表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
3/34

木漏れ日


窓際のお気に入りの椅子に腰掛け、いつものように本を読んでいた。

暖かな日差しが差し込む大きな窓。

優しく風が吹き、柔らかなスカートのレースが膝下を撫でる。

本を閉じふと空を見上げる。


「今日も良い天気」


大きな目を柔らかく閉じながら桜姫はそっと呟く。

変わらぬ日常、暖かく花々に囲まれた日々。


ここは花の都の王城である桃桜殿(とうおうでん)

桜姫。彼女は王の一人娘、桜ノ宮琴子(さくらのみやことこ)

生まれてから16年。一度も城の外へ出たことがない。

城の敷地は、大庭園を含めるとまるでひとつの街かのように膨大ではある、あるのだが。

外の世界のことは本で読むだけ、城の中の世界が彼女の全てだった。


―コンコン。


ドアをノックする音。

「どうぞ入ってください」

桜姫の言葉を聞き、ドアが開く。


「失礼致します、お茶をお持ち致しました。」


楠木緑綬(くすのきりょくじゅ)

背が高く細身ではあるが武術に長けており、桜姫の護衛役である。

木漏れ日が彼の美しい黒髪を透かしていた。


「本日の執務はございませんので、どうぞごゆるりとお過ごしください」

少し目にかかる前髪から見える切れ長の目、優しい眼差しで桜姫を見つめている。


「本が…」

膝の上に置いた手をぎゅっと握り、桜姫は俯く。

「本が、もうありませんの、全部読んでしまいましたから…その…新しい本が欲しいです」

隣に立つ緑綬を見つめる。

「今すぐに本を用意することは出来ませんが、代わりに私が以前出向いた城下町でのお話を聞いて頂けますか?」

「喜んで!」

満面の笑みで話を待つ桜姫。


城から出れない姫のために、日々新しい本はたくさん用意されており、全て読んでしまったというのはもちろん嘘である。

これは、彼女なりの甘え方であった。

緑綬の話す城の外の話は彼女をとてつもなく魅了した。

そしてひとりで過ごす昼下がりよりも、ずっと楽しい時間であった。


生まれた時からこうした日々を送り、一生この日々が続くのだと思っていた。

不満もなかった。

この生活しか知らなかったから。



―――――――――――


まずは物語のスタート、桜姫の日常。

次回から本格的にお話が動き出します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