家族が盗み聞き
ん?早朝トレーニング。珍しいな親父が起こしに来ないとか。
「おはよう、司!昨日から今朝までお楽しみご苦労。労って起こしに行かなかったんだが…」
親父がソロでICレコーダーに録音したという話だ。
「その録音、消去しろ!クソ親父ー‼」
「どこにそのICレコーダーあるんだよ?」
「おはようございます。師匠‼司。」
「ちょっといいか?莉子、親父が昨日の夜から今朝まで部屋の中をICレコーダーで録音していたって話だ」
莉子赤面。
「そこで、俺は思うんだがICレコーダーはまだあの部屋にあるんじゃないかと」
「私はそれを探せばいいの?」
「話が早い。ところで、体は大丈夫か?俺、調子に乗ってたから…」
「大丈夫よ。それより、そのICレコーダーを探す!」
「頼んだ」
ええと、部屋中の音を録音できて隠せそうなところ…。結構ある。っていうかこの作業、司の部屋を探しまくるのと同義だってわかってるのかなぁ?
音を正確に取るには…遮蔽物がないほうがいいわね。私なら、そうね。本棚の上とかかしら?BINGO!
すぐ見つかった。自分でちょっと聞いてみた。うわっこれ、恥ずかしい。
司のところに戻った。
「あった」
「それで?」
「私のカバンの中に確保しておいた」
「まぁ、大丈夫だろう。トレーニング後速攻で音消そう!」
「好奇心で私もちょっと音聞いてみた。…めっちゃ恥ずかしかったんだけど。私あんなのだったの?」
「そうだよ。可愛かったよ」莉子赤面。
「と…とにかく、あれは消去しなきゃ!」
「学校であれが公開されたらもう泣きそう‼」
――そこまで言うか。俺泣きそう…。
莉子のカバンの中にICレコーダーはあった。
「消去するデータ選ぶから、俺は聞くぞ。何より昨日は莉子可愛かったし♪」
司は聞いてみた。国会中継?
「甘いな、若造。すでにICレコーダーはマナが持っている」
親父…。
「ではマナさんに交渉してみます」
「おはようございます、マナさん。あの、ICレコーダーを渡してください」
「ゴメーン、ルリが今は持ってる」
「おはようございます、ルリさん。ICレコーダーを渡してください」
「もう用ないしいいよー」とアッサリ戻ってきた。
そもそもICレコーダー、あの3人が盗み聞く代わりだったから役目は果たしたってことか?ってことは…録音した音を聞きました。ということだな?
「莉子…ICレコーダーの音、あの3人には聞かれてる…」莉子赤面。まぁ、自分の声が恥ずかしいというくらいだからなぁ。
「うちの中だけで済んでOKと思えばいいんでないか?」とフォローしてみたが、
「よくない‼」と言われてしまった。でも、莉子の声なんだけどなぁ。俺にはあの声好きなんだけど。って言ったら怒られるだろうな。
「なぁ、莉子。本当に体は大丈夫か?俺は体力あるからって調子に乗って、喜びをぶつけ過ぎた。もっとセーブすればよかったな」
「大丈夫。私だって体力あるんだから!…セーブとか言わないでよ」莉子赤面。
「俺、幸せ。早く大学卒業したいなぁ」
翌週も莉子は道場に来た。莉子の足は完治した。俺は一安心。
「マナー!今日の夕飯も作り過ぎてるよな?」
「あ、そうなのよ!」
「というわけで、莉子さんお泊り決定ー!」
――親父楽しそうだな…
俺と莉子も新婚みたいなもんだから嬉しいんだけど。まずは…俺の部屋を確認しICレコーダーを探すことから始めないとなー。
「莉子ー。非常識な家族でゴメン!録音とか盗み聞きとかさ」
「それで司を嫌いになったりしないから、大丈夫よ」
ふっ、甘いな。息子よ。すでにICレコーダーで聞こえている…。いや今度は無線を作った。ルリ作だ!ルリは理系だからなぁ。こういうの得意な。小型の集音器を枕元にセットさせてもらってるぞ。




