第三死合い 誤解
「大丈夫かい? もし・・・・・・」
誰かの問いかけに意識を取り戻すレンジ。
ゆっくり目を開けると、
「あいたたた!」
腹部に強い痛みを感じ、押さえながら辺りを見渡す。
そこはどこかの牢屋の中だった。
「すぐに出してあげるからね!
喜助、早くあの子を出しておあげなさい」
「へい、直ぐに」
牢屋の外で声がする。
声のする方にお腹を押さえながらヨロヨロと歩いて行くと、
(ガシャン! ギー)
牢屋の扉が開いた。
状況が飲み込めないレンジは牢屋の中に立ち尽くしていた。
「早く出てらっしゃいな!」
優しく手招きする女性に促されて牢屋を出るレンジ。
「何をなさっておられるのですか? 勝手な事をされては困ります!」
突如先ほどレンジと取っ組み合いを演じた男が現れ、女性に抗議を始めた。
女性は、
「何をって? こんな子供が何をしたと言うのです?
暴力までふるって!!」
「そいつは私の問いかけに、武器を持って歯向かって来たんです!」
「武器? こんな竹の棒で?」
「そいつが歯向かって来なければ、手荒なまねなど致しておりません!」
「だまらっしゃい!!」
女性の一喝に男は肩を竦めて立ち尽くす。
女性は続ける、
「喜助がついて居ながら、何たる事です。
幸村!この子にお謝りなさい!」
女性の怒りに抗う事が出来ず、男はレンジに向かい渋々、
「すまぬ・・・・・・」
嫌そうに謝る男にレンジは、
「はい? 聞こえませんけど!!
何か言いました?」
「すまぬと言っている!」
「はぁ~!! それが人に謝る態度か?
ちゃんと謝れ、土下座して謝れ、三つ指ついて丁寧に、だ!!」
勢いづくレンジの言葉が癇に障ったのか男は、
「調子に乗るな! もう一度叩きのめしてやろうか!?」
男はレンジに襲い掛からんばかりに詰め寄る。その時、
「幸村!!」
女性の声が男をたじろがせる。
さらに続ける、
「まったく、なんて事です。私はそんな風に育てた覚えは有りません。
男子たるもの、間違えは潔く認めるものです!」
「母上! でも・・・・・・」
「でももへちまもありません!!」
女性の一喝に肩を落とす男。
女性は男の母親で、叱られている男は幸村と言う名前らしい。
幸村の母親は、
「大変な目に会いましたね!
今日はうちでゆっくりして行きなさい。
そうだ、お腹は減っていない?」
幸村の母親の言葉に甘え、夕食をご馳走になる事にしたレンジ。
囲炉裏を囲んでの食事で、レンジは何故幸村に襲われたかを理解した。
それは村の見回りをしていた幸村が、村人から見慣れない男が不審な動きをしていると報告を受け、敵方のスパイか盗賊の疑いを掛けられたからだった。
母親との会話で疑いが晴れたレンジは自分に起きた事を包み隠さず話した。
寺で倒れていた事や、見覚えのない土地にいた事。そして帰る方法が解らない事など。
しかし、全ては信じてもらえずに、何処かで頭を強く打ち付け、記憶をなくしたんだろうと言う事に成り、しばらくこの家でやっかいになる事に成った。
レンジは布団の敷いてある部屋に通された。そこには自分の持ち物の剣道具が置いてあった。
レンジは今日の出来事が未だに理解出来ずにいたが、強い疲れから布団に入るとすぐに深い眠りに落ちて行った・・・・・・