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日本書鬼  作者: 久慈川 京
第三章 餓鬼
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其の弐




 久しぶりの再開となった学校ではあったが、この一カ月近くの遅れを取り戻す為なのか、授業は目一杯の時間を費やされる。季節が夏という事もあり、未だに真昼のような明るさを残しているが、最終の授業が終了するチャイムが鳴った時には、16時を過ぎており、季節によっては既に夕刻という時間帯に差し掛かっていた。

 終了のホームルームも手短に終わり、久しぶりの授業によって疲れ切った表情をした生徒達は皆、幽鬼のように家路へと急いで行く。いつものように私はゆっくりと鞄に教材を入れ、帰り支度を始めた。


「ご馳走様でした」


 教室内に誰もいなくなってから丑門君が私の机に洗い終えたお弁当箱を置く。今日は、久方ぶりの登校ではあるが、午後まで授業があるという事を知った祖母が私の分と彼の分を作ってくれたのだ。

 恐縮しながらも受け取ってくれた彼ではあるが、彼から祖母への言伝も受け取った。一つ、流石に毎日は受け取れない事。一つ、月々でお弁当の材料費を支払う事。一つ、本当に美味しく頂き、感謝している事。それを口にする彼を見た私は、思わず微笑んでしまった。


「伝えておきます」


「じゃあ、また明日」


 私の返事に満足した表情を浮かべた彼は、軽く手を挙げながらその場を去ろうとするのだが、それは神山深雪という問屋が卸さない。私の後ろを通ろうとする彼の鞄を掴んで、彼の行動を停止させた。

 意気揚々と廊下へ続く扉へと向かっていた彼が、強い力に引かれたように身体をよろめかせる。予想外の力だったのであろうが、それでも彼は私のような平凡な女子生徒の力で重心を崩すような存在ではない筈だ。その失礼な態度に彼を軽く睨むが、予想外の力を後方へ加えられた事は、彼にとっても抗い辛い物であったようで、逆に睨み返されてしまった。


「そんなに強く引いたつもりはなかったのだけれど、ごめんなさい」


「いい加減、神山は自分の力を把握するべきだな」


 丑門君の睨みに怯んだ訳ではないが、それでも確かに声を掛ける事なしに鞄を掴んでしまった事は私の落ち度ではあると思い、謝罪を口にするが、それを聞いた彼は溜息交じりにとんでもない発言をする。

 失礼極まりない。何度も言うが、私は正真正銘のか弱い女性である。格闘技を習っている訳でもなく、護身術を会得している訳でもない。暴走族や愚連隊に所属してもいないし、非行少女として活動してもいない。毎日普通の生活を送り、家に帰れば祖母の家事の手伝いをして、祖父の肩を叩いているような女子高生の何処に計り知れない力があるというのだろう。私は先程以上に鋭い視線を彼に送るが、その視線に怯む素振りもなく、彼は肩を竦めるような仕草を示した。


「それで、何?」


「むっ。忘れたのですか? 携帯電話を見に行く約束をした筈よ」


 然も面倒くさそうに問いかけて来る丑門君の姿は、私の怒りを増幅させる。しかし、そんな私の答えを聞いた彼は、更に呆れの感情を露わにした。

 自惚れではないだろうが、彼が校内でこのように感情を表に出すのは私の前だけだと思う。露骨に表情を歪ませ、『お前、何を言っているの?』とでも言いたげな表情は、私の心に少しの優越感と、笑いと、僅かな憤りを発現させた。


「いくら何でも、今日の今日はないだろう? しかも、もう17時近い。陽が長くなったとは言っても、駅前まで行って店で選んでいたら、20時を越える。この前のような事件もあったのだから、遅い時間まで外にいるべきじゃない」


 しかし、私の不満を全て消し飛ばす程の正論が彼の口から飛び出し、私は二の句を繋げられなくなってしまう。正に正論であり、反論の余地すらない。しかも、先程の彼の発言を覆すように、私を一人の女性として扱っている時点で、私が口にする文句が何もない事になってしまうのだ。

