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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
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生誕祭


背筋を伸ばして、正面を向き、バルコニーの扉が開くのを待つ。


さっきまでざわざわと聞こえていた人々の声が、まるで世界に私ひとりだけになってしまったかのように静まり返っています。

いつもは聞こえる風のそよぐ音、鳥達のさえずりも聞こえない。


やはりたくさんの人の前に出ていく、というのは緊張するものです。

幼い頃はなんだか楽しくて嬉しくてこの扉が開くのを今か今かと待ち望んでいたものですが…

今の私は、民の顔が見れる喜び以上に、たくさんの方に注目されるという事実に、とても緊張しています。


目を閉じて左手を胸に当てる。

鼓動が早い。

落ち着かなくてはいけないのですけど、落ち着かなければと思えば思うほど緊張してきました。

そんな自分の心と戦っていると。


右手に優しくあたたかいものが触れた。

一瞬にして我にかえり、世界に色や音が溢れました。

このあたたかいものが、緑綬の手だと、すぐにわかったから。


「姫様、民が心待ちにしております。参りましょう」

いつもと違う場所で見る、いつもと同じ微笑み。

緑綬の微笑みは、これほどまでに私の心を安心させてくれるのですね。

もう一度目を閉じる。

でもさっきとは心持ちも、聞こえてくる音も、見える世界も、全てが違う。

「参りましょう」


バルコニーの両扉が同時に開く。

私は前へゆっくりと歩み出す―。



その後の式典や挨拶の内容は、正直に言ってあまり覚えていません。

でも粗相なく出来た…と思います。

挨拶も臣下たちが考えてくださったものだし、余計に話したことを覚えていないのかもしれません。


いつかは自身の言葉できちんと伝えたいと思うのですが…

いざ、年に一度の式典にて民に伝えたいことは?と聞かれると、なかなか思い浮かばないのです。

城内の方々へ向けてでしたら、なんとか出来そうなのですが。

ただそれでも、こうしてたくさんの方が集まってくれて生誕祭を祝って下さる。

いつかは私が守っていく国、都、民…

頭では理解しているのですがそんなことは遥か遠い未来の話だと思えてしまって、現実味がわかないのです。


「姫様!お疲れ様でございました。本当にお美しい見目もさることながら、凛とした挨拶、民たちに手を振る優雅な物腰…全てが素晴らしかったです!感動がおさまりません!」


凛とした挨拶。それはただ緊張していただけのような…

部屋に戻った私へ、式典の感想を結奏が熱く語ってくれています。

先程までの非日常とは違う、いつもと変わらぬ日常に、私は思わず「ふふ」と笑ってしまいました。


「失礼致します。姫様、お召かえの準備に参りました」

徹夜明けとは思えないほどの明るさとテキパキとした様子で紲菜さんがいらっしゃいました。

目がとても輝いて見える。

本当にデザイナーのお仕事が大好きなのですね。

私も姫の仕事をこのように輝いた目で出来たらいいな。

紲菜さんの隣でお手伝いをしている結奏もとても楽しそうです。

結奏もデザイナーや着付けのお仕事、向いているのではないかしら?


このあとは城内で来賓の方やお偉いさま方、そして城の者達に挨拶です。

民の前に出る時はあれほど緊張した私ですが、城内での式典は緊張致しませんよっ!


ただひとり、お母様を除いては…

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