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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
20/34

姫様の憂鬱


ふわふわとカーテンを揺らす風。

ゆったりと流れていく空気。


緑綬と結奏と別れ、今は部屋に一人。

今日の夜に緑綬と結奏と話し合うので、私も今出来ることを考えようと、机に向かっています。

お父様への提案書も書ける部分は先に書いておかなければ。


きっかけは、私の生誕祭の日。

お母様の眠る蓮の間でのお父様の一言。


「外に、出たいか、琴子。」


私はお父様のこの一言で、出たいと答えれば城の外に出られるようになるものだと思っていたのです。

そして、いざ出られるかもしれないと実感したとき。

私はすぐには答えを出せなかった。


私はずっと城の外に出たことがありません。

桃桜殿はそれ自体が街と言われる程に、庭や他の屋敷などの敷地を合わせればとても広いです。

それでも私の行動範囲はその中だけ。

私の楽しみは、たくさん用意して頂いている本を読むこと。

本の世界に没頭すれば、広い世界を旅することだって出来る。

そしてハーブティーを飲むこと。

そして。

一番の楽しみは、緑綬の話を聞くこと。

緑綬は、私の知らない城の外の世界の話をしてくれます。

私はその話を聞くのが本当に大好きで、いつも楽しみにしていました。


そんな平和な毎日が、ここ数日で大きな変化を迎えました。

緑綬が結婚する、と報告を受けたこと。

そして私はその先を聞くのが怖くて、ずっと避けています。

緑綬もあれから、その話については触れません。

今はそれとは別に私が城下町へ行く計画についての話を進めているので、話すタイミングがないとも言えるのですが…。

ずっと避けてはいるものの、本当は聞きたいことがたくさんあるのです。

結婚…ということは。

好きな人がいるということで…

それも、一生一緒にいることを誓えるほどに。

私は城の中の緑綬のことしか知らなかった。

そのように想える相手と、どこで出会って、どんなことを話して、どんな時間を共に過ごして来たのか…。

本当はとても聞きたい。

でも、いざ緑綬を目の前にすると、聞きたくないと強く思ってしまって、思わず話題を避けたり聞かないようにしていました。

いつかは全て知る日が来る。

それは、分かってはいるのですが…。


私は緑綬に恋をしている…のでしょうか。

緑綬のことはとても気になるし、知りたいとも思う。

結婚すると聞いたときは落ち込んだし、お相手が気になりもします。

でもこれが恋と呼べるのかどうか…。

私にはまだはっきりとわからないのです。


そしてお父様との話のあと、城下町で流行っているというアロマティーの話を聞きました。

これを飲むとよく眠れる、と噂の飲み物。

他にも様々な種類があるようですが、眠れるアロマがあるのであれば、目が覚めるアロマもあるのではないか。

そう思いました。

そしてそれは、お母様を目覚めさせる手がかりに繋がるのではないかと期待を抱きました。


お母様と話がしたい。

私は、眠っているお母様しか知らない。

私が2歳の時に城下町へ視察に行き、その日の夜から眠りについたままだとお父様に聞きました。

私は幼い頃から、返事のないお母様に話しかけは、どこか寂しく想い、傷ついていました。

返事がないことなど最初からわかっているのに。

お母様の声が聞きたい。

お母様に名前を呼ばれたい。

お母様に褒められたい。

ずっとずっと、そう思ってきました。


そしてお父様へ報告に行き…。

私の考えは本当に浅かったこと。

王女としての自覚が足りなかったこと。

もしかしたら、緑綬や結奏は私と城下町へ出かけるのを快く思っていないかもしれないということを知りました。

今思い出しても胸が痛い。

そしてそれでも尚、二人と城下町へ行きたいと強く想っている自分にも戸惑いました。


結奏と話した後は、結奏を落ち込ませてしまい、私自身も落ち込んだまま、解決の糸口が見つかりませんでした。

そして私が出かけることで迷惑をかけてしまうのなら、もうこのまま…今までと同じように、城の中だけで暮らして行くのが良いのかと、諦めかけていました。


そんな想いの中、緑綬と話をしました。

緑綬はすぐに二つの提案をしてくれました。

一つは、お忍びで城下町へ行くということ。

そしてもう一つは、私が城下町へ行くと事前に発表し、視察という形で外へ出ること。

私は後者を選びました。

そして…

緑綬に王女らしくなったと褒めてもらいました…。


今日の夜はいよいよ二人と細かい部分を詰めて、お父様への提案書も作成していきます。


「ふぅ…」

コロンとペンを机に転がし、伸びをする。

伸びた背中が気持ちいい。


「早く夜にならないかな…。」


コソッと呟いた独り言。

聞いているのは、窓から流れるように入ってくる風だけ。

早く会いたい。

緑綬にも、結奏にも。

この先の希望が見えたとは言え、一人になると不安になります。

こうして悲しかった出来事を思い出してしまったり、このままでいいのかと不安になる。


少し気分転換をする為に、外にいる侍女にハーブティーをお願いしました。

今日は少し鼻にツンとくる、爽やかな香り。

このハーブティーよりも香りがするというアロマティー。

一体どんな味がするのでしょう。


窓の外を見る。

小鳥が木の枝から空へ飛び立つのが見える。

私も、一歩を踏み出さなくてはいけませんね。


この提案が通って、お父様から許可が出れば、私は城下町の視察へ行く。

そして。

その視察が終われば、ずっと逃げていたことに、向き合おうと思っています。


緑綬の話を聞く。

結婚するという話を、改めて…。


そう思うだけで、胸がチクリと傷んだ。


でも、決めました。


そして一人になるとついつい考えてしまうことがもう一つ…。

お母様が城下町の視察に行った日から目覚めないということ。

そしてその原因が未だにわからないということ。

もし、私も目覚めなかったら…?

今まで口にはしていませんが、そう思ってしまうことは何度もありました。

でも緑綬や結奏、そして城下町の人々で、眠りについて目覚めなくなった人の話は聞いたことがありません。

そのことで、きっと大丈夫だと安心する。

でももしかしたら…と、この繰り返し。

そしてどんどん気持ちが暗くなる。


お父様も、そうだったのでしょうか。

原因が分からず眠り続けるお母様。

私に城の外から出ることを禁止していたお父様…。

私も同じようになってしまうのではないかと、何度も何度も不安になっていたのでしょうか。


なかなか筆が進んでくれない提案書とにらめっこしながら、ずっとこんな風に今までのことを考えていました。

早く、夜にならないかな…。

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