事も出来ないレンジは二人の遺影の前で誓った、チエミは俺が守る、と。
何故か通夜の日の事を思い出していたレンジに、後ろに立って見守っていた幸村が声をかける。
「レンジ、戻ろう・・・・・・」
「ごめん。俺、もう少しここに居たいんだ。先に帰っててくれ!!」
「そうか! 俺はこの事を兄に伝えなければならないから先に帰っているからな!!」
「ああ!」
幸村は静かに部屋から出て行った・・・・・・
時間は静かに流れて行った。千代は泣き疲れたのか、太一の横で深い眠りに落ちていた。
そんな千代に布団を掛けてやった権平も、座ったまま、うつらうつらとまどろんでいる。
レンジは壁にもたれて虚ろな目でそんな三人を見つめていた。
頭の中では何故か修行先で出会った老人、無限斎の言葉。
【強くなりたければ、弱さを知れ!!】
【生きたくば死の意味を知れ!!】
二つの言葉が思い出されていた・・・・・・
三人を見つめるレンジの横顔に、あちこち穴の空いた障子の隙間から差し込む朝日の筋が、レンジの顔を照らし出す。
「朝、か!」
朝日がはっきり顔を出した頃、レンジと権平、千代は河原にいた。
太一が好きだった川遊びが何時でも出来る様にと、河原に太一の亡骸を埋葬して、石を積み上げて墓標としたのだ。
墓標に向かい手を合わせる権平とレンジ。泣き疲れて起きない千代は権平の背中で夢の中だ。
供養を終わらせた権平はレンジに向かい、
「ありがとうございますじゃ。
これで太一も何時でも水遊びができますじゃ。
太一も向こうで両親と一緒に千代を見守ってくれるはずですじゃ」
「俺、力になれなくて・・・・
すみません・・・・・・」
「うんにゃ! レンジさんが来てくれたおかげで、ほら!!」
権平は背中で眠る千代をレンジに見せつけ、
「太一の事は残念じゃったが、わしにはまだ千代がおりますじゃ。
二人で頑張って生きて行きますじゃ」
そう言ってレンジに笑顔を見せた。
「権平さん、何かあったら何時でも言ってください!
力になりたいんです!! お願いします!!」
「ありがとう、ありがとう・・・・・・」
レンジと権平は固い握手をかわして別れた。
レンジは幸村の屋敷に向かう途中、一人の男と出会った・・・・・・