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植物少女との日常は  作者: いす
6/11

五日目

六話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

抱き枕バリアのお陰もあってか今日は朝から蔦で巻かれるようなことはなく、すんなりと起きることができた。

スヤスヤと眠る奈江を見て、昨日求めていたことを思いだし頭を優しく撫でると、

ほんわか笑った後、抱き枕を抱きしめた。

…彼女が出来たらこんな感じなのだろうか。

昔っから好きになることはあっても、自分からその想いを伝えることは一度として無かった。

フラれるだけならまだしも、もしそのことで周りから、からかわれたりしたらどうしようかと考えて結局嫌になるのだ。

少しそんな自分に嫌になりながらも、着替えもって部屋から出る。

今日は日曜日、昨日は土曜日、明日は仕事…?

やはり平日と休日のバランスはおかしいと思う。

世の中はゴールデンウィークやらで時々盛り上がっていたりもするが、毎日ゴールデンウィークだったらと考えたことはないのだろうか。

一週間のほとんどが休み、それはそれで世界が滅びそうな気配もするが、働きすぎの日本にはそういうのを増やしてほしいと思ってしまう。

社会のブラックさをぐちぐちと心のなかで語りながら階段を下りていく。

共同スペースの中から漂う良い匂いに釣られるように扉を開けると、エプロンを着て、

器用に料理をしている橋岡さんと目があった。

「おはようございます」

「んー、おはよ、で、奈江はプレゼント喜んでくれた?」

「えぇ、まぁ今も抱きしめて幸せそうに寝てます」

「寂しい?」

「いや…別に」

不意に本音を言われた気がして、そっけなく返してしまう。

「ま、そういうことにしといてあげる、ほら食器取って」

言われた通り近くの食器棚から必要分取り出して、キッチンの空いているスペースに置く。

すると、出来上がった料理がそこに乗せられる。

それをテーブルまで運んでいると、不意に動きが止まる。

何かが背中に引っ付いている。

「奈江、おはよ」

「んー」

挨拶をしても離れる気配はないので、そのまま眠そうな声でうーうー言う奈江を引きずり、料理が乗っている皿を落とさないように運ぶ。

ちょっとしたケンタウロス。

奈江の分も運び、席に誘導させる。

そこに片付けをほとんど終わらせた橋岡さんも席に座り、三人で手を合わせる。

「「いただきます」」

「…ます」

今日もまた一日が始まる。


この花ユリ荘は真ん中に庭がある形で、それを囲むように部屋が続いている。

そして冬の大掃除の季節になると、この縁側含めた廊下で雑巾がけレースが行われ、残念ながら昔は負けてしまった。

あの人地元走りとか言って庭突っ切るからな…

「…ふぁぁ」

思い出に浸っていると、膝に何かが乗せられあくびが聞こえた。

目線をしたに下げると、奈江が目をこすって眠そうに勝手に膝枕を俺でしている。 

「奈江…まぁあれだ、眠いんなら寝とけ、別に邪魔とかしないから」

「………」

こくりと頷くと、こちらに顔を向けたままゆっくりと目を閉じていく。

掛け布団の一つでも持ってこられれば良いのだろうが、膝枕状態の俺は動けるはずはなく、この春の暖かさが奈江を守ってくれると信じて、またのんびりと庭に目線戻した。

前にここが少し雑多なお花畑と化していた時があったが、いつの間にか整備されており綺麗なお花畑と化している。

それを求めてか、蝶や蜂もふわりと飛んでいてとても怖い。

あれこっち来ねぇよな…

自分の身の安全のために、その虫達を見ていると、蜜を取って満足したのか何処かへと飛んでいった。

その事に安堵しながらまた、奈江に目線を戻すと、和らげに微笑む彼女を見て、幸せを感じてしまう。

ゆるやかに過ぎていくこの時がいつまでも続けばと。

明日になれば、この笑顔を見られるのは朝と夜だけになり、代わりにパソコンのつまらない画面をひたすらに見つめることとなる。

いっそのことこの仕事を投げ出してしまいたい、そう考えてしまう時もある。

でもそれは出来ない、よくある物語は全てがフィクション。

物語のなかだからこそ成立するだけであって現実はもっと厳しいものだ。

嫌なことばっかりで、

面倒くさいことばっかりで、

諦めたくなることばっかり、

だからこそ幸せを逃がしたくないと考える。 

その幸せにいつまでも浸っていたくなる。

…もう一度、奈江の頭を優しく撫でる。

「ふへぇ…」

嬉しそうに笑う彼女は俺のそんな淀んだ心を浄化してくれるのかもしれない。

勝手な希望を抱いて、また空を見上げる。

自然と下がっていく(まぶた)に抗わないようにして、閉じる。

鳥の声が子守唄として、最後まで耳に入ってきた。


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