 だが、それを全面的に認めてしまうのは、何故か非常に悔しい。丑門君に言い包められたという訳ではないにも拘らず、負けを認めてしまうように感じた私は、苦し紛れの言葉を口にする事しか出来なかった。


「では、いつなら良いのですか?」


「ああ……行く事は確定しているんだな? まぁ、土曜日も午後授業があるとはいえ、14時過ぎには終わるみたいだし、土曜日で良いんじゃないか? それで、日曜日にでも、神山はお祖母さんと一緒に買いに行けば良いだろう」


 夏休みも大幅返上という弊害を及ぼしたあの事件の影響は、週末の土曜日にまで及んでいた。昨今は学校、職場共に週休二日という概念が常識となっている。だが、短くなろうとも夏季休暇を設定しようとすれば、土曜日さえも授業に充てなければ、カリキュラムが全う出来ない状況であった。

 私達学生にとっても、それは大変面倒で苦しい事ではあるが、それ以上に教員達は苦痛を感じている事だろう。私達が自宅待機をしていた期間でも、緊急の職員会議などを行いながら授業のスケジュールを作っていた筈だ。本日の教員達全員が、何処かしら疲労が見える表情をしていた事からもそれが窺えた。

 話がずれたが、あの事件が原因で、土曜日に授業がある事自体が異例なのだが、更には午後まで授業を行うという異常な状態になっている。それでも今日のような夕刻までの授業ではなく、午後に一限分の授業があるだけなのが救いではあった。


「わかりました……約束ですよ」


「はいはい」


 私の言葉に気のない返事を返した丑門君は、そのまま教室を出て行く。別に一緒に下校する必要はないのだが、その気もない姿が何故か腹立たしく、私も即座に鞄を取って、彼を追いかけて教室を出た。

 既に17時に近く、まだ陽が高いといえ、窓から入り込む夕陽が私の影を伸ばしている。そんな私の影が、一瞬不自然に伸びたように感じたが、然して気にする必要はないだろうと廊下を歩いた。


 昇降口で靴を履き替え外へ出ると、先に靴を履き替えていた丑門君が空を見上げながら立ち止まっている。その瞳は、あの事件の日の登校時のような厳しい物ではなく、何処か優しさを秘めた暖かな物であった。

 彼が見上げる空は青く、真っ白な雲が優雅に流れている。夕陽というにはまだ赤みが足りない陽光が彼の影を私の足元へと伸ばし、私と彼を繋げていた。それを感じた時、何故か唐突に胸を刺すような喜びと恐れが私を襲う。『歓喜』と『恐怖』、そして僅かな『痛み』によって苦しみを感じた私が胸を抑えるように蹲ると、心配したように彼が近づいて来た。

 それが更なる感情の起伏を呼ぶ。


「神山、大丈夫か?」


「ぐぅ……」


 黄泉醜女を近くに感じていた時とは異なりながらも、何処かそれに似通った苦しみ。あの時のように命の危機を感じる程ではなくとも、アレの存在を感じざるを得ない痛み。それは彼との距離が近くなれば、近くなる程に濃くなって行った。

 だが、その距離がゼロになり、彼の掌が私の肩に触れた瞬間、あれ程に主張していた痛みや苦しみが霧散して行く。まるで夢であったかのように消え失せた苦しみに、私は茫然と彼を見上げた。


「あれ?」


「ん? なんか、大丈夫そうだな」


 豹変から豹変を繰り返した私を見る彼の表情は、とても不可思議な物を見るような物であった。私自身が先程までの苦しみに関して理解が及ばないのであるから、彼は尚更であろう。少し首を傾げた彼は、そのままゆっくりと校門に向かって歩き始めた。

