見知らぬ部屋と見知らぬ人
「――無事でよかった」
目が覚めたら、見知らぬ部屋で、見知らぬ男に抱きしめられていた。
どこここ? 誰この人? 確か……私はエジプト旅行を楽しんでいたはず――。
◆◇◆
私は花鳥二和。某スーパーのチェーン店で働くアラサー女子。
エジプトに訪れたのは、大大大大大好きな漫画『砂の流れにのって』の聖地巡礼をする為。
二十年も連載が続く少女漫画『砂の流れにのって』。
女子高生の主人公、心華美が、古代エジプトをイメージした異世界『エリクリサム王国』に、ある日突然トリップするところから物語は始まる。
トリップ先で華美は商人に騙され、奴隷になってしまうが、旅芸人の男、ヨーラに助けられる。
華美はいつか元の世界に戻れると信じて、ヨーラが属する旅芸人一座と共に、右も左もわからない異世界を旅する――といった壮大なファンタジー漫画だ。
アニメ化、舞台化、映画化……など数多くメディア化されている為、ファンの年齢層が幅広い。私もこの漫画とは小学三年生からの長い付き合いだ。
◆◇◆
「……そうだ……神殿……」
エジプト旅行、二日目。
砂漠に埋もれるようにしてそびえ建つ古代の神殿を拝観していた。
しかし、突如、地平線の彼方から巨大な砂嵐が迫ってきた。
逃げる間もなく、巨大な砂嵐は、神殿を、私を飲み込んだ。
無数の砂塵が私を叩きつけ、あまりの痛みで気を失ってしまった。
そして、気がついたら……
「――本当に無事でよかった」
とよくわからない状況に陥っていたというわけだ。
目を通してくださり、ありがとうございます。