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18-3「よかった、よかった、じゆーだむ!」

 その技術科達のデックス改造大作戦が開始されて、既に三日三晩が経過していた。いかに彼らが第四世代人類であるとは言っても、流石に疲労の色が彼らの顔には浮かんでいた。


「のぉおおおおお! もう我慢の限界っだぁああああ!!」


 デックス1号機の改修に当たっていた彼は、宇宙作業服のヘルメットにその声を反響させながら叫んだ。


「ほら、叫んで無いで手を動かしてくださいパイセン。シド技術長にどやされますよ」


 叫んで立ち上がる彼を、ちらりと横目で見ながらフォース・チャイルドの少年が、デックス1号機の首筋から延びたケーブルに接続された端末を操作しながら言う。


「リィン! リィン・ツクバ! お前は我慢できるのか! 我々は労働基準法によって保護されるべきだ!!」


「そんな、遥か昔にあった法律を持ち出してまで、休みたいですかパイセン」


 語気も荒く叫び続ける少年に対して、リィン・ツクバと呼ばれたフォース・チャイルドの少年は興味もなさそうに端末の操作を続けていた。だが、彼の目も既に疲労で座っている。


「バカめ! リィン。お前は分かっていない! 今日は購買部でデックス初期型のプラモデルが発売されるのだぞ、技術科全面監修のあれだ!」


「まじ、かよ……」


 その声に反応したのは、リィンとは別の少年だった。彼は今、デックス1号機から延びたデータリンク用のケーブルの端をリィンに渡そうとして、それを取り落とした。眼鏡を掛けた少年だった。


「それは本当か、エロワ・ラプラード!」


 眼鏡の彼はそう言いながら、先ほどから叫ぶ少年へと詰め寄った。


「確かな事だ! ライネ・ピエニ!! 俺達は騙されたんだ!」


 彼らは、数日前、月面に『今年一番のビックウェーブだぜ! ごっこ遊び』と称して躍り出た少年たちである。因みにその時リィン・ツクバと呼ばれたフォース・チャイルドの少年も巻き込まれ、一緒に罰を受けていた。


「バカな、技術長は僕たちに発売日には休んでいいと言ったのだぞ!」


 因みに、シドは彼らに嘘はついていない。実は、彼らが勝手に作業を続けているだけで、彼らは、今日は休みなのである。


 その事実を唯一知るリィンは、ライネとエロワにその事を告げようとするが、彼らはなんと強引にリィンを担ぎ上げていた。リィンを神輿のように肩と足を担ぎ上げてである。


「ちょ、パイセンがた。そんな事をしなくてもっ……!」


「こうしちゃおれん! いざいかん自由の道へ! 我々もコレで晴れて自由の身だ!!」


「やったぜ! よかった、よかった、じゆーだむ!」


 繰り返しになるが、彼らはとても疲れていたのである。それが、これから彼らが行う狼藉の免罪符にはならないが、彼らはこの時軽く正気を失っていた。


 それを証拠に、彼らは何故か、制止の声を叫ぶリィンを月面物資運搬用のバギーの荷台に積みこむと、それに乗り込んで月面へ飛び出していってしまった。「よかった、よかった、じゆーだむ!」と歌いながらである。


 そのハンドルを握るエロワと、助手席に座るライネは本気で目指していたのだ。その月面のはるか先にあると彼らが思いこんでいる架空の購買部を。当然艦内にある購買部はそんな所にはない。繰り返しになるが彼らは疲れているのである。


 因みに、彼らのその行為は、許可のない艦外外出となるため、敵前逃亡とブリッジには観測された。先日は徒歩で近くのクレーターまで歩いて行って遊んでいたためそこまで厳しくは罰せられなかったが、彼らは今、月面物資運搬用のバギーを奪取して月面の遥か地平線を目指していた。


 結果、それを発見したアンシェラによって、ただちにパラサに報告され、パラサの指示によってルウが戦術科の所有する艦載機、『F-5889-Sコスモイーグル』にスクランブルをかけた。


 この時、『F-5889-Sコスモイーグル』を操縦していた戦術科所属パイロット、エルフリーデ・ヴィーク少尉は後にこう証言した。


「彼らは、私の通信越しの停止命令が聞こえていない様子でした。ええ、そうです彼らはずっと大声で歌っていました『よかった、よかった、じゆーだむ!』と。私には、何が何だかわからなくて」


 結局、停止命令に従わない彼らのバギーは、彼女の手によって撃墜されていた。


 本当に幸運な事にリィンと、ライネと、エロワは月面に放り出されるだけで、軽症で済んでいたが、すかさず派遣された保安科の部隊によって半殺しの憂き目に晒されていた。リィンは完全に巻き添えである。


 そんな彼らが、クロウ達航空隊と面と向かって面識を持つのはもう少し後の話である。


 クロウ達航空隊の面々はこの時、食事を済ませ、航空隊のブリーフィングルームに居たためこの騒動は知る由も無かった。


 この日、航空隊員のパーソナルナンバーが振り直されていた。


 クロウとミツキが特別機となるため、ナンバーは存在しない。クロウが4番機をケルッコに譲る形で番号が再編された。


 ユキが1番機、ミーチャが2番機、トニアが3番機、ケルッコが4番機、アザレアが5番機、まだ復帰していない、マリアンとヴィンツが、それぞれ6番機と7番機、新たに加わったエリサが8番機と言った具合である。


「で、今日マリアンとヴィンツ以外に集まって貰ったのは他でもありません。私達には今、実機訓練することも、VRデータの更新が間に合っていないため、VR訓練室でデックスの操縦訓練をすることもできません」


