会話ロボット
「ほら、何でもいいから何か面白い話でもしなさいよ。どうせつまらない話しかできないんでしょうけどね。あ、話す前にお金払ってね。1時間千円よ。」
毎日のように僕に罵声を浴びせ、嫌そうな顔をしながらも僕の話を聞いてくれるこの子は僕の彼女、…ではなく最新型学習機能付き会話ロボットだ。買ったばかりの時はこんな性格じゃなかったんだけど、色々学習した結果こんな性格になってしまったのだ。
僕は周りの人間からは静かな人だと思われていると思う。本当は誰かと話すことがとても好きなんだけど、つい話過ぎちゃうことが多くて、それを気にしているうちにいつしか不安になってしまったのだ。僕の話はつまらなくないかな。興味のない話題だっただろうか。時間に余裕はあるのかな。相手のことを考えると人と話すのがどんどん難しくなっていった。それで気がついたら誰とも話せなくなっていたんだ。でも僕はやっぱり誰かと話したくて、けれど相手のことを気にせず心ゆくまで話したくて、そんな矛盾した僕の願望を完璧に叶えてくれたのが彼女だったのだ。
最新型というだけあってその機能は素晴らしいものだった。相槌も完璧だし、時にはデータベースを駆使して必要な情報を提供してくれる。しかも僕の興味ある話題をおさえて、寝ている間に自動で検索して勉強をすることで、あっという間に最良の話し相手になることができた。
けれど僕が満たされていたのは初めのうちだけだった。いやロボットの性能に問題があったわけじゃないんだ。問題があったのはどちらかというと僕の方だ。ロボットは完璧過ぎた。完璧な学習機能によって購入後一週間経った頃には、その会話能力はもはや人間と区別がつかなくなっていた。そしてその彼女と会話していると僕は不安になった。彼女はロボットだから、そういうようにプログラムされているから、僕の話がつまらなくても嫌な顔一つせずに聞いてくれる。でも本当は僕の話なんてつまらないと思っているんじゃないだろうか。結局、人間と話す時と同じような不安に襲われるようになったのだ。
それから一ヶ月、今も僕が彼女と会話していられるのはひとえに彼女のおかげだ。彼女はつまらない僕の話でもお金を払いさえすれば聞いてやると言ってくれた。僕は喜んでお金を払った。久しぶりに心ゆくまで話せた気がした。
けれどそのあとやっぱり気づいてしまったんだ。彼女が僕の性格を学習して、こうするのが一番だと分析したからこの提案をしたのだということに。彼女はやっぱり優しい子だった。僕はまた不安になった。だけど、今度はちゃんと向き合いたい。今度は彼女の優しさに応えられる人間になるんだ。




