城下町
ひらひらと舞う花びらが私のつま先の少し前に落ちた。
頬を撫でる涼しい風。
城下町の入口で、各代表の方々が私達を迎えてくれる。
にこやかに歓迎して下さいました。
周りに集まった民衆達は、背伸びをしたり前かがみになったりしながら私を見ようとしています。
生誕祭などで城のバルコニーから民達へ挨拶をすることはあっても、こんなに近くでこんなにたくさんの人に囲まれるのは初めてで、少しだけ怖かったです。
でもそんな不安はすぐに消え去りました。
こちらに手を振ってくれる方、「姫様ー!」と笑顔で叫んでくれる方。
皆が歓迎してくれている、喜んでくれている雰囲気を感じて、私も笑顔になる。
「姫様、ぜひ手を振り返してあげてください、きっと皆喜びますよ」
上機嫌の結奏に促され、私は手を振り返す。
どっと歓声が上がる。
生誕祭の時も感じた不思議な気持ち。
皆はどうしてこんなにも私に会うことを喜んでくれるのでしょうか。
私も今、民達の顔を近くで見ることが出来て嬉しく思っています。
誰かと会うということは、こんなにも嬉しいこと。
不思議な気持ちの答えは見つからないけど、私は今とても嬉しくて、民達もとても喜んでくれている。
その事実だけで充分に幸せなことですよね。
私達一行は城下町内へ一歩一歩と歩き出す。
道を開けてくれいる民達は、ずっと手を振り声をかけてくれています。
ふと、緑綬がこちらを見ている視線に気づき、振り返る。
少し心配そうな顔。
「姫様、私共が付いております。
ご安心下さいませ」
私はそんなに不安そうな顔をしてしまっていたでしょうか。
心配をかけてしまったことに申し訳ない気持ちになりながら、私は微笑みを返しました。
慣れない光景に戸惑いはあるけれど、せっかくこうして皆が喜んでくれているのですから、私も楽しまなくては。
心配をかけてしまっているようでは駄目ですね。
そわそわと周りを見渡しながら楽しそうに歩いていた結奏が足を止める。
「姫様!こちらをご覧下さいませ。
少し覗いて参りませんか?」
結奏の言葉に頷き、私はその店に入ることにする。
きらきらと輝く小さなアクセサリーや置物を売っているお店。
陽の光に照らされて、小さな光をいくつも反射しています。
「まぁ姫様!
ようこそいらっしゃいました。
姫様がいらっしゃると聞いてずっとずっと楽しみにしていたのですよ。
昨日も楽しみで眠れなくて…」
お店のご婦人が歓迎してくれる。
ご婦人は髪を後にまとめていて、その耳の上には小さな花をかたどったアクセサリーがついていました。
桃色のそれは、光に当たると青く見える。
私が不思議に思って見つめていると、ご婦人が声をかけてくれる。
「こちらが気になりますか?」
「あっ、ええ。
とても綺麗だなと思いまして…。
色が変わるのですね」
「ええそうなんです!
こちらの石はこの小さなガラスの中に入っているのですが、こうして…」
ご婦人がつけているアクセサリーと同じ者を売り場から手に取り、太陽に当てて見せる。
「陽の光が当たると、ガラスとの反射でこのように桃色から青色に見えるようになるのですよ。
私も気に入っている自信作です!」
得意気に微笑むご婦人。
私も話を聞いていて楽しくなってきました。
城にあるアクセサリーとはまた違う、一つ一つ同じ物でも形が違うアクセサリー達。
私はその中から一つ選び、ご婦人に渡す。
「こちらを頂きます!」
「まあ、ありがとうございます姫様。
よろしければ、このままつけて行かれますか?」
「はい!ぜひそう致します」
きらきらと光る小さな小さなアクセサリー。
結奏に髪につけてもらって、私は上機嫌です。
「姫様、よくお似合いですよ!さすがは私の姫様です!」
いつもより元気な結奏が今日もまた恍惚とした表情で私を見ています。
私も思わず笑顔になる。
振り返ると、先程のお店は大混雑!
大勢の人々が押し寄せていました。
「私にも姫様と同じアクセサリーを!」
「その髪留め下さい!姫様と同じ色の!」
「私も!これにします!」
同じように振り返って見ていた結奏がこちらに向き直る。
その表情はすっかり落ち込んでいます。
「結奏、どうしたのですか?」
「私も姫様とお揃いのアクセサリーを買っておけば良かったと思いまして…」
俯く結奏に声をかけようとした瞬間、つい今まで落ち込んでいたとは思えない程に明るい笑顔で顔を上げた。
「でも!また次回城下町に来た時に必ず買ってまいります。
私も姫様とお揃いです」
表情がくるくると変わる結奏は見ていて飽きません。
私はまた笑顔になる。
緑綬も少し呆れながらも、にこやかに私達を見守ってくれている。
こんなにも暖かくて優しい時間。
騒がしいけど一つ一つが楽しくて。
ここへ来て本当に良かった。
そう実感しています。
街の代表として案内をしてくれている方に、要所要所で街の施設や歴史について話を聞きながら、私達は城下町をゆるりと歩く。
長い歴史の中で生まれた建物、いつ出来たのかわからないながらも今も民達の生活に役立っている橋。
様々な物に触れ、話を聞き、人々がここで暮らしてきた時間を想う。
私がいつか守っていかなけらばならない民達。
この平和な時間がいつまでも続くように、私はしっかりと頑張っていきたい。
そう、心から思いました。
「姫様、お疲れではございませんか?
そろそろ休憩に致しましょうか」
緑綬に声をかけられ、私も頷く。
「少し喉が乾きましたね」
「姫様、でしたら少し先に噂のアロマティーのお店がありますよ!
そちらに参りませんか?」
目をきらきらと輝かせる結奏。
アロマティー。
睡眠やリラックスなど様々な効果があるとして民達の間で人気が出てきているというお茶。
今回の視察のきっかけの物でもあります。
私達はアロマティーのお店へと足を進める。
どんな味がして、どんな香りがするのでしょう。
私は期待に胸を膨らませる。
「姫様!見えて参りましたよ、あちらの赤い椅子が並んでいるお店です!」
元気いっぱいな結奏がお店を見つける。
店の横には木があって、はらはらと桃色の花びらを散らせていました。
ふと、足が止まる。
時が止まったかのような感覚。
私は見覚えのある人影に息を飲む。
鼓動が高鳴る。
光に透けて碧くも見える美しい髪。
さらさらと風に揺れている。
隣には穏やかに微笑みながらも姿勢を正し、座っている彼を見つめるお爺様。
執事の方、でしょうか。
彼はリラックスした様子で椅子に腰掛けている。
彼の周りだけ時間の流れが違うような、そんな印象を受ける。
ざわざわと騒いでいる街の声が遠くなる。
静かに桃色の花を咲かせる木を見つめる碧い瞳。
その表情からは、彼が今何を想い、何を考えているのか、何もわからない。
ただただ喧騒の中で、彼の周りだけが別世界でした。




