二人の魔女 その一
大洪水が聖域を洗い流した。七日と七夜、大洪水が国中を洗い流し、大舟は嵐のために大波の上でもてあそばれた
(創世記 ノアの方舟より)
コインに表と裏があるように、如何なる物にも表と裏がある。
どのような穏やかな人間にも、裏には凶暴性がある。
どんなに平和でも、裏では平和が少しずつ崩れている。
この世界の裏とは魔女である。
立ち入り禁止の向こう側、入ったら出られない樹海、決して入ることのできない地図にも乗らない孤島。
そのような場所に魔女はいる。
彼女らがどこから生まれて何をしているのか
それは後程また書くとしよう。
釜に材料を放り込んでかき混ぜる、カエルの卵、トカゲの尻尾、サソリのハサミにドクダミの花…。
「あれ?違う…?うーん…おかしいな。」
レシピ通り作れば オニゴロシ という極めて強力な猛毒が出来るはずなのだが、どうにも上手くいかない、温度、材料、全てがちゃんと出来てるはず
「私やっぱりセンスないのかな…」
釜に付いているボタンを押す
底が抜け中身が全て流れた、便利である
また材料をムダ使いしてしまった、これで4回目の挑戦だが全然上手くいかない、3回目は上手くいったと思ったが、試しにネズミにかけてみたら弱まる所か元気になり巨大化して、後始末が大変だった。
ドンドン…ガチャ
「おっすステラー!オニゴロシは作れたか?」
「ノックしてから返事するまで待って、ってもう耳からキノコが生えるくらい言ったよね?
さっき作ってたんだけど中々上手くいかなくてさ…。」
彼女はセキチク、私の昔からの仲で礼儀も恐れも知らない問題魔女、ても魔女としての実力は私なんか足元にも及ばないし全魔女の中でも相当上の方らしい
…更に言うと見た目が10歳で止まっている為実際の年齢はよく分からない、彼女曰く19歳らしいが。
「あっはは…ごめんね、ついいつもの癖でさー。」
「まぁ別にいいけどさ…何しに来たの?」
「んー?いやー暇だったからちょっと観察に来たんだよね」
「観察って…私なんか見てても面白くないでしょ」
「ステラ見てるのが1番面白いよ。」
紅茶を煎れる、お喋りする時にお茶とお菓子は必須、これは私の譲れないところで実際お茶があるか無いかで話の弾みが変わる…気がする
「私もセキチク見てるのは楽しい。」
いつの間にか椅子に座ってたセキチクの前に、甘い紅茶の入ったティーカップとほんのり蜂蜜の香りのするクッキーを出す。
部屋内を甘い匂いが満たす。
「そうだそうだ、あの噂知ってるか?」
クッキーを口に頬張りながら私に問いかけてきた、数日まともに外に出てなかったので何の噂なのかさっぱり分からない
「あの噂…?なにそれ。」
「ノストラダムスの予言の話!」
王が森を盗み、空が開け、大地は熱で焼け焦げる…だっただろうか
どうやら今年の話だ、今年の話だ、と表の人間達が騒いでるらしい…がこれは最近の噂ではなくもう数週間前から騒がれてる。
「あー…それは知ってるけど。」
「何だよ知ってんのかよ…。」
凄く残念そうな顔をして言う、知らないふりをしてあげた方が良かったかな。
「セキチクは信じてるの?」
「勿論!こういうのは信じてた方が楽しいからね〜!」
笑顔が戻った、恐らく本心では本当に起こるとは信じていないのだろう。
「ステラは?」
「私も、信じてるかな。」
なら私も楽しむべきだろう、この偉大なる詩人の嘘を。