出会った仲間はくっ殺コンビ
異世界での入居先を紹介されたヒラノは
同居人となる二人と出会う
それは、オークにエルフ!?
魔王軍にスカウトされて装備も整えた
次は僕が住む場所を用意してくれる事になった
・・・言いたいことは分かる
幾らなんでも色々とサービスが良すぎると言うか
ここまで来たら住む場所として
ファンタジー作品でよく見かける
少しボロい小屋みたいな家であっても文句は
「めっちゃマンション!?」
「そりゃそうでしょう
少ない土地に複数の住人を住まわせるには
こういった集合住宅が合理的
それでいて健康的でもあるからね」
そう言うとそれぞれの社員が
ルームシェアする事になるマンション
その見取り図を渡されたのだが
マンションにしては一室一室が広すぎるし
月々の家賃が・・・えーと?
これは安いのだろうか?日本円でいくらだろうか?
「あ、ごめんね?円単位の方がわかりやすいよね」
そう言うと魔王様の隣で秘書さんが
ハープ型の算盤を取りだし
カチャカチャと計算を始める。
意外と計算機器はアナログなんだなぁ・・・
そう言えばスーツを着ている秘書さんを見てると
ついつい忘れそうになるが
この世界は技術が高いのか低いのか
今一よくわからない所がある。
鎧さんのいた武具店にはガラスがあるから
ある程度ガラスを製造するだけの技術や
鉄の加工などは普及しているようだ。
だが機械となるとどうだろうか?
ファンタジー世界における機械といえば
大概オーバーテクノロジーでチートアイテム
この異世界では機械はどれくらい普及してるのか
あるいは全く機械技術が存在していないのか?
その辺も追々聞いてみることにしよう
「日本円にして月五千円ですね、
ここに魔術光熱費と水道代金を加えまして
月々の家賃は7300円となります」
「やっっっっす!?と言うか
まぁた分からない単語が
光熱費は分かりますけど魔術光熱費って?
ガスと電気はないんですか?」
家賃に関することだし、疑問が残るのはまずい
ここは少しでも疑問を解消していこう
安定した職についたは良いが
家賃が思わぬ形で重荷になるのは
どこの世界だってきっと同じはず!
「良い質問ですね、魔術光熱費は魔術による火・光を
屋内で設置された物の上などで使用した場合に発生します」
秘書さんが言うには
この世界でも光熱費は存在するらしい
ただ、こっちでは魔術による光熱費
つまり台所や証明に施された魔術の
使用頻度によって光熱費が変化するのだ。
術式は毎月一室ごとに更新されていく決まりで
魔術光熱費は、この更新に必要なのだとか
古い術式のままだと光が弱くなったり
場合によっては正しく作動せず
火が起こせなかったりもする。
そういった事のないように
術式更新用の部署に支払うお金
それを【魔術光熱費】と呼ぶのだそうだ。
「セキュリティも万全ですよ、ほら」
秘書さんが指した先には・・・何やら黒い大きな影
少し遠くて見えないが石像のようなものが飛んでいるように見える。
「あれは【鉱魔獣】所謂、ガーゴイルというものでして
各集合住宅におよそ300体が、日々交代制で警備しております」
視線をマンションのほうに戻すと
改めて異世界に似つかわしくない外観と
魔王の城からそう離れてない地点に見慣れた光景
なんと言えば良いのか正直困る組み合わせだ。
「ヒラノ君には二人の先輩が使っている部屋を
ルームシェアしてもらうつもりだけど、構わないかな
どちらも人間ではないけど面倒見が良いから
すぐ仲良くなれると思うよ」
「に、人間じゃあないって今更な気がしますけど
あの、因みに・・・その二人はどういった?」
「エルフとオーク」「え」「エルフとオーク」
エルフとオーク
よくあるエッチな展開とかで見る組み合わせ
それが同居人なのは何とも不思議な感じがする
というか異世界らしい種族もやっぱりいるんだなぁ
目的の部屋までは階段へ移動する方法
若しくは昇降魔法と呼ばれる物体移動の魔法で
上層や下層へ移動できる方法がある。
今回は3階までだから階段で移動することにした
信頼してるが、エレベーターと違い壁や柵がない
そんな状態での昇降は恐すぎる。
魔王様は「健康的だね」と言って
魔王様自身も階段で移動、秘書さんは...
