四日目 午後
五話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
花ユリ荘があるこの町には残念ながら、大型ショッピングモールはない。
いやあるにはあるけど、花ユリ荘からは結構遠いしほとんどもう隣町の場所なので、素直に自転車を漕いで行くよりも、近くにある駅を使って開発が進みまくっているその隣町とは逆の方向なある隣の都市に行った方が速いし疲れない。
まぁ、そういうことなので、
奈江のプレゼントをお隣さんの駅から近いショッピングモールまでやってきた。
ちなみに何故唐突にここへ来たかというと橋岡さんやらが色々と準備してくれるのに、こちらが何もしないのはいかほどと思ったわけである。
何も手伝わなかったら絶対橋岡さん文句言ってくるし…。
周りを見渡せば、いかにもな
意識高い系もいれば、カップルなのだろう、仲良く手を繋いで、イチャイチャとベンチに座り、クレープを食べている奴らもいる。
あのクレープに上でカーカー鳴いているカラスが突撃することを祈っておこう。
少し、卑屈になりながら大勢が出入りしている自動ドアに近づくと静かに横に開く。
それを通り、歩いてエスカレーターを使い、二階に向かう。
そして二階についたら、左に曲がり、そのまま突き当たりへと歩く。
すると今日の目的地に着く。
そして適当に探すと案外早くそれは見つかった。
それを迷わず買い、ついでに何か買おうかなと周りを見ているとスマホが振動する。
スリープ状態を解除して、画面見ると橋岡さんからメールが二通来ていた。
一通はパーティー用の買い出しに行ってるから帰っていないならさっさと帰ってきて奈江の面倒を見てくれという内容。
もう一通は、買い出しに行った店で昔の友達と偶然会い、結婚の報告をされたという内容だった。
途中からもう呪詛と化していたその文面を削除して、
プレゼントを持っていそいそと店を出る。
滞在時間驚きの8分である。
外を出てみればまだ先程のカップルがそこにいてイチャイチャ…イチャイチャ…、
橋岡さんが呪詛るのも何か分かる。
カラスに未来への期待を託し、また俺は歩き出した。
家に俺が帰ってきて、橋岡さんがその次に帰ってくる。
そしてさっくりと奈江を自分の部屋(俺の部屋)に誘導し、
時間が来るまでそこにいてくれと伝える。
奈江は素直にこくりと頷くと、いつものようにベットに寝そべり、布団を持ってくるまった。
自分の布団が誰かに使われるのは気恥ずかしい部分もあるが、まぁ橋岡さん命令でもあるので逆らえない。
それに、彼女が幸せならそれでいい気もする。
…この考えだと俺のプレゼント間違えかもしれん。
自分のなつかれ具合を自惚れているような気もするが、もしただなんとなくで近くにいてくれてるだけなら渡すことに躊躇いが出てしまう。
だがその事を考えさせるのを防ぐように、下からさっさと降りてこいという声がかかった。
「奈江ー、一応言っとくが寝るんじゃないぞ?お前主役なんだから」
「えへへぇ~ふへぇ…」
聞いてないかもしれないが、一声かけ、さっさと階段を降りていく。
伝えることは伝えたので、いざ何か問題が起きても俺無関係なので……。
階段を足音をたてないように静かに降り扉を開けると、料理の準備をしていた橋岡さんと目が合う。
「…ねぇ橋岡さん、別に奈江にサプライズみたいなやり方しなくていいと思うんですけど、知ってるわけですし」
先程も言ったが奈江を誘導しようと言ったのは俺ではない、橋岡さんだ。
二回に連れていって、そのまま時間まで部屋においておけと。
その命令のせいで俺の布団がいい匂いになってしまう。
「あんたね……こういうのは雰囲気が大事なの、雰囲気が」
「ふーん」
その雰囲気がどこまで大事なのかは知らないが歳上の発言は大事にしないといけない。歳上だからね!
「人が教えてやったのにその態度…ちょっと手伝え」
こちらに向かって近くに掛けてあるもうひとつのエプロンを取り投げつけてくる。
「あー…分かりましたよ」
断ろうとも思って投げようとしたがギロリと睨まれたので素直に着て、整っているキッチンに入る。
その後、結局ちょっとどころか最後の最後まで付き合わされることとなり、7時ほんのちょっと前までひたすらに準備をしていた。
疲れをとるために椅子で項垂れていたら今度は、奈江を連れてこいという命令が飛んできて立ち上がり、部屋を出る。
…これブラック企業かよ。
心の中で色々と毒を吐き、落ち着いた状態で部屋をノックする。
自分の部屋なのにノックというかなりおかしな行動だが一応中には女の子がいるわけだし、迂闊に開けるわけにはいかない。
手には買ってきたプレゼントの袋を持って、ついでに分かりにくい位置に、隠すために持ってきた。
待っているとガチャリと音がして扉が開く、中を見れば変わらず奈江は布団にくるまっており、蔦を使って器用に開けたらしい。
くるまっているので前は見えていないだろうと思い、クローゼットの中に少々でかい紙袋を押し込む。
「ほら、時間だぞー、さっさと着替えて出てこい」
「ぎゅー」
布団の中から甘い声が聞こえる。
どうやら運べということらしい…またかよぉ!
