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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
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蓮の間-2-


蓮の間から出て階段を降りる。

また長い通路を歩き出す。

聞こえるのは私の足音だけ。


「外に、出たいか。琴子。」


お父様の言葉が何度も頭の中に鳴り響く。

外へ出たいと応えれば、お許しがもらえるのかな。

もらえるのだとして。

私は、どうしたいのでしょう。

いざ外に出れるかもしれない!となると、こんなに悩んでしまうことになるとは夢にも思っておりませんでした。


コツン、コツン。

ぼんやりと考えながら出口へ向かって誰もいない通路を歩く。


私は何のために外の世界へ行くのでしょう。

今の城内での暮らしに不満を感じたている訳ではないし、お父様、お母様、そして緑綬、結奏もいる。


でもいつも緑綬から聞くその世界のお話は本当に楽しくて、聞いていると心が踊る。

外へ出てみたいという好奇心は確かにあって。

でもなぜかとても不安にもなる。

いつも読んでいる本の世界のように、旅に出るわけでもないのに、考え過ぎでしょうか。


でも一歩も外に出たことがない私にとっては、ほんの少し城下町へお買い物に行くことすら、大冒険のように感じられるのです。

お母様が城下町の視察へ行った日から眠りにつき、目覚めなくなってしまったということも考えると…

ますます不安になります。


何かを変えるということ、日常を変えるということは。

ほんの些細なことでも、こんなにも勇気がいるのですね。


出口の扉まで辿り着き、一息つく。

そっと扉を開けると、結奏が迎えてくれる。

「姫様!おかえりなさいませ!」

元気いっぱいに迎えてくれる結奏にほっとする。

まずは部屋に戻ることにした私たちはゆっくりと歩き出す。


「姫様宛に、民たちからたくさんの手紙が届いているのですよ。読むのが楽しみでごさいますね」

私の誕生日を祝ってくれる城下町の人々や民たち。


会って、みたいな。

会ってお話をして、直接お礼を伝えて。

城の外の話もたくさん聞いて。

きっと楽しい時間になりますね!


部屋について、いつもの窓際の椅子に座る。

結奏は部屋まで届いたティーセットでお茶を準備してくれています。


今日は色々なことがあったな。

紲菜さんにドレスを着せてもらって。

目を輝かせる紲菜さんに憧れて。

式典をして、お母様に会って。


式典の前には、緑綬に大切な話があると言われて。

バルコニーの前では、緊張している私の手をそっと握ってくれて。


「姫様、お茶をどうぞ。お疲れの様子ですが、大丈夫でございますか?おひとりになられますか?」

確かに少し疲れました。

色々なことがあって、お父様のお話もあって。

でもなぜかひとりになりたくなくて。

「いえ、私は大丈夫ですよ。良ければお話をしませんか」

「もちろんでございます!」

結奏が近くへ座る。


「今日はなんだかとても長い一日でした」

「朝早くから準備や式典に追われておりましたものね。本当にお疲れ様でございます」

結奏が心配そうに私の顔を見ている。


それから私は蓮の間での出来事を結奏に話しました。

「城下町への視察のあとに目が覚めなく…そうだったのですか」

うーんと結奏も考えている。

「お母様が眠りについてしまった原因は未だわからないのですが、城下町で何か手がかりになるようなものに心当たりはありませんか?」

「そうですね…」


結奏は少し考えている。

窓から風が入った風が、彼女の前髪を揺らす。

先程までの湿った空気とは違う、緑の香りがする柔らかな風。


「手がかりになるかはわからないのですが、以前城下町で、眠れない時にこれを飲むとよく眠れるんだ!と知人に水筒のようなものを見せながらお話をされている方は見たことがあります」

「よく眠れる…水筒ということは飲み物なのでしょうか?」

「おそらく飲み薬かと思うのですが…」

私はその言葉に希望を感じて、結奏に前のめりに話しかける。

「もしお薬だとしたら、解毒剤のようなものがあるかもしれませんよね!」

「ただ、もしそのようなお薬や解毒剤があるならきっと、城の名医の方々がとっくに試されているのではないかと思いまして…」

そう言って更に他には何かなかったかなと考え込む結奏。


確かに、私がまだ幼くて記憶がないような頃から名医の方々は色々な方法やお薬を調べて下さっているはず。

私たちに手伝えるようなことはないのでしょうか。


でもそのお薬らしき飲み物、気になります!

どんな味がするのでしょう?香りは?色は?

いつか見てみたいですね!


「姫様、緑綬様をお呼びしてはいかがですか?城の外へ出られるかどうかもですが、先程の飲み物の話も、もしかしたらご存知かもしれません」

確かに、緑綬も何か聞いたことがあるかもしれませんよね。

それに式典のあとお話があると言っていましたし…

「では手が空いたら私の部屋に来ていただけるように伝えてもらえますか?」

「かしこまりました!」

結奏が外の警護の方へ伝えにいく。

また緑綬から外の世界の話が聞けるかと思うと、鼓動が少し早くなった。


窓の外を見る。

いつもと変わらない景色。

私も何かお母様の力になれるといいのですが…


風がそよいで木の葉を揺らす音が、不安と心地良さの交じった私の耳に響いた。

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