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植物少女との日常は  作者: いす
7/11

六日目

七話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

今日で奈江が家に来てから一週間となった。

だが、やはり彼女のことについてはいまいち掴めるところが無く、素性が明らかとはなっていない。

それは本来ならあまりよろしくないのは分かってはいるが、あののんびりとした空気はそれすら考えさせてくれない。よって昔よりも平和で楽しい日々が送れている。

そして今日も家に帰れば、その日々がまた待っている…かもしれない。

ガラガラと音をたて、扉を開けると、奥からドタドタと奈江が駆け寄ってきた。

その手には俺の着替えらしきものを持っている。

「おかえり…」

「おかえりー要」

「ただいま…あの、これって」

靴を脱いで奥からまたニョキっと顔を出したきた橋岡さんに奈江の手にある服を聞く。

「んーそれー?いや私が料理つくってたときにもしあんたが帰ってきたんなら渡しといてっていったらそれっきり離さないのよ、ずーっと」

「むふー」

奈江は何か満足をしたのかドヤ顔をするとこちらの鞄を蔦で奪い取り、代わりに服を渡してくれる。

その服は少し温かい。

「あー、そういやその服すごく強く抱きしめてたよ、顔とか(うず)めてたし」

「ちょっと?」

「止めようとはしたんだけどねー、駄目だった」

その事を聞いて妙にこの服を意識してしまう。

ちらと目線を戻せば、奈江は嬉しそうにドヤ顔を決めていて、こちらの焦りに気づいていない。

「はぁ…」

「……?」

ため息を吐くと、不思議そうにまたこちらを見上げてくる。

そしてハッとした様子で服とこちらを交互に見た後に、ゆっくりと歩いてきて優しく抱きしめてくれる。

押し付けられる体が、疲れきった体には癒しとなったが心臓は全然癒されてない。

このままいくと破裂か何か起きる。

「奈江ほら離れてくれ、風呂入ってくるから」

「ん、じゃあ私も夕飯温めとくから、さっさと上がってきなよー」

「むぅ…」

少し不満げに息を漏らすが、

頭を撫でてあげると満足したのかトテトテ奥へと戻っていった。

…やはり彼女はいまいち掴めない。


お風呂からあがり、ポカポカした状態で夕飯を食べ終わる。

ソファにぐったりと座ればそこに奈江も俺の腕に引っ付いて座る。

「奈江あつーい離れてくれー」

「んーん」

嫌だ。

そう言ってるのかは知らないが首を横に振っているので離れたくないのだろう。

ならば仕方ない。

「ちっ…イチャイチャしやがって…」

「嫌なら離れてくれるように言ってくれませんかね…」

「どーせそんなこと言ったってあんたが蔦で雁字搦(がんじがら)めにされるだけでしょ」

「そーですか…」

ついにのし掛かってきた奈江の頭を押さえこれ以上倒れないようにすると、むすっと

した顔を向けてくる。

諦めるように押さえている手を離すと、ソファから一回立ち上がり、俺の股の間に座ると、背中を押し付けてくる。

こうも我が儘で自分勝手だとやっぱり子供にしか見えない。

ロリババァみたいな感じで

見た目がお姉ちゃんで中身がロリのお姉ちゃんロリ的なものが流行ることを祈っておこう。

語呂悪いなこれ。

「…もしもこの家で子供が出来ましたとか言われたらあんたのことぶん殴るから」

「………急になんですか、んなわけないでしょ」

「一応の念押しよ、奈江の年齢とか知らないんだから。同居人から犯罪者が出たなんて言いたくないのよ」

橋岡さんはテレビの番組をドンドン変えていき、面白そうな番組が無かったのか電源を切ってリモコンを机に置く。

「だからしませんって」

「そ、ならいいんだけど、じゃ私洗濯物片付けてくるからー」

「手伝いましょうかー?」

「んー、別にいーや」

扉を開け橋岡さんはそそくさと出ていく。

それを見送って机に置いておいた飲み物を飲み机にまた置くと、奈江もそれを真似て俺の飲みかけを飲む。

恥ずかしい。

「…飲み物取ってこようか?」

「んー」

奈江は首を横に振る。

「そーかぁ、おーよしよし」

することも無くなったので奈江の頭をひたすらにワシャワシャする。

それが終わると奈江が急に顔を上げた。

その緑色の瞳はキラキラと輝いている気がする。

「もーいっかい…!」

「よーしよしよしよし!」

「んふぅ…」

顔はあちらを向いているので奈江の表情は分からないがそれでも、満足したことは伝わってくる。

その証拠と言わんばかりに、

ポンっとパンジーが床に咲く。

パンジーの花言葉は確か『楽しい時間』。

橋岡さんも育てている花の一つだ。

「…可愛いな」

そのパンジーを見つめてポロっと言葉を漏らすと、奈江の体がギュルンとこちらを向く。

「どしたの」

「可愛い…」

そう奈江は俺の言葉を復唱すると勢いよくのし掛かり、押し倒てきた。

「!?」

「可愛い…!」

「えっ、いや、ちがっ」

「可愛い…!!」

「花!花だっての!」

顔をパンジーの咲いていた所に顔を向けるが、見事に無くなっており、俺に合わせてその方向を見た奈江は、またこちらを熱い目線で見つめてくる。

目線を戻すと服のサイズが合っていないことで服の隙間から胸がはっきりと見えてしまっていて、顔が火照る。

…破廉恥ですよ!