一瞬断りそうになったが今日の主役はこいつ、逆らってはいけないだろう。
ていうか逆らってもどうせ俺が運ぶことになるし。
布団をひっぺがして優しく触り、お姫様だっこをすると、少しはだけている服からちらりと肌が見え自分の体温が少し上がる。
「はぁ…まぁ行くぞ」
「んー」
奈江はそれの返事なのか腕を上げる。
先程の疲れも出ているので 投げ捨てたろかい、とかも考えたが頬を朱に少し染め、こちらを見上げてくる奈江を見ると、その考えもどこかに飛んでいった。
世の中にある自称疲れが吹っ飛ぶ系の物やら人やらは是非とも奈江を見習ってほしい。
この子が笑えばどんなブラックでも働いていける気がする。
「ほれ、着いたぞ」
「………」
奈江を洗面所の前に降ろし、
入り口にカゴに纏められていて置かれていた着替えを渡す。
奈江が最初に着ていたワンピースだ。
それを受けとると、素直に洗面所に入っていく。
てっきり前みたく橋岡さんから声がかかるまで動かないかと思っていたが、どうやら彼女は成長していたらしい。
その事を確認して、洗面所前を後にする…と思ったが足元には蔦がこんにちわしていて動けない。
奈江は特に変わってませんでした。
着替え終わった奈江を連れて声がしている共同スペースを、開けると中村さんと名屋ちゃんが椅子に座ってのんびりと橋岡さんと話していた。
「いつの間に…」
「あ、すいません佐原さん、玄関で橋岡さんが待っててくれててピンポン鳴らしてませんでしたね」
名屋ちゃんに軽く大丈夫と返すと、その後ろに座っていた中村さんが席を立つ。
「君が…新しく来たここの住民さんかな?」
急に話しかけられ奈江は戸惑う。
「あぁ、すいません…こいつあんま喋らないんで」
「そっ、要関係でしかほとんど喋らないの、色々分かんない子よ」
「そうなのか…ごめん、ほら、さっ、座ってくれ、パーティーを楽しもう」
中村さんは、謝ると奈江が座る席の椅子を引き、また元の席に座った。
「ほら奈江、主役なんだから」
中村さんが引いてくれた椅子の隣に腰掛ける。
奈江はそれを見て付いてくると、椅子を俺の真横の位置に引きずってきて、ぺたんと座る。
「奈江…さんですか、普通におとなしい人ですけど、いくつなんですか?」
変な部分を見つけ出そうと名屋ちゃんは色々な方向から見る。
それを奈江は嫌そうにして俺の背中に隠れた。
「歳は分からない…けど多分橋岡さんよりかは下でしょ」
「あぁ?」
「そうですね」
「おい名屋お前な…」
「…まぁ、それもいいんだけど、そろそろパーティーを開かないかな?」
目線が鋭くなっている橋岡さんをなだめる為か中村さんは話題をそらしてくれた。
それを聞き、こちらを一度睨み付けてきた後、奥から最近だとあまり見ないのではないだろうか、瓶に入ったオレンジジュースやらブドウジュース、とりあえずまぁ、果物系のジュースを色々と持ってくる。
それを見て続くように、テーブルの上に置いてあったケーキ箱を開いて、中から頼んでいた奈江のためのケーキとサービスだと言って、モンブランやらシュークリームやら、ガーベラで売っている物も追加で持ってきてくれた。
「これ…!」
「あぁ、お前のために作ってくれたんだぞ」
「…ありがとう」
中村さんに俺にいつもしてくれるように、優しい笑顔を向けた。
少し…何かもやっとした感情が表れたが、押さえ込む。
断じて嫉妬ではない…。
「喜んでくれたならなによりだよ」
「この真ん中の花のデコレーションとてもこだわってましたもんね、花びらも時間かけてて」
「ほー、この花びら桃なんだ…あんた腕上げたじゃん」
「あ、ちょっと橋岡さん一口目は奈江ですよ」
ナイフと一緒にフォークも持っていたので、不安になり忠告をしておく。
「しないって、ただ切り分けるだけだっての、ほら奈江お皿渡して」
「んー」
適当に返事をして奈江はお皿を渡す。
そこに器用にカットしたケーキを乗っけて、真ん中にある苺の花をいくつかその上に乗してまた返す。
