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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
19/34

サイドストーリー:結奏「姫様の笑顔」


朝陽がまぶしい。

フルーツについた水滴がキラキラと反射する。

今日の姫様の笑顔は、いつもより大人びて見えた―。


私の名前は霞ヶ関結奏と言います!

ここ花の都のお城、桃桜殿で、王女様である桜ノ宮琴子様の侍女として働いています。

とはいえ、侍女の先輩達は大勢いらっしゃるので私はまだまだ下っ端です。

夢は大好きな姫様の筆頭侍女になることっ!


ここ桃桜殿は、王家の皆さんが普段いらっしゃるお城だけでなく、広いお庭や敷地内にいくつもお屋敷があり、ここが一つの街だとも言われているのです。

ですので、私達のお仕事も多岐に渡っています。


私はまだまだ下っ端侍女ですが、姫様と年が近いということもあり仲良くしていただいています。

姫様は本当にお美しくて愛らしくて花のような笑顔が可憐で、更にはお心も優しくて…

姫様の良いところを挙げればキリがありません。

そのくらい、本当に魅力的な方なんですよ。


そんな姫様が、今日はとても落ち込んでいて…。

姫様の顔を見ていると、胸が締め付けられます。

私も同じように落ち込んでしまいました。

姫様は今日、国王陛下に城の外に出て、私や護衛の緑綬様と共に城下町へ出かけることの許可を頂きに向かわれたのですが…。

玉座の間から出てきた姫様の表情はとても暗くて。

私は寄り添い部屋までお連れすることしか出来ませんでした。

その後姫様の話を聞き、私自身も姫様の侍女としての自覚が薄かったことを実感しました。


私は、いつだって姫様を守りたい。

いつだって姫様のお力になりたい。

ですが…

現実的には一人で出来ることには限界があります。

護身術を少し身につけている程度の私では、力で姫様をお守りすることは現実的ではありません。

姫様の身に危険が及んでしまってからでは遅いですし…。

ひとまず一度一人で考え、後日姫様にお話をしに伺うと言って自室へ戻りました。


すぐに姫様を安心させることが出来なかったことがもどかしい。

でもどうすればよかったのか。

私には何が出来たのか。

胸がもやもやします。

「あー!もうどうすればいいのよーーー!」

自室に戻り考え事をしていた私は思わず叫んで机に顔を突っ伏しました。

涙が出そうです。

いつも、いつでも。

私は姫様をお守りしたいのに。

傍にいたいのに。

ふと、緑綬様を見つめる姫様の横顔が脳裏に浮かぶ。


楠木緑綬様。

姫様の護衛役のお一人です。

とはいえ姫様はお城の外に出たことがないので、桃桜殿全体の警備、城下町の見回りなども積極的にされています。

背が高く、美しい黒髪の切れ長の美青年です。

武術はもちろんながら、すごく頭も良くて、民の声を国王陛下にお伝えしたり、大臣の方のお手伝いをしていることもあります。

毎日とても忙しそうです。

そんな彼もいつも姫様を気にかけています。


…あぁ、そうか。

私は、緑綬様になりたいのかもしれません。


城から出られない姫様に、城の外の話をしたり。

生誕祭で緊張していらした姫様の手をとり、安心させていたり。

今回の城下町へ出かける話のときも…。

私は、ただ見ているだけでした。

私だって姫様のお役に立ちたいのに。

緑綬様のように、姫様のお力になりたいのに。


そして姫様はきっと、緑綬様に恋をしていると思うのです。

例え姫様であっても、女の子の目はごまかせないのですっ。

でも当の姫様は自覚しているのかしていないのか…。

おそらく気づかないように目を逸らしているのでしょうか?

複雑な女心、私にはよーくわかります。

私にも城下町でかっこいい方を見かけてときめいたり、優しい方に声をかけられてときめいたりといった経験はあります。

まだまだ本気の恋というものは経験したことがありませんが、きっと恋の相談でしたら、緑綬様よりお役に立てるはず!