「な、奈江!離れて!いや、離れてください!お願いします!」

「や~だぁ…」

耳元で囁かれぞわりと震える。

「ほら、冷蔵庫!プリンあるよ!プリンだよ!」

適当に動いてくれそうな言葉を探し、言ってみるがまったく動く気配はなく、ソファにバラのついた蔦がまとわりつきはじめた。

そのバラの影響なのか甘い香りが立ち込める。 

「…ふふ」

妖しく笑う奈江はドンドンとこちらに顔を近づけてくる。

その息づかいは少し荒く、胸元に汗が吸われるようにたれていく。 

…今思えば、俺はこんなに可愛い娘と一緒にいたのかと。

透き通るような肌、艶やかでみずみずしい唇。

立派な胸に整ったそれをより強調させるような細い体。

男の理想というのは多分、奈江みたいな人を指すのだろう。

「……………」 

息を呑んで奈江を見つめる。

鼻の先と鼻の先が触れ、そして唇へと…

「…?」

止まった。

完全な停止。

俺が不思議そうな表情をするが、奈江は構うまいと唇を尖らせる。が届かない、むしろ上へと遠ざかっていく。

「あんたらねぇ…いったそばから盛ってんじゃないわよ…」

「橋岡さん…よかったぁ…」

安堵の息が出る。

捕まれて上へと片手で持ち上げられている奈江は不服そうに、じたばたと暴れている。

「…いや、急に襲われましてね…」

「嘘、あんたが何か言ったんでしょ」

「可愛い…とは言いましたけど…奈江が咲かせた花にですよ?」

服を掴まれている奈江を一旦椅子に置くと、こちらを見てため息をついた。

「あんた大好きっ娘なこの子に、可愛いとか、そういう誉め言葉を言うってねぇ…」

「いや、だから花にですって」

「あんたさぁ…この一週間、奈江に真正面から誉めたりしたことなんてあった?」

「えっと…」

「無かったでしょ?奈江はそんなときに言われたんだから、なりふり構わずになるのも、ねぇ?」

「………」

橋岡さんに見られた奈江は、悲しそうにこくこくと頷く。

表情に感情を出す奈江もさだからこそ罪悪感は普通の何倍にも重くなる。

「…悪かった」

ソファから立ち上がり奈江に向かって頭を下げる。

その下げた頭に橋岡さんの出が乗せられた。

「だってさ、奈江」

「…うん」

また、ポンっと紫色の花が咲く。

「藤の花…良かったじゃん、要」

「俺その花の花言葉知らないんですけど…」

「じゃ、私片付けの続きしてくるから、じゃーねー」

「教えてくださいよ…これで大嫌いとかそういう花言葉だったら心折れるんですけど?」

「…ふぁーあ、あんた、明日も仕事なんだしさっさと寝とけば?ほら、奈江布団まで要を連れてって」

「らじゃ~」

俺の質問に答えることなく、橋岡さんは出ていった。

藤の花…藤の花…。

ソファに座り込み記憶を巡らすがやっぱり花言葉は思い出せない。

「…要、お布団、行こ?」

座っていた椅子から立ち上がり奈江はこちらに近寄ってくる。

「なぁ、奈江藤の花って…」

「…ない、しょ」 

耳でまた囁かれ、熱くなる。

ボーッとしてしまった俺の腕を掴み、引っ張ってくれる。

共同スペースを出て、階段を上る。

「後、そうだ…奈江」

「………?」

「えっと、色々とありがとう、そ、それに奈江もちゃんと可愛いとは思ってる…」

あんな悲しい顔をされてそのまま何事も無かったように終わるのは、人としてどうかと思う。

もし俺の言葉で奈江が喜んでくれるなら…と、本心を言ってみる。

「んー!んー!」

「ど、どうした奈江!な、奈江…」

急に顔を赤くし、悶え始めた奈江は階段を勢いよくドタドタと上っていくと、バタンと、扉を閉める音が聞こえた。

奈江…?

「この後の奈江を見て変な気起こすんじゃないわよ」

「うおっ!何ですか…」

振り替えると橋岡さんが冷たい目でこちらを見ていた。

「忠告はしたから」 

「は、はい…」

俺からの返事を聞くと橋岡さんは廊下の奥へと歩いていく。

そして廊下を曲がったのを確認してから、急いで奈江を追いかける。

二回に上がり扉を開けると、抱き枕を抱いてぺたんとベットの上に座る奈江がいた。

その顔は赤くて、目は少し潤んでいる。

こちらを上目遣いで見てきた奈江を見て、こういう意味かと分かり、震えながら橋岡さんの忠告を忘れないよう、脳内に言い聞かせる。

「要っ…大好きだよ…」

抱き枕を口に当て静かに呟いた奈江の言葉は、誰かに届くことはなかった。


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