そして受け取った奈江はそのまま自分で食べるかと思いきやこちらにフォークを渡してきた。
これは多分あーんをしろということだろう。
流石にこれは言われなくても分かる。
ケーキをフォークで一口サイズにして刺す。
それを見た奈江は、口を開け、こちらに近づいてきた。
…流れるようにやってるけど恥ずかしいな…。
「佐原さん、奈江さんと付き合ってるんですか?」
「…せめてそのことはこれが終わってからに言ってくれない?気まずくなるから」
奈江の口に入れる直前で止める。
ここで奈江が自分から食べに来ない辺り維持でもしてほしいのだろうか。
「仲が良いのは良いことだから恥ずかしがらなくても大丈夫さ」
「いや、まぁ…はい、ほらあーん」
中村さんに言われ、素直になり奈江にケーキを食べさせる。
それを食べた奈江は幸せそうは笑顔をするとこちらににっこりと笑った。
「おいしい…ありがと」
「あー、なんか人の幸せって散ればいいのになー四散じゃなくて爆散で」
「そんなこと言わないで、ほら、皆も食べてくれ、私の力作の感想をもっと聞きたいんだよ」
「それじゃあ私も頂きますね!」
名屋ちゃんのその言葉を始まりにしてパーティーは開催となった。
自分が好きなチョコを取り、一口食べると、ほろ苦い味と甘さが広がり、どんどんと食べれる。
そこからくだらない会話をして料理もほとんど食べ、パーティーが終わる雰囲気になると、忘れていたことを思い出した。
「あ、そういえば奈江にプレゼント買ってきてたんでした」
「ほぉ…粋なことするじゃん」
「ちょっと取ってきます」
一言いって席を立ち、自分の部屋に向かう。
階段を上って扉を開け、クローゼットを開くと寂しそうにそのプレゼントが入った紙袋はポツンとあり、中身を確認して急いで階段を降りる。
「お、帰ってきた」
「えっと…奈江これ」
人前で誰かにプレゼントということに恥ずかしくなり、
雑に渡してしまったが、
それでも奈江は嬉しそうにこちらを見上げ、紙袋の中身を見て取り出す。
「抱き枕ですか?」
取り出した中身を見て名屋ちゃんは首をかしげる。
そう、抱き枕。
こういう場合は基本ペンダントやらの装飾品が基本だが、
元々突き放そうかなぁとか軽く考えてもいたので、これで一人で寝るということになってほしい。
はいそこ、何か考えてたのと違うとか言わない。
「…ま、別に良いとは思うよ?奈江いっつも寝てたりぼやけてたりだし」
「機能性がメインといったところだね」
大人組から無難な返しがきて安心するが、名屋ちゃんはしらーっとした目でこちらを見てきた。
何…何なの。
「…やっぱり佐原さん変わってますよ」
「別にいいじゃん、ほら奈江嬉しそうだしさ」
「ふへぇ…」
抱き枕を抱きしめ、とろけた顔をする。
本人が喜んでくれたから問題はない…ですよね?
このプレゼントを終わりの合図として、すこし微妙な空気でパーティーは終わった。
片付け終わらせ、寝る準備をして部谷に入ると、抱き枕を抱きしめている奈江がベットに座っていた。
いつも通りここで寝る予定らしい。
「抱き枕はお前の独り立ちのために買ったんだよ…」
「んふふぅ…」
「はぁ…もういいよ」
変わらずにここに残っていることに少し嬉しさを感じて、またベットに横たわる。
すると奈江は満足そうに抱き枕を抱いたまま、こちらに寝そべってくる。
彼女の体温を感じれないことに悲しみを抱いて、目をつむる。
すると抱き枕を抱いた状態でこちらを抱きしめようとしているのか、自分の体に強く抱き枕がくっついてくる。
一応彼女も努力はしてくれているので、抱き枕と奈江の体の上に手を乗せると、その手が掴まれ何か柔らかい感触のする部分まで運ばれ急いで目を覚ます。
「お前…って何だよ頬か…」
俺の手を自分のほっぺまで引っ張って触らせている奈江はとても嬉しそうだ。
間違えたこととに恥ずかしさを覚え急いでまた目を閉じる。
「…おやすみ要」
その声を聞いて、俺は眠りについた。