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桜碧物語  作者: 碧桜依
桃桜殿
13/34

玉座の間-2-


玉座の間。

目の前にいらっしゃるお父様は、先程と変わらずに私を見ている。

外に出たいかと聞いて下さったお父様。

外に出たいと伝えたらそれは出来ないと答えるお父様…


「なぜでございますか…?」

お父様に問いかける。

「…少し話をせねばならんな」

改めてお父様が私に向き直る。

私は状況が飲み込めない不安から、ただただお父様の目を見つめることしか出来ない。


「外に出たいという理由がそれでは、儂は許可を出すことが出来ぬということだ」


私がお伝えしたのは…

城下町で話題になっているアロマティーが、お母様が眠りについたままの問題を解決する糸口になるかもしれない、だから直接見に行きたい、といった内容です。


「お前は城の外へ出ることをずっと禁止されていた為に、本心を隠してはいないか」

私の反応を見ながらもお父様は続ける。

「許可を得るために大義名分を掲げているようにしか見えぬ。

今まで14年ほど医師や有識者達が数多の手を用いてきた。

それでも見えぬ解決策を、薬や医学に明るくないお前が見つけて来られるとは中々に想像し難い。

そのように大それたことを軽々と、国王の許しを得る場で言うものではなかろう」


大それたこと…確かにそうかもしれません。

名医の方々が長い年月模索し続けてきた解決策を、私が見つけられるかもしれないから外に出たいです、なんて…

自分のことがこどものように感じられて、恥ずかしくなってきました。

それほどまでに長い時間、名医の方々が研究して下さっているというのに。

自分の考えはとても軽く、甘いものだと痛感しました。


「それを理解して尚も、外に出たいか」

お父様の言葉に、私は思わず視線を外して下を向く。

でも。

それでも、私は外に出たいと今も強く思っています。

この気持ちをなんと伝えれば良いのでしょうか。

「はい」

もう一度顔を上げてお父様に伝える。

「何故だ」

「私は…」

お父様の問いかけに、しばらく考え込んでしまいました。


城の外へ出たい。

その気持ちが変わっていないのは、はっきりと分かるのです。

でも、そのことをどのようにしてお父様にお伝えすれば良いのか…


「質問を変えよう」

もう一度お父様の目を見る。

「外に出て、何をしたいのだ」


何をしたいか…。

あぁ、そうだ、私は…


「城下町へ出て、色々なものを見て、緑綬や結奏とお茶をしたり、お買い物をしたいです」


今、私は絶対に顔が赤くなっています…!

これこそまさにこどものようだったでしょうか…?

ただただ素直に出てきた言葉を口にしてしまいましたが、とても恥ずかしいです。

怒っていらっしゃるでしょうか…

恐る恐るお父様の顔を見る。


意外な光景に私は目を見張る。

視線の先。

お父様は、先程までの雰囲気とはまるで別人のように優しい目で微笑みながら私を見ていました。

「初めからそのように言えば良いのだ」


えっと…

これで正解、だったのでしょうか。

先程までの空気から一転、今の状況に少し拍子抜けしています。


お父様は再び、少し厳しい表情に戻って続ける。

「母の為、民の為…このようなことは、軽々と深い考えもなく言ってはならんのだ。ましてや自分の要望を伝える際の言い訳にするなどあってはならぬ」


恥ずかしくて私は顔に熱を感じながら小さくなっていました。

もちろん、お母様の目を覚ますきっかけが見つかるかもしれないと思っていたのは嘘ではないです。

少しでもお母様の役に立てるかもしれない、お話をすること出来るきっかけになるかもしれない、そう思って、すぐにでもお父様に話をしたくなりました。

でもそのことは思慮が浅かったと気付き、恥ずかしくてたまらないです。

今は、ただ単純に、素直に外に出たいと言えば良かったものを、結果的にお母様のことを言い訳にしてしまった自分が恥ずかしくて…

私は顔を上げられません。

お父様は全てお見通しです。


「これは当人達が決めることであり、儂が決めることではないのだが」

そう前置きをして、お父様が続ける。

「緑綬と結奏と共に城下町へ行きたいと言っていたが、二人はそれを良しとしておるのか」

「はい、共に出かけたいと言ってくれていますが…」

「ふむ」

顎に手を当て、何かを考えている様子のお父様。

「あまりこういうことは言いたくないのだがな…」

少し声が暗くなったお父様に不安を覚える。


「琴子、お前は王女だ。

お前にとっては仲の良い者と城下町へ遊びに行きたいというだけのことであっても、

あの二人にとってお前と共に出かけるということは、護衛の任務が発生するということだ。

そしてお前の頼みも断りにくい立場にあろう。」


いつも城の中で仕事をしてくれている二人。

そんな二人が休暇時間に出かける城下町。

私が行きたいと言えば、二人はせっかくの休暇時間に任務を負うことになる。

それも護衛という責任重大な任務。

二人は本当に、私と共に出かけたいと思ってくれているのでしょうか…?


「ただこれは儂ではなく二人が決めることであるし、

儂の気にしすぎであって実際に二人は素直に楽しみにしているやもしれぬ。

今一度王女としての自分を見つめ直し、二人と話すのが良かろうな。」

「はい」

そう、もう一度ちゃんと自覚を持って色々なことを考え直さなければ。

戸惑いながらもそれははっきりと分かる。


私の様子を見ていたお父様が、少し間を空け口を開く。

「最後に」

改めて私は背筋を伸ばしてお父様に向き直る。

「今日儂は今までと違い、お前を一人の大人として、王女として扱い、話をした。

お前もまだまだではあるが、気付きがあったように見える。

先程も言ったように、今一度王女としての自分を見つめ直し、考え、再び話をしに来なさい。」

「はい!お父様」

私は椅子から立ち上がりしっかりとお辞儀をする。


絨毯がふわりと靴に当たる感触。

話が終わったと実感して少しほっとしながらも、頭の中では今日の会話が何度も繰り返されています。


とても、長く感じられる時間でした。

浅はかな考えをしていた自分に恥ずかしさを覚えたこと。

王女としての自覚が足りないとはっきりと気付けたこと。

そして緑綬と結奏のこと。


考えることはたくさんありますが、ひとつひとつ改めてしっかり見つめ直さなければ。

背筋を伸ばし一歩一歩、歩を進める。


出口を出た先の階段の下で待っていた結奏が私を迎えてくれる。

「姫様!おかえりなさいませ!」


明るく迎えてくれた結奏でしたが、私の表情を見て明るい報告ではないのを察してくれたのか、何も聞かずそっと付き添い、部屋まで送ってくれました。


同じ道だけど、来た時とは心持ちが違う。

気を使わせていることを感じながらも、私は声をかけることが出来ませんでした。

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