第13話 『ラブコメ回避回』
本当に小出しですみません
「この酒場には確かにスグルの魔力痕跡がありますね」
ここは夢子たちが姿を消した酒場。
妙齢の女性と腰から剣を差した男が、件の席に座っている。
男は黙々と、女はガツガツとステーキを喰らう。
「店の外からは感じたかい?」
「いえ、この席以外はまるで感じられないです」
「だろうね。ほら、アタシが来て良かったろ?」
にひひ、と笑いながら女は肉に喰らいつく。
「腕を上げてるじゃないか、スグル。うれしくなるねぇ…」
◇◇◇
夢子が奇妙な世界の扉を開けてから一日が経った。
「ふんふふん〜ふふふ〜ふんふふん♪」
夢子は鼻歌交じりで料理をしていた。
夢子は切り替えが早い方だった。
あの後すぐに、「名前変更を無闇に使わなければ大丈夫だな!」という結論に至った。
そもそも、あの力は無闇に使おうとは思ってなかったのだ。
「夢子ご機嫌だね?」
「今日はハンバーグだよー。肉だよ肉ー。ひひひ」
「僕は料理しないから、今までは保存食しかなかったからね」
これまでは干し肉や芋でスープを作ったり、サンドイッチを作ったりと、あまり料理の幅がなかった。
しかし、前回の買い出しにより様々な食材や調味料を手に入れることができた。
スグルの圧縮スペースは時間経過が無いため、生物や傷みやすい野菜など気にせず購入できたのだ。
更には夢子が思っていた以上に、この世界には元の世界の食材と同じようなものが揃っていて、あの味この味が再現できると喜んだのだ。
牛肉はミノタウロス、豚肉はオークがその役目を負っているようだった。
記念すべき一品目は夢子の発言通りハンバーグである。ミノタウロスの肉を夢子が頑張って粗挽きにしたのだ。
「楽しみだなー。すごくいい匂いだ」
「肉が焼ける匂いってワクワクするよね〜」
この日の夕飯は二人とも大満足であった。
スグルは今まで食べたハンバーグの中で一番美味しかったし、夢子にとっても会心の出来であった。
食後、二人でお茶を啜りながら他愛ない話をする。
しかし、穏やかな時間は終わりを告げる。
「ギャワー!ギャワワワー!!」
激しく鳴く鳥の声。
スグルの顔つきが変わる。
「侵入者…? 森に迷い込んだ人か…?」
スグルは使い魔で監視している映像を確認する。
「こ、 これは…」
映し出された映像を見て愕然とする。
「何でここに…!」
スグルの表情から、只ならぬモノを感じる夢子であった。