 なんと、クロウが初めて航空隊に所属されたその日以来、その席に座る事の無かったユキが指揮官席に座って一同に達していた。


 クロウはまずこの事実に感動を覚えていたが、考えてみればこれが本来の事なので考える事をやめた。


「そんなわけで、我々として現在出来る事はVR上での徒手格闘訓練、もしくは武道場を借りての生身での徒手格闘訓練、あるいはトレーニングルームでの筋力トレーニングに通常ではなります」


 それを聞いた一同はゲンナリとした顔になる。つい先日、彼女たちは殺し合いのVR訓練を実施したばかりなのである。ミーチャと、アザレアと、ケルッコは見ていただけであるが。


「そうだよね、嫌だよね。そんな訳で、昨日訓練の後に艦長に許可を貰って別の仕事を用意しました。これはとても重要な任務です!」


 ユキはそう言って手に持った一枚の紙を取り出した。それはポスター大の大きさの紙であり、事実その原稿を受け取った主計科の手によってポスターへと加工されていた。


 そのポスターにはデフォルメされ、美化されたクロウと思われる少年と、ミツキと思われる少女が肩を組んで虚空に指さし目を輝かせており、その背後にはデックスの写真がでかでかと加工されていた。


 そして、大きくこう書かれている。


『いいから、来てくれ、航空隊!!』


 それを見たクロウとミツキは抗議の声を上げたが、その声は一同に黙殺された。


 このようなものは、その場に居なかった者が被害者になるのがこの時代でも当然であった。


 因みにこの広大な『つくば』艦内に貼るために、そのポスターは数十枚と印刷されていた。最早クロウにもミツキにも逃げ場など無いのである。


「で、どうして今航空隊の募集なんです?」


 何を言っても黙殺されてしまうので、クロウは諦めてユキへ問う。ユキはその質問には答えてくれた。


「うん。今デックスは7機現存していて、12機搬入されていた量産機の内7機を潰してパーツ取りにしたから、7機プラス5機の量産機で12機編成でしょう? でもヴィンツが復帰してもクロウ君は専用機に乗り換えちゃうし、3機余っちゃうじゃない?」


 そのユキが語る内容は、当然と言えば当然の数の話であった。


「実はなクロウ、航空隊というのは本来14名が定員なんだ。『つくば』は実戦が予想されたから砲術手として7名も人員を割かれてしまった結果今の人員になったんだよ。艦載機がそれしか積めなかったからな。ところが、デックスになってから、積載出来る艦載機の数が20機に増えたんだ。これは機密格納庫が存在する『つくば』だけじゃなくて『つくば型』全艦がそうなんだ」


 クロウとミツキ、そしてエリサに対して、ミーチャが補足の説明をしてくれる。


 因みに他の『つくば型』には機密格納庫は存在しない。そのため、本来であれば『つくば型』には22機のMAAが搭載可能であるが、2機分のスペースを余剰スペースとして使う運用とタイラーが決定し、現在は各20機ずつの編成となったのである。


 所が、せっかく搬入したデックス量産機はその内7機が技術科の手によってバラバラである。そのため、現在『つくば』にはMAAがタイラー専用MAA『ライトニング』と、クロウ専用MAA『ウィンド』がそれぞれ1機ずつの2機、デックス試験機が7機、デックス量産機5機の計14機の運用となるわけである。


 因みに、今その6機分の余剰スペースは、バラバラにされたデックス量産機のパーツと予備パーツや兵装が乱雑に積み重ねられており、すぐには使い物にならない程に荒れ果てていた。


「とにかく、他の『つくば型』に比べれば私達はマシだ。何しろ3人調達すればいいだけだ」


 そう言ってミーチャは「他の所は6名も調達しないといけないからな、さぞ混乱していると思うぞ」と続けていた。


 言われてクロウは思う。ただでさえ、この『つくば』は実は余剰人員と言うものがないのである。


 損耗率が通常であれば高く、戦闘配備となれば持ち場へ急行しないといけない航空隊は、戦闘の花形ではあっても職種として人気がないのである。


 因みに、特に戦術科は余剰人員が少ない。タイラーの手によって『つくば型』に改修が加えられた際、ただでさえそれを補うために他の科から人員をかき集めたため、交代要員以外の人員などある筈もなく、今更元航空隊の人員に戻れとは言えない状況なのだった。


 しかも、『つくば型』には予備の艦載機として『F-5889-Sコスモイーグル』が4機配備されているため、元航空隊の内4名はこれらの運用に当たっていた。


「そう、しかも、恐らくだけど。あの6機の余剰スペースが片付けられたら、多分艦長なら量産機を追加発注すると思う。6機か、もしくは当初の予定通りに7機の量産機を配備するんじゃないかな? そうなると、航空隊の定員はこの『つくば』も将来的には22名必要ってことになる。クロウ君とミツキちゃんは専用機だからいいとして、僕らは将来的にデックスに乗れる人員をそれだけ用意しないといけないんだよ」


 これは、航空隊にとって死活問題であったが、クロウは何故か、高校の部活動の部員が足りない廃部寸前の部が、必死に部員を調達しようとしている様子に被って見えていた。


「ともかく、みんなはこのポスターを持って、艦内にある掲示板のありとあらゆるスペースに掲示してきて。戻ったら今度は食堂と、居室前の人通りの多い所でビラ配り。何とかして人員をかき集めよう」


 だが、そう言うユキの表情は真面目そのものである。当然航空隊の面々もそれに頷いていた。クロウもそのポスターを何束か受け取って艦内へと走り出した。

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