 私もそれに付いて行くように歩き始め、私の歩調に彼が合わせてくれたのか、時間を掛けずに私は彼の横に並ぶ。今日から1週間は部活動が自粛となっている為、既に校内には生徒はおらず、僅か数人の生徒達が帰宅の道を歩いている姿が見えていた。


「神社の鳥居まではご一緒しても良いですか?」


「ん? 最初からそのつもりだったけど、逆に迷惑なら言ってくれ」


 校門を出て、帰り道を歩きだしてから、私は改めて彼に同行する許可を求める。正直、私と彼の接点という物はそれほど濃い訳ではない。幼馴染ではないし、彼氏彼女の関係でもない。本当にここ数カ月の出来事がなければ、会話すらする関係にもならなかっただろう。建前に聞こえるかもしれないが、礼儀として改めて許可を求めたのだ。

 だが、そんな言葉を受けた彼の表情は、『何を今更』という想いが明確に表れており、むしろ、今更そんな事を言い出した私の心中を邪推してしまっているようにも見える。迷惑どころか、有難く思っているのだが、この町全体から悪意を受けている彼には、はっきりと言葉で伝えなければいけないのかもしれない。


「本当に感謝しています。いつもありがとう」


「!?」


 そう感じた私は、笑みを浮かべて素直に感謝の言葉を告げるが、彼には予想外だったのか、驚愕という言葉が完璧に当て嵌まるような表情を浮かべる。それは流石に失礼だろうと、思わず心の中でツッコミを入れてしまった私を誰が責められるだろう。私はこれまでも彼に対して真摯に接して来たつもりだし、何度も心から感謝を伝えている筈だ。それなのに、その表情はあまりにも酷過ぎると思うのは私だけであろうか。


「あ、いや。全然問題ない」


 心の内の想いが私の顔に出ていたのか、彼は慌てたように言葉を紡ぐ。明らかに何かに焦っているようであったが、私はそこまで怒っている訳でもないし、それこそ怒りの表情を浮かべている訳でもない。むしろ、少し哀しく思っていたと言っても過言ではなかった。それなのにそこまで焦る必要はないだろう。納得出来ない想いだけが私の心の内を満たして行った。

 そこからは無言の帰り道が続く。私は何を話せば良いのか解らないし、彼もまた何かを口にしようと開きかけてもすぐに閉じてしまうという行為を繰り返していた。

 だが、前方を見ていた彼が向こうから歩いて来る人影を見た瞬間、私の身体が宙を舞うように路地裏へと連れ込まれる事になる。


「ちょっ、ちょっと何をするのですか!」


「ご、ごめん。後で説明するから少しの間だけ黙っていてくれ!」


 急に路地裏に連れ込まれた私は、パニックに近い状態に陥り、私の身体を掴んでいる丑門君の腕を何度も叩くが、それによって彼の腕が緩む事はなく、逆に口を塞がれそうな勢いで、黙る事を要求された。

 事あるごとに彼が揶揄する私の腕力であるが、いざこのような場面になってしまえば、やはり彼のような男性には全く及ばない。結構な力で数度叩いた筈の彼の腕の力は僅かばかりも緩む事はなく、離れようと身を捩っても、彼から抜け出す事は叶わなかったのだ。

 だが、彼の焦り方、そして私に沈黙を要求した後の視線の方向を見る限り、彼がわいせつな目的で私を路地裏に連れ込んだという可能性が低い事を察し、ようやく私の心は落ち着いて来る。ただ、傍から見れば男性に抱き締められている格好で、その男性の息遣いも聞こえる距離で、肌から直に体温を感じる状況下である事には違いはなく、私の鼓動は100mを全力疾走した直後のように乱れていた。


