第十一死合い 村人の生活
こちらの世界にやって来て、早一週間が過ぎていた。
朝の鍛錬を終えて村々の見回りもごく日常となっていたある日の事。
村を見回っている二人の前で大きな藁束を積んだ荷車が轍にはまり込んで身動き出来ないでいた。
荷車を引き出す事に疲れ座り込んでる老人にレンジは、
「大丈夫っすか? 何か手伝いましょうか?」
その声に老人は、
「有難い、どうにもならんで途方に暮れていたんじゃ!」
そう言って立ち上がった。三人は力を合わせて轍から荷車を引き出す為に力を合わせる。
「せ~~~~~の!!!」
何度か勢いを付けてようやく轍から脱出する事に成功した。
老人は、
「ありがとうございますじゃ。
お礼と言ってはおこがましいが、うちで茶でもご馳走させてくだされ」
レンジは少し照れながら、
「別にお礼だなんて、普通の事をしたまでで・・・・・・
俺達、この先の村を見回りに行くところなんだ!」
「尚更丁度良いではありませんか、うちもこの先の村にありますじゃ。
生い先短い老人の我がままと思って、つきおうてくだされ」
老人の言葉にレンジは幸村を見たが、幸村はレンジに頷いて見せたので、
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます!」
老人は荷車を引き、レンジは荷車を押し、幸村はそれを見守りながら三人は老人の家を目指す。
暫く行くと、古びた民家に着いた、
「ここですじゃ」
老人は荷車を軒先に止めると、レンジたちを家に案内した。
生垣を抜け、庭に入ると、
「じーじ、おかえり~!」
小さな女の子が出迎えた。
「ただいま、千代! ちゃんとお留守番しとったか?」
「うん!」
「そうか~、えらいの~!!」
老人に頭を撫でられ嬉しそうにしている少女。
老人はレンジたちに向かい、
「これは、孫娘の千代ですじゃ。
わしは権平。
家の中にいるのが孫の太一ですじゃ」
そう言って権平は家の中を指さした。
開け放たれた部屋の中では小さい男の子が藁草履を作る作業を行っていた。
「これ、太一! お客さんじゃぞ。挨拶くらいせんか!!」
権平の言葉に太一はレンジ達を一瞥して、何事も無く作業を続けた。
「すまんの~あの子、昔はああじゃなかったんだがの~」
そう言って謝ってくる権平。
「今、お茶を用意するんで待っててくだされ!」
権平はそう言い残し家の中に消えて行った。
残されたレンジと幸村は縁側に腰かけて、お茶が来るのを待った。
庭で遊んでいる少女にレンジは、
「お嬢ちゃん、歳いくつ?」
少女は一生懸命指を折りながら、
「六歳! に~には十歳なんだよ!」
「そっか~千代は六歳か~、ちゃんと数が数えられてえらいな~」
レンジに褒められて千代はご機嫌だった。
レンジは懐から飴玉を取り出し千代に渡した。
「美味しいぞ!! 食べてみ!」
千代はレンジからもらった飴玉を口の中に放り込んだ瞬間、目を丸くした。
「おいち~!! 小さいお兄ちゃん、ありがとう!!」
「おっ、おう! 小さいは余計だぞ!!」
評判が良さそうなので、レンジは部屋の中まで歩いて行って、千代の兄の太一に飴玉を差し出した。
太一は、レンジの差し出した飴玉を暫く見つめていたが、ひったくる様に取り、口の中に入れた。
「なんだこれ!!」
太一は初めて口にする甘いお菓子に驚き、レンジの目を見つめた。
「うまいだろ!!」
レンジの言葉に素直に頷いた。
程なくして、権平がお茶を持ってやってきた。
「どうぞ!」
「「いただきます」」
二人は出されたお茶をすする。
レンジは権平に尋ねる、
「所で権平さん? 二人の親は? 外で仕事中ですか?」
その言葉に権平は肩を落とし、
「この子たちの親はわし一人じゃ。
父親は戦で・・・
母親は二年前の飢饉の時にのう・・・・・・
育ち盛りの子供たちの為に、自分の食料を全て分け与えて・・・
娘はみるみるやせ細り、半年もたたずに、骨と皮だけになってしもうて・・・
こんな老人がおめおめと生き残ってしもうて・・・・・・」
声を詰まらせる権平にレンジは、
「なんかすいません・・・もし俺に力に成れる事があれば言ってください!」
「ありがとう! うちはご覧の通り老人と小さい子供だけじゃから、畑仕事もままならんでのう!
こうして藁草履を編んで、細々と暮らしておるんじゃ。
わしの命の続く限り頑張らにゃ、あの世で死んだ娘夫婦に合わす顔がないからのう・・・・・・」
権平にお茶をご馳走になった二人は権平と二人の子に挨拶を済ますと、村の見回りを続けた。
その後二人は権平の近所を通りかかった際には、必ず立ち寄る事になった・・・・・・