「一足先にお二人にヒラノさんを紹介して参ります
魔王様、よろしいですか?」
「ああ、構わないよ
手間をかけるね秘書くん」
秘書さんは一度頷いた後
ひょい、と軽々と飛んで言った
階段はバリアフリーがしっかりしており
坂になっている所がある、捕まれる棒も
握りやすいように溝ができている。
よく見ると材質は...ゴム?
階段にもゴムで滑りにくいように
デコボコしたシートが貼られている
思い返してみると下半身が蛇だったり
全身鎧の人もいるんだから当然か
2階に上がるとあちこちの部屋から
顔を出してる魔物(?)が珍しそうに見つめて来る
「あ、あのぉ魔王様」
「ん?あぁ、人間が珍しいんだろう
ここに勤めてる多くの種族が
まだ人間を見たこともないからね」
「見たことがない?」
適材適所とのことで、魔王軍でも戦う以外の役目があり
ここは非戦闘を主な仕事とする職員が住まい
基本的に魔王軍領土から出ない者
若しくは僕みたいに入社したての人は基本ここに配属する。
「ほらほら、異世界から入社させた人間さん!!」
「あれが人間かー、爪も牙もないぞぉ?」
「細いねぇ、ちゃんと食べてんのかねぇ」
食われるかと思ってた全員が
物凄いこっちの心配してくれてる
本当に彼等人間を襲っていたりするのかな
そんな事を考えながら3階に到着すると
秘書さんと何やら話している声が
「人間は雑食性、肉も魚も食べる
野菜も食べる、卵も食べる...はぁーっ
材料気にしなくていいのは楽でいいねぇ!」
「うんうん、オイラも作り甲斐があるよ
人間さんオークの肉料理食べてくれるかなぁ」
「オーク程沢山入るかどうかは別ですがお気に召すかと
あぁ、彼がそうですよオッグさんレフゥさん」
魔王様は手を振りながら
僕はゆっくりと後ろから
異世界での同僚の姿を確認しておく
一人は分かりやすいオークだ
人間に豚の顔を足したような顔つき
身体は魔王様より大きいくらいだ
目算で大体190cm以上?
「はじめまして、オイラはオーク族
名前はオッグってぇんだ。
おいら治癒師座で適性は自然治癒師」
この外見で回復?とも考えたが
前に適性の話で聞いた通りなら納得だ
どの星座の適性かは完全ランダム
そんな異世界でオークが回復魔法を使えるくらい
別段驚きはしないさ
えぇと、エルフのほうは...
ガッチリ鍛えあげた肉体と特徴的な尖った耳
エルフらしい整った顔立ちは、そのマッスルのせいか
さしずめ姐御と呼ぶのがしっくり来る感じに
「アタシはエルフ族のレフゥ
適性は戦士座の斧戦士
人間ってなぁ細いねぇ
ちゃんと食ってるのかぃ?」
ずずいっ!!と一気に自己紹介しながら
詰め寄られてしまうと少しビクッとなってしまう
少し遅れて僕も自己紹介
「きょ、今日魔王軍に就職しました!!
ヒラノ・コウイチです!!適性は運搬者です!!
これからよろしくお願いします!!」
「っかーー!礼儀正しいねぇ
おらオッグ、ちったぁ見習いなぁ」
バシッバシッとレフゥさんがオッグさんの背中を叩く
エルフという種族は人間ともよく交流している描写が多い
だから尖った耳くらい自分と変わらないが
やはりオークは少し怖い、性格はおっとりしてそうだが
もといた世界でのオークの印象が酷すぎる為、どうしても身構えてしまう
間王様に視線を向けると何を考えていたのか察したのか
オッグさんの肩に手を置いてオークという種族について説明してくれた。
オークとは
この世界では豚の頭部を持つ二足歩行の種族を魔物と差別化する為に
今から200年前、その名称と種族認定がされた人々であり
病気や毒に対して高い耐性を産まれながら有しており
遥か昔には非人道的実験を繰り返された過去を持つ為に
人間の街や村でオークを見かけることはなく
エルフのように森に集落や砦を作ることが多い
縄張りの意識が非常に強い種族であることで知られ
縄張りに侵入したのであれば同じ種族であっても容赦することはない
手先は人間と比較すると器用な方で、鉄加工の技術は独特なものがある
さて、そんなオークであるオッグは
魔王軍で唯一のオークとして入社後、知る限りの鉄加工技術を提供
その後は同時期に入社した唯一のエルフ、レフゥと意気投合する
今回の唯一の人間、ヒラノの受け入れに一番に名乗りを挙げた張本人である。
「え、僕の入居先引き受けてくれた人なんですか!?」
「オイラもレフゥも魔王軍で唯一のオークと
魔王軍で唯一のエルフだからねぇ
同じ種族が同僚にいない者同士仲良くできるかなぁってさ?」
物凄く良い人でした・・・!疑って本当にごめんなさいっ!!