有威(ゆい)ちゃん、待ってよ!」


 私が平常心に戻る前にその声は聞こえて来た。

 聞き覚えの無い幼い声。小学校低学年の頃のような無邪気な、感情を全て乗せたような高い声。それが、先日行った小学校のある方向から聞こえて来た。

 声の方角へ視線を向ければ、そこに居たのは、小学生とは思えない程に小さく細い少女。腕や足は骨と皮だけであり、それを隠す為の服は薄汚れて破れている。貧相な手足とは別に腹部だけは、その内にある臓腑を主張するように膨れていた。その姿は一度目にすれば忘れる事など出来ない。今朝見たばかりの少女である。

 そして、おそらくその少女の名前であろう叫んでいた女の子が近づいて来る。その少女もまた、私が以前目にした事のある子であった。

 『丑門(うしかど)幸音(ゆきね)』。今、私を路地裏に連れ込んで拘束している犯罪者予備軍の妹である。私が出会った頃とは全く異なる笑みを浮かべ、そして弾むような声を発して彼女は前を歩く、有威という少女へ近づいて行った。


「何で先に行っちゃうの!? 待っててって言ったのに!」


 有威という名の少女に追いついた幸音は、如何にも怒っていますという幼い表現方法を駆使するが、相手はそれに対して大きな反応を示す事はなかった。

 焦点が合っていないような視線を幸音に向け、呟くような何かを口にする。それは謝罪の言葉であったのか、それとも何か言い訳のような物であったのかは私の距離からでは解らない程の小さな呟きであった。

 だが、その呟きを聞いたであろう幸音は、表情を和らげ、一つ頷きを返すと笑みをこぼした事からも、それが謝罪であったと推測出来る。和解した二人はそのまま歩き出すのかと思えば、そこで立ち止まったまま動こうとはしなかった。

 今朝の事を思い出せば、有威と呼ばれた少女は、私の正面から歩いて来ていた筈である。という事は、ここまで私と丑門君が歩いて来た道を歩いて帰宅するのであろう。丑門君の家が、南天神社よりも先にあるのであれば、彼の妹もまた、有威という少女とは反対方向が自宅という事になる筈なのだ。つまり、この場所が彼女達二人の別れの場所なのだろう。


「丑門君、いい加減に離れてくれませんか? 私を危険から救ってくれた訳でもなさそうですし、流石にこれ以上は許容出来ません」



「!! ご、ごめん」


 歳の離れた妹から隠れたくなる兄の気持ちというのは、私には全く解らないが、正常な兄妹の関係であれば、そういう事もあるのだろう。だが、彼の場合は、正常な兄妹の間にある感情とは違う部分で行動した可能性がある。一度しか見てはいないが、彼の妹は彼に対して明らかな恐怖心を抱いていた。それは畏怖や畏敬という生易しい物ではない事は一度しか見ていなくとも解る。あれは、生物が本能的に抱くような恐怖心であり、心の芯に刻み込まれているようにも思えた。

 だが、彼を見る限り、幼い妹に懸想しているというような様子でもなく、ましてや幼い子供に欲情するという特殊性癖があるようにも見えない。まぁ、人間の特殊趣向などはそこからでは解らない為、彼がそういう想いを隠している可能性も捨て切れないが、ここまでの数カ月間を共にした感想としては、彼が幼い妹に暴行するような事はないと言っても良いと私は思っていた。


「まったく……。他の女性であれば、大声で人を呼ばれるところですよ。ん?」


 自分が今までしていた行動をようやく正確に把握した彼は、勢い余って路地裏から飛び出してしまう。私も皴にならないように制服を叩きながら、ゆっくりと路地裏から外へと出て行った。

 改めて思うと、路地裏から出て来た男子生徒と、その後を追うように制服を直しながら出て来た女子生徒。これを傍から見れば、確実に何かいかがわしい行為をして出て来たと思うだろう。これは私の想像力が逞しいのではなく、世間的な常識から判断すればそう思われても仕方がないという事だ。

 だが、幸いな事にそれを目撃したのは、彼の妹である幸音嬢と、その友人と言って良いのかは解らないが、有威と呼ばれる少女しかいなかった。


「!!」


 しかし、何事もないだろうという私の予想に反し、私達の姿を見た彼女達は正反対の反応を示す。有威という名の少女は、先程から全く変わらない表情のまま私達を見つめ、丑門君の妹である幸音嬢は、驚愕という言葉通りの表情を浮かべた。