しかしここ最近、姫様が少し緑綬様を避けているように見えるときもあるのです。

本当にここ数日の話です。

生誕祭の後からでしょうか。

表向きには普通に接していらっしゃるのですが、以前はもっと…もっとこう…

心の距離が近かったように思うのですよね。

うまく言えませんが。

何かあったのでしょうか。

いえ、絶対何かありましたよね。


でも姫様からは相談を受けていない。

そんなことも密かに寂しく思っていたりします。

複雑な乙女心、自分でも恋してる自分から目を逸らしていると思われる姫様…。

その状態で誰かに相談したりは中々出来ないですよね。

わかってはいます。

わかってはいるのですが。

やっぱり寂しいです。

姫様が悩めるときこそ、お傍にいたいのに。


さて!

私は姫様と城下町へ出かけるための作戦を練るために紙を取り出す。

「まずは国王陛下を説得しないと。

言い訳をするよりははっきりと遊びに行きたいと言う方が良いと仰っていたようだから…」

ぶつぶつと独り言を言いながらも、私は書いては消して書いては消して…

一生懸命考えてみました。

全ては姫様と城下町で楽しく過ごすためです!

もちろん、姫様の安全第一で!!


いつの間にか窓の外は暗くなっていました。

月明かりが優しく私の頬を照らしています。


「だめだ…全然進まない…」

なんとか元気を出して前向きに考えようとするものの、落ち込んだ気持ちは中々すぐには上向きになってくれません。

そしてこれならいける!と思えるような良案が浮かばないこともまた、私を焦らせていました。


姫様は、どうしているだろう。

姫様もとても落ち込んでいらっしゃいました。

もしかしたら私と同じように、部屋に一人ぼっちで悩んでいらっしゃるかもしれません!

今日の私は夕食準備の当番ではありませんでしたが、ちゃんと夕食はとられたでしょうか。

考え出したら心配する気持ちがとまらなくなり、私は部屋を飛び出していました。


姫様が落ち込んでいたら支えてさしあげたい。

中々良い案が浮かばないなら、一緒に考えれば良い案が浮かぶかもしれない。

もし夕食がまだなら、すぐにでも用意してさしあげたい。


姫様の部屋まで走りながら、ずっとずっと姫様のことを考えていました。

姫様、結奏が今参りますっ。

姫様の部屋が見える廊下の通りまで来ると、侍女のお姉様方が食器を片付けていました。

よかった、夕食はとられたのですね。

胸に手をあて、ほっとする。


ふと食器に目をやると、二人分あることに気づきました。

「あ…。」

緑綬様、ですよね、きっと。

私は思わず立ち尽くしてしまいました。


食器を運びながら侍女のお姉様方がこちらまで来て、私に声をかける。

「結奏さん、どうしたの?」

当番ではない私が息を切らして姫様の部屋の近くまで来たものだから、侍女のお姉様も何かあったのかと心配そうに見ています。

「姫様が夕食を召し上がられたか気になって、飛び出してきてしまいました。今日は落ち込んでいらしたので…。」

部屋での姫様の表情を思い出し、胸がぎゅっと締め付けられる。

「あら、そうだったのね。姫様なら緑綬様と夕食を召し上がられましたから、安心するといいですよ。」

優しく微笑みかけてくれる侍女のお姉様。


なぜか明るい気持ちになれない私。

そっか、緑綬様と…。

どうして。

私は、泣いているのでしょう。

来たときとは全然違う足取りで、私は俯きながら歩いて部屋に帰ってきました。


姫様がひとりぼっちになるのではないかって心配していた。

でも。

本当に一人ぼっちだったのは私だった。

私には姫様しかいないのです。

私がお守りし、支えて差し上げたかった…!

溢れる涙も、喉から漏れる嗚咽も止められなかった。

姫様、お役に立てなくてごめんなさい…。


泣きはらした次の日の朝。

まぶたが重いです。

暗い気持ちのまま準備をして、姫様の部屋に朝食の準備が出来たことを知らせに行きました。

姫様は、よかったら一緒に食べましょうと誘って下さいました。

姫様と一緒にいれることがとても嬉しい。

あれほど暗かった気持ちが、姫様の言葉で少しずつ晴れやかになっていく。

やっぱり姫様は私の生きがいです!


でも、なぜか。

今日の姫様の笑顔は、いつもより大人びて見えた―。

結奏視点のサイドストーリーです。

いかがでしたでしょうか。

筆がスイスイと進んだお話でした。

結奏の気持ちに共感していただけたら嬉しいです。

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