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植物少女との日常は  作者: いす
8/11

七日目

八話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

ぐでーっと休日らしく奈江とのんびりしていると、宅急便のお兄さんから何かを受け取りに行っていた橋岡さんが重そうに段ボール箱を運んできた。

自然と俺と奈江の視線はその箱へと向かっていく。

「何ですそれ?」

「…?」

「さぁ?あんたの親から届いたけど」

床に置くと、ドスンと重そうな音が響く。

この二年間、年明けだろうが何だろうが連絡を送ったことも送られてきた事もない親から一体何の荷物だろうか。

三人とも不思議そうにその箱に近づいて、自分が箱を開けると、全員が顔を覗き込ませた。

「…これ、高校の時のアルバム?」

「…みたいだけど。他にも色々あるわよ。ほらこれ」

そう言って、箱の中身から

中学生の頃のアルバム…小学生の頃のアルバム…。アルバムばっか…。

それ以外にもいつの間にやら撮っていたらしい小さい頃の写真が何枚も。

入っている荷物のほとんどが写真だった。

「これ…いらなくなったから送り付けてきたんですかね」

「さぁ?手紙とか入ってないし知らない」

「…ほぉぉ…!ぉぉ…!」

「どした奈江…ってちょい」

小学生の頃の俺を奈江は食い入るように見つめる。

その瞳はいつもより輝いていた。

「あんたにも可愛い時期あったんだ」

「何ですその言い方。まるで今が可愛くないみたいな」

「えっ今でも自分のこと可愛いって思ってんの?うわぁ」

「可愛い…!」

「ほらぁ、奈江は可愛いって言ってくれてますよ?」

「はあ…バカらし」

興味無さそうにパラパラとアルバムのページを橋岡さんはめくっていく。

ていうか何でこれ、皆で見ようって事になってるの?

「…ねぇ、あんたってこの頃好きだった人とかいないの?」

「いました…けど特に何か行動をしたってわけ、奈江やめて首に蔦を巻かないで」

「…………」

スルスルと首もとに蔦が巻かれていくことに恐怖を感じる。

「ほんとなにもしてないから、ただただ一方的に好きで、それだけだったから」

「要は私の…もの」

弁解をしても首もとから蔦が外れることはなく、奈江が今言った通り、首輪を巻かれた奈江だけのものみたいな状態である。

「その子って誰?アルバムに写ってるの?」 

「えーっと…あ、これです。

このポニーテールの子」

「むぅ…」

不機嫌そうな奈江はまたスルスルと蔦を出して、それを長い髪に巻くとあら不思議。

ポニーテールの出来上がりである。

「…別にポニーテールだから好きになったわけじゃないからな」

「……!ぅぅ…」

「奈江泣きそうなんだけど」

「いや、だからもう昔の事だって」

「…………」

涙目になりながら四つん這いで、こちらにぺたぺたと迫ってくる。

もう何度目か分からないちらりと見える谷間にも慣れることなく目をそらしてしまう。

その事を気にすることなく奈江は俺の近くまで到達すると、そのまま真正面からのしかかってくる。

「…はぁ…これ送り返そうかな…」

「まだ読みはじめてから全然経ってないでしょ」

「いやこれ話しててもこの首の蔦が絞まる未来しか見えないんですけど」

「何、他になんかやらかした思いででもあるの」

「昔より…今の方が暗い…」

「…確かに、どったのよ?」

写っている自分は大抵笑っていて、友人と仲良く肩を組んだりしている。

…と、言っても別に何か卒業してから暗いことがあったわけでなし。

原因は明白なのである。

「仕事って…人を変えるんですよ…」

積み重なる仕事に疲労と疲弊も積み重なり、一年過ぎた辺りからはこんな感じになってしまった。

大声を出さなくなり、昔のように活発に行動をすることも無くなってしまった。

「はあ…あんたみたいな社畜にはなりたくないわ」

「俺も昔は親父みたく社畜には絶対ならないと思ってたんですけどね~」

「…しゃちく?」

「あー…あれだよ。俺のこと」

「なら…好き」

そっかー社畜好きなのかー。

親父も良かったね、社畜が好きな女の子はいるってさ。

社畜が稼ぐお金が好きな女の子はたくさんいるかもしれないけど。

「…ねぇ、この箱何か下にスペースあるみたいだけど」

「ん、ホントだ」

雑ながらも確かに、底が厚くなっている。   

「奈江」

「ん」

奈江は蔦を尖らせると、ナイフのようにサクッと底の表面だけを切り取る。

そんなこともできるの…。

これは刺されたり斬られたりするような迂闊なことは出来ない。

そしてその斬られた箱から出てきたのは長方形の真っ黒な包装がされた何か。

「なんですこれ」

「さぁ?あんたの私物でしょ?」

「いや俺こんなデスノートみたいなの持ってませんよ」

「黒いの斬る…?」

「ん?」

…黒いの…という言葉で昔のことを思い出す。

うちの親が俺のあの…あの本…えっちぃ本を見つけたときは大抵こんな感じに黒いのを被せていた。

いやでも…何故…嫌がらせ?嫌がらせなのか?

おおよそ何なのかが分かり、急いで本を取り上げる。

「何か分かった?」

「え、えぇ、まぁ何です?あれですよ、ほらあの俺の私服です!」

「だからそれが何なのかって話でしょ」 

「あ、アルバムみたいなものです!」

「…なら、見たい…!」

「奈江ダメだ!ストップ!ストォップ!」

「…なんか私中身分かったんだけど」

橋岡さんはその本を見ながらうへぇと嫌そうな顔をする。

「ちょっと自分の部屋で確認してくるんで、奈江も待ってて」

「むぅ…」



相変わらず蔦に首を巻かれたまま、自室へと向かい、包装を取る。

そして中から出てきたのは、予想通り…あのあれである。

…ホントなんで…送り付けてきたの…。

頭を抱え、部屋の中を見回す。

ベットの下…?でもそこは

時々奈江が寝相のせいで転がり込んでいるときもある。

だったら別の部屋に置いておくか…。

いやしかし橋岡さんは一応入居者が来るかもと掃除を定期的にしてしまっているから、その時にバレて面白半分で奈江に告げ口をされてしまうかもしれない。

どうすればいい…。

もう一度部屋の中を見回すと

鍵のついた机の引き出しが目に入る。

…ここなら鍵を隠せば良いだけだし…その鍵も他の鍵がついた引き出しに隠せばいい。

…!これならいける!

意気揚々と鍵のかかった引き出しを開け、それを放り込む。

そして作戦通り鍵を別の引き出しに放り込んで鍵をかける。

これで平和になる。

これまで通りの日常がそこに待っているのだ。


しばらくは。

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