 そして、私の予想の遥か斜め上を行くように、驚愕から恐怖へと表情を変化させた彼女は、身体を小さく震わせた後、意を決して何も言わずに駆け出して行く。その行動の速さは異常と言っても過言ではなく、脱兎の如くに死を感じた生物が取る行動に近い物であった。

 私の理解が追い付かないが、冷静に周囲を見てみると、有威という少女に反応はなく、私のように呆然としている訳でもなければ、理解が追い付かないという訳でもなさそうであり、どちらかというと興味を示していないという感じである。対して私の横に立っている丑門君の表情は抜け落ち、能面のようになっていた。こちらもまた呆然とも不理解とも異なり全てを理解して尚、受け入れ難いという反応なのだろう。


「むっ」


 溜息を吐きそうな状況の中、誰よりも早くに再稼働を果たしたのは、私でも丑門君でもなく、有威という名の少女であった。私達に向かって来た彼女が近づくにつれ、今朝鼻に突いたあの臭いが再び私を襲う。この臭いを好む人間はいないだろう。私もまた、生理的にこの臭いは受け付けない。自分の意志とは別に、私の足は勝手に後ずさり、自然と彼女に道を譲るような形になって行った。

 私が道を開ける事に対して何の感情も宿していないかのように、少女はゆっくりと私の横を通り過ぎて行く。その時に漂うあの臭いに、私は無意識に顔を歪めてしまった。そんな私の態度も、この少女にとっては日常茶飯事であり、気にする必要性を感じる物ではないのだろう。


「ん?」


 だが、私の横を通り過ぎるという事は、私の横に立つ男性の横もまた通る事になる。そしてその少女が横を通り過ぎる段階になって、彼はその存在に初めて気づいたような反応を示した。

 その少女の姿、服装、髪型、異臭を全て確認した彼は、私と同じように顔を歪める。だが、これは私の勝手な想像かもしれないが、その表情の歪みは私の物と根本的に異なっているように見えた。

 私は単純にその少女の放つ異臭に対する不快感からだが、彼の場合は少女の存在自体への不快感を示しているように感じる。いや、言葉が違うのかもしれない。丑門君は、この少女をこのような存在にした原因全てに不快感を露わにしているのだろう。


「……気を付けて帰れよ」


「……」


 有威という少女が彼の横を通り過ぎる直前になって、徐に彼は口を開く。先程までの不快感を表した表情ではなく、優しい目つきになったその顔は、年下の妹の友達に向ける兄としての物だったのかもしれない。

 そんな言葉を受けた少女もまた、彼の存在を初めて認識したように顔を上げる。その顔に驚きの感情は見えないが、それでも何か不思議な生き物を見るように暫し彼の顔を見上げていた少女は、何事もなかったかのように、返事を返す事もなく、そのまま歩を進めて行った。


「……丑門君、妹さんを追わなくても良いの?」


「まぁ、大丈夫だろう。家までそこまで離れてないから」


 道の向こうに消えて行く少女の背中を二人で見つめながら、私は彼に確認する。あの殺人鬼が事件を起こした時、彼は即座に小学校まで駆けており、あの時の必死さを知っている私としては、既に陽が暮れ始めたこの道を妹さん一人で帰らせる危険を考えれば、彼がその後を追って行くと考えていた。

 だが、返って来た答えは、何処か素っ気なく、諦めと哀しさを宿した寂しい言葉であった。その答えを聞いた私は、『そう』と小さく呟き、何処か物悲しい表情を浮かべる彼を見ている事が出来ずに南天神社へと歩き出す。少し遅れて歩き出した彼とは、そのまま一の鳥居に着き、別れを言葉を口にする以外の会話はなかった。




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