「折角だ、エルフについても教えてあげよう」
コホン、と咳払いの後エルフについても説明してくれた
本当に親切だなぁ間王様
後ろではパチパチパチと秘書さんが小さく拍手しているのは
どこか微笑ましく見える
エルフとは
森の中で長い時を暮らす種族である
オーク同様200年前に人間との差別化を図るため
種族認定され、人権も認められている種族でもある数少ない種族
現在生存が確認されているエルフは
なんと齢7000を超えると言われる程長寿な種族である。
彼らエルフは魔法付与の矢を製造できる唯一の種族であり
エルフが作り出した弓と矢は軽く頑丈、多くの国で冒険者が愛用している
魔法を禁忌とし、獣の肉を狩る目的以外では矢を使用しない掟を持つ
その一方で呪いや霊的存在との交信に関しては広く扉を開いており
歴史に関しても長寿を活かして語り部として各地を旅をしていたりと
オークとは異なり人間とは比較的人間との交流も深い
そんなレフゥは他のエルフより抜きん出て好戦的で
弓と矢だけでは戦争に巻き込まれた時など対処できないと考え
エルフの集落を抜け魔王軍へと入社を決める
自分と同じで一族から抜け出したオッグを弟のように可愛がり
オッグも彼女を姉のように慕っている為、魔王が同居を許可
以降は戦闘教官として新人戦闘員の指導と教育を主な職務としていたが
種族ごとの教育方針が必要だ、と気づき現在は一時的に引退
様々な種族との戦闘を研究している。
今回のヒラノの入社と、オッグの行動を知り
この世界における保護者を名乗り出た
「え、保護者・・・ですか?」
「異世界じゃあ身内なんていないだろうし
まぁ同居人てなぁ家族みたいなもんだろう?アタシくらいの年齢なら
今さら人間の若者が身内にいたってそう不思議じゃあないさね!」
「エルフ基準でしょう?レフゥはまだ324歳じゃあないか」
「さんびゃっ・・・!?」
「因みにオッグさんも人間からみれば中々の高齢でございますよ」
「お、オッグさんの年齢は?」
「オイラ、まだ234歳だよ?」
「この世界の長寿種族の感性は10年で1才くらいの感覚ですからねぇ
100歳や200歳くらいで驚いては身がもちませんよ」
ハハハー、と棒読みぎみ笑う秘書さんも実はスゴい年齢なんじゃあ?
そう思ってはいたけど口に出すのはやめておくことにした
失礼ですよ、からの空中コンボが決まりそうで怖いからだ
「自己紹介や二人の種族について理解が深まった事だし
僕らはお暇するよ?明日は3人共
玉座の間に一度立ち寄ってくれるかい?
ヒラノ君の仕事に関して説明するから」
「明日って、今日は特に仕事は・・・?」
「え、ないけど?入社してすぐ仕事しなさいとか
鬼畜な所業させるわけないじゃないか」
ハッハッハ、と笑いながら秘書さんと魔王様は
文字通り飛んで帰っていった
出勤時刻や細かい決まり事に関しての説明は後日行われるらしい
兎に角今日は休んで良い、そう言われたはいいが
「しまった、家具が・・・」
「簡易ベッド用意してあるから、シャワーの後に食事にしようか」
「今日の飯はなんだい?オッグ」
「豚の角煮」
「ぎゃははははははははは!!!!とっ共食い!!」
こうして、異世界における長い一日が終わり
僕の魔王軍で異世界ライフに同僚と呼べる二人と出会えた
ゲーム風に言うなら・・・
エルフ の レフゥ が なかま に なった !!
オーク の オッグ が なかま に なった !!▼