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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
23/34

視察に向けて


両手を組んで思いっきり背伸び。

そして深呼吸。

緑の香りが心を落ち着かせてくれる。

執務をする際に使っている机から離れ、いつもの窓際、いつもの椅子でハーブティーを頂いています。


お父様に城下町の視察の許可を頂いてから数日が経ちました。

あれからの毎日は目まぐるしく過ぎていき、時間が経つのもとても早かったように思います。


正式に視察が決まったことにより、緑綬や結奏だけでなくたくさんの方が、私達の為に動いてくれています。

広報の方、警備、警護の方々やそれらを取り仕切る大臣、そして紲菜さんも!


紲菜さんは、花の都が世界に誇る若手人気デザイナーです。

私もそのデザインはもちろん、人柄が本当に素敵で憧れています。

何よりもその人に似合うデザインを届けることをモットーに活動してらっしゃいます。

生誕祭のドレスも仕立てて頂きました。

そして今回視察へ行く際のドレスも紲菜さんに仕立てて頂きます!

歩きやすく、活動しやすく、それでいて上品に。

そして何よりも、私に似合うデザインを、と何度も仰っていました。


城下町の民達も、私が来るのを楽しみにして下さっているようです。

とても盛り上がってくれているようで、その報告を聞く度に、少しでも民の役に立てているという実感が湧き、嬉しく思っています。

本当は全てのお店にお邪魔したいし、私が来ることを喜んでくれている民達全員に会いたいと思っていますが…。

現実には難しいので、時間配分や警護の流れもしっかりと考えて行かなくてはなりません。


こうして本当にたくさんの方が協力してくれて、毎日細かい報告書や計画書を持ってきて下さいます。

普段からこうした行事を取り仕切っている大臣にも、私が代わりにまとめますよと何度も何度も気を使って頂いたのですが…。

今回はどうしても私がやりたくて、お断りをしています。

もちろん、一人では出来ないことがたくさんあるということは充分に理解しているので、各部署の皆さんの力をお借りして頑張っています。

それにしても…。


「ふぅ…。」

おもわずため息。

いざやり始めると、やらなければならないこと、考えなければならないことが山のように出てくるのです。

とても疲れるけど、充実感のある毎日。

私にとってここまで自分で行う執務は初めてです。

そう言った部分も、大臣や各部署の方々が手助けをしてくれています。

本当に改めて、皆さんのおかげです。


―コンコン。

「どうぞ。」

「失礼致します!」


こうしている間にも、各部署からの報告書や提案書が届きます。

日程は皆さんと相談して、いくつかの候補の中から一番早い日付を選んだのです。

それもあって余計に慌しくなってしまいました。

それでも皆さん楽しみだと言ってくれます。

こんなにありがたいことはありません。


毎日、あと何日、あと何日、と数えている自分がいます。

本当に楽しみです!


―コンコン。

「どうぞ。」

「失礼致します。」


今度は緑綬と結奏が来てくれました。

ちょうど空き時間が被ったようです。

こうした隙間時間にも、私を手伝ってくれる二人。

この二人がいなければ、私は王女としての一歩を踏み出せていなかった。

この気持ちをずっと忘れないようにしていきたいです。


「随分と完成に近づいて参りましたね!」

日に日に分厚くなっていく計画書を見ながら、結奏が嬉しそうに声をあげる。

「姫様、こちらなのですが…。」

計画書をこちらに向けながら、緑綬が説明をしてくれる。


こうした時間が本当に幸せで。

ずっとずっと、このような日々が続けばいいなと思います。

でも、もしかしたら。

この視察が終われば、私の日常は元に戻れないかもしれない。

お母様と同じように目覚めなくなるかもしれない、という不安ももちろんあります。

でも、それだけではなくて…。


私はこの視察のあと、緑綬と話をするつもりです。

ずっとずっと避けていた、緑綬が結婚する…という話です。

私は、緑綬がその話をするのを避けてきました。

今思えば私は自分の気持ちばかり考えていたように思います。

緑綬は生誕祭のあと、意を決して私に報告してくれたのに。

私がいつまでも話を聞くことから逃げていてはいけませんよね。

きっと話を聞けば…

私が緑綬に対して思うこのもやもやとした気持ちも、はっきり分かると思うのです。

聞きたいけど聞きたくない。

だけど、もう逃げません。


ハッと我に返る。

結奏が私を見つめている視線に気が付きました。

目が合うと、結奏は優しく微笑んでくれる。


私は緑綬を見つめていたようです。

さらさらと風に揺れる前髪。

光に透けて優しい色を放つ綺麗な黒髪。

切れ長の瞳にかかる長いまつ毛。

いつでも傍にいてくれて、いつでも味方でいてくれた緑綬。

もしかしたらこの先、こんなに近くで見ることが出来なくなる日が来るのでしょうか。

そう思うと、心がずっしりと重くなりました。

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