誰も知らない
ショート小説です。
虫がお嫌いな方は、どうぞ御遠慮ください。
よろしくお願いします。
それは宇宙からの侵略者だった。
空から綿雪のように降ってきた侵略者は、地上につくなりプヨプヨと這い出した。彼らの目的は人類への寄生。その体を乗っ取り、自在に操ることでこの惑星を我がものとするのだ。
そこは日本と呼ばれる島国だった。中でも、特に人口密度の高い場所のひとつへ侵略の魔の手は伸ばされたのだ。
小豆ほどの大きさのアメーバが、無数に地上を移動する。人類は誰一人として彼らの存在に気づいていない。勝機は確実に侵略者のものだった。
パクッ、じゅるじゅる!
侵略者たちの動きが止まった。
パクッ、じゅるじゅるじゅる!
多くの侵略者が次々と喰われている。相手は尋常ではない数の黒い存在。怒涛のように押し寄せて小豆大のアメーバを襲ってきたのだ。
思わぬ反撃に、侵略者たちはパニックに陥った。
本当に、あっという間だった。遠い宇宙をさすらった末にやっと見つけた惑星で、ものの数分で全滅させられるとは……。
司令塔の役割を果たしていた侵略アメーバは、高速で襲いくる黒い敵の姿を記憶に焼き付けた。
それはすぐさま、はるか成層圏で待機する母船へ、情報として送られた。
――恐ろしい生命体が存在する。この惑星の侵略は難しい。
情報を受け取るや、母船は宇宙へと飛び立った。
綺麗さっぱりアメーバを喰い尽くした黒い存在も、側溝やマンホールの中へと姿を消し、後にはなにも無かったかのような静寂だけが残った。
害虫として嫌われるゴキブリが、実は地球防衛システムのひとつであることを、人類は誰も知らない。
おわり。
お読みいただき、ありがとうございました。