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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
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日常


城の一室。

今日も天気が良い。

窓から入り込む木漏れ日が暖かい。

今日は城内での執務に参加するので、正装に着替えているところです。

着替えを手伝ってくれているのは侍女の霞ヶ関結奏(かすみがせきゆいか)です。

彼女とは歳も近く、女の子ならではの悩みなども聞いてもらっています。

小さな顔に短い髪がよく似合う。

背は私の方が少し高いです!


「姫様、お待たせ致しました、準備が整いました」

にっこりと笑う結奏。

「今日もお美しいです、さすがは私の姫様です!」

恍惚とした表情でため息をもらす。

「では、楠木様をお呼びいたしますね」

丁寧に頭を下げながら部屋を出ていく。


それから緑綬が来るまでの間、少しだけひとり。

用意されたお茶を飲みながら、いつもの窓際の椅子に腰掛ける。

今日も窓の外は百花繚乱の花々が咲き乱れ、美しい庭園が広がり、空があおい。

そよぐ風におくれ毛が顔にかかる。

いつもと変わらぬ日常。


もうすぐ緑綬が迎えにきて、私は執務に向かう。

偉い大人の方とお会いしてご挨拶をして、お話を伺う。

緑綬の話と同じように、私にとっては外の世界を少しでも知る大切な機会。

だけど、緑綬の話を聞いているようなワクワクするような気持ちはあまりなくて。

やはり少しお話がかたいとでも言うのでしょうか。

緑綬の話はいつも自身が体験した話だから臨場感があって、まるで私も一緒に出かけているような気持ちになれる。


いつか、緑綬や結奏と共に街に出かけることが出来たら、どんなに楽しいだろう。

もしそんな日が来たら、私は何がしたいかな?街の雑貨屋さんで可愛いお土産を選んでみたい。

お母様にお渡ししたい。

お父様にお願いしてみようかな?

何度も何度も断られ続けているけれど。

それでも出かけてみたいのだと、街で少しでもいいから遊んでみたいのだと。


そんなことを考えていたら、いつものようにドアをノックする音が聞こえた。

「姫様、失礼致します」

緑綬がお辞儀をしながら入ってくる。

「執務まではまだ時間がありますが、早めにお迎えにあがりました」

私はその言葉を聞いてとても嬉しかった。

少しの時間でも私に早めに会いにきてくれたこと、また、お話が聞けることに。

「では少しの時間ですが、また外のお話をきいても?」

「もちろんでございます」


緑綬のお話は本当に楽しくて、時が経つのを忘れてしまう。

話が一区切りついたのでふたりでゆっくりとお茶を頂く。

カップに浮いた花びらを見ながら緑綬の話を振り返る。うん、やっぱり近々お父様にお願いしてみよう!外にお出かけがしたい!


「明日はいよいよ姫様の生誕式典でございますね。場内はもちろんのこと、城下町、国中が浮き足立ってございますよ」

「私も楽しみにしております」

式典では民にも庭園が解放され、たくさんの方々のお顔を見ることが出来る。

毎年楽しみにしている行事です。

「城へ来られない遠くの民も、それぞれの街で姫様の生誕祭を祝っていますよ」

この言葉はやはり外に出たことがない私にはピンとこない。

庭園に来られない方はどのように私の誕生日を祝ってくれるのだろう?

私を見たことも会ったこともないのに喜んで下さるのかしら?

「では姫様、そろそろ執務へ参りましょうか」

「ええ、参りましょう」


私は緑綬の手を取り歩き出す。

この時の私はまだわかっていなかった。

このままこの日常がいつまでも続く訳では無いこと、本当の意味で、城の外のことを何も知らないことを。

この話から桜姫視点です。

結奏ちゃんも初登場。

緑綬との暖かい時間が伝われば嬉しいです。

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