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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
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初めての色


ふわりふわりと舞う綿毛が月に照らされながら風に流されていく。

どこから来て、どこへ向かうのでしょうか。


一人でいるとあれもこれもと思い悩んでしまっていた私ですが、今は前向きに提案書と向き合っています。

夜になり、緑綬と結奏が部屋を訪れました。

城下町の視察についての会議です!


「視察に行くと発表すると言っても、民達が心配せぬよう、あくまでも姫様が民達と触れ合うのが目的であるのだと、明るいニュースとして伝えることも大切ですね。」

「広報の方にもその旨はしっかりとお伝えしなければ!こちらは私にお任せ下さいっ。」

「お父様もお忙しいですから、私達の提案書が出来ても、以前と同じようにすぐにお会いすることは難しいですよね。」

「まず姫様が国王陛下にお会いになるまでに数日、陛下が許可を下さったとして、その後は警備、護衛の人数調整、配置の割り振りなどもありますから、日程はこの当たりが良いかと…。」

「姫様が歩かれる道順も決めなくてはなりませんね!」

「地図を用意してきましたのでここから…」


次々と意見が飛び出して、私達の会議は進んでいく。

一人で考えていた時は気付かなかったことに誰かが気付いたり、そのことについての提案があったり…。

この二人が居れば、何でも出来る気がした。

心強くて心地良い…。

二人との時間は、先程までの時間とは大違いです。

気付けば提案書をは何枚にも膨れ上がっていました。


日程の大まかな調整。

警備警護の方々の予定や人数の確保の詳しい提案。

広報の方にもお伝えする、あくまでも明るい視察であるということ。

視察をする道順。

所要時間。

一人で悩んでいた時はなかなか進まなかったのに、三人で考えていると、あれもこれもと次々に気付きがありました。


時間が経つのも忘れて没頭していた私達。

まだお父様の許可が出ていない現時点で考えられる限りのことは考えたつもりです。

提案書も形になりました。

気付けばすっかり遅い時間。


「では早速明日にでもお父様に提案のお時間を頂けるように伝えてみます。」

私が二人に微笑むと、緑綬が小さく頷いた。

「姫様も仰られていた通り、おそらく数日はかかるかと思います。

その間にも、何か気になることがありましたらぜひご相談ください。

私も見落としがないか、再度考えておきますので。」

緑綬言葉に心が明るくなる。

「私も考えておきます!

侍女の皆さんの予定の確認もお任せ下さい。」

結奏が胸を張って明るく答える。

思わず笑顔になりました。


二人が出ていき、部屋に一人。

また少し暗いことも考えてしまったりはしますが、それでも今の私にはこの提案書があります。

三人で考えた、私達の想いが詰まった提案書。

お父様は許可して下さるでしょうか。

私もしっかりとお父様へお伝えしなければ!

何度も何度も提案書を読み直す。

気付いていないことは?見落としは?

ついつい気になり、ペンを置いて寝ようとしては、また起きて、そしてまた寝ようとしては起きて…

私の夜はなかなか寝付けないまま、更けていきました。


―――


鳥達のさえずりが聞こえる。

カーテンの隙間から漏れる朝陽。

寝不足で少し重いまぶた。

ゆっくりとベッドから降りて、カーテンを開ける。

今日は曇りです。

雨も降りそうでしょうか。

空が暗い。

晴れの日が一番好きだけど、こういったお天気のときにだけ見えるお庭の景色もあるのですよ。


身支度を整え、朝食を頂き、ハーブティーで一息。

お父様は本当にお忙しい方です。

日々大臣、臣下、民達が謁見する予約も詰まっているし、他にも会議があったり、計画書を読み、具体的な指示を出したり、提案書に許可を出したり。

私では想像も出来ないほど目まぐるしい日々を送っていらっしゃいます。

そんな予定がびっしりのお父様にお会いするためには、まずは大臣にお父様へお会いしたい旨を伝えに行かなければなりません。

それでも、以前のお話の際には三日後にはお話をする時間を頂けました。

お父様が私の為に予定を調整してくれたのがわかります。

本当に感謝しなくては。

だから、今回もお時間を頂いたときにしっかり話せるようにしなくては!


―コンコン。

「どうぞ。」

ドアへ向かって声をかける。

「姫様、お迎えにあがりました!」

明るく元気な結奏を見ていると、私の気持ちも明るくなります。

私達は並んで、お父様のスケジュールを管理している大臣の元へ向かう。


廊下を歩いていると、前から見慣れない男の方とお供の方が歩いてきました。

私や結奏と同じ歳くらいでしょうか。

歩く度に、さらさらと揺れる前髪。


陽に透けて美しい、碧い髪―。


思わず見とれてしまうほどに綺麗な色。

緑綬の黒髪に少し青を足したような、なんとも表現し難い色。

お供の方は背が高く細身のおじい様。

眼鏡をかけて、とても優しそうな微笑みを浮かべています。

背筋はピシッと真っ直ぐ、細身ながらもしっかり鍛えられていることが、服の上からも伝わります。


私達とすれ違う前に、彼らは廊下を曲がるようです。

まだまだ遠くの廊下の角で、彼等は立ち止まり、丁寧なお辞儀をする。

私達もお辞儀を返す。

「姫様、あちらの方々はご存知でしたか?」

興味深々な結奏。

「いえ、私も初めてお会いしました。」

城の中にいらっしゃるということは、お父様に会いに来たのでしょうか。


私達は無事に大臣にに伝えて、部屋に戻りました。

あとはお父様からの日程のお返事を待つばかりです。

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