四日目 午前
四話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
不思議な少女奈江と俺は今日からこの花ユリ荘の正式な住民としてこれから、この家で大家さんの橋岡さんと仲良く三人で暮らしていくこととなった。
二日前と同様自分の部屋があるということを知らないのか、知っていて来ているのか、目が覚めて最初に見たのはまた、奈江の寝顔だった。
昨日の夜も、大体二日前とおんなじ感じで眠ることとなった。
この子に慣れていくのが俺の当面の目標なのだが、案外諦めるとすんなりと受け入れることも出来そうな気がして、
この奈江と俺の体を密着させている蔦にも驚くことはなくなった、むしろ慣れすぎてTSUTAYAが頭をよぎるぐらい。
自分が複雑に、面倒に考えすぎていただけなのかもしれない、その事を受け入れそうになっていた自分を止めてくれたこいつと、橋岡さんには一応心の中でお礼を言っておく。
だが、この蔦のおかげで1歩も布団から動けず、布団のぬくもり、そして外にある太陽のあったかさと奈江の体温、その三つが合わさり、また眠ってしまいそうになる。
しかもそれで奈江の体を意識してしまうと、押し付けられている胸からドクンドクンと心臓の鼓動が俺に伝わってきて、それよりも早く自分の心臓が動くのを感じで、息を呑んでしまう。
何故か蔦に無視されていた左手を使って、蔦を引っ張るが全然切れる様子が見えない、そこいらのロープより固いんじゃないんだろうか。
「おーい奈江ー?起きてくれー?」
「んふふぅ……んっ」
声をかけると、嬉しそうに笑ったので、小さな反撃としてほっぺをプニプニすると艶かしい声が聞こえ、ドキッとする。
「ほれ、さっさと起きてくれぇ」
前とは違って蔦が絡み付いているのは体全体なので、運ぶとかそういうこともできないしで、奈江が起きない限り俺は動けない。
「ナデナテぇ…」
やけにはっきりと言う口、そして、少し開いている目、
その目はこちらを確実に見つめてきている。
「お前起きてるだろ」
「………」
「離してくれ」
「やだ」
何故こうも奈江はワガママなんだろうか。
いや確かにワガママボディではあるけど、そういうことじゃなくて。
一度決めたら意地でもそうする、それが多分奈江の性格で、そこにこのあんまり喋らないことが混じって、自分の子供のように思えてくる。
ならば、素直に従うのではなく、突き放して自立を促すのが一番だろう。
俺が親から追い出されたのはそういうことだったのか…
いや違うなあれ、出ていくって決めたときむっちゃ喜んでたし。
「ほら、奈江あれだぞ、離さないといつか俺こっから出てくぞ」
する気もないことを適当に言ってみると、奈江は涙目になってしまう。
先程よりも強く抱きしめられ、蔦がついに扉や窓までも塞いでしまって、絶対に出られない要塞が完成された、
これ外にバレてないよな…
今の状態より周りの目線が先に気になってしまった、橋岡さんからも昨日、このことは口外しないようにと、言われている、一階で何が起きようと塀はまぁまぁな高さなので見えないが、二階は分からない。
最悪橋岡さんが何かやらかしたとか言えば、多分なんとかできるとは思うけど。
「…だめだから」
「しないから、だから離してくれ」
「ナデナテ…」
「しません」
今日が休日で本当によかった気がする、これが平日だったら上司の文句を卑屈になりながら聞いていただろう。
どうやって抜け出そうかと考えていると、一階から大声が飛んできた、橋岡さんだ。
「おーい!奈江ー!要ー!
朝食出来たわよー!降りてこーい!」
「ほら、聞こえたろ?行くぞ」
「むぅぅ」
「唸るな…」
不機嫌そうになりながらもきちんと蔦をスルスル消えていく。また、暖かい太陽の光が部屋に入ってきた。
「…まぁしょうがない…のか?抱っこして…」
「…!!んー!んー!」
奈江の不意に見せた悲しそうな表情に、罪悪感が出てきて、不意に言ってみた。
奈江驚いた表情をした後、さっさとしろと、腕を広げ、
こちらをキラキラとした目を向けてくる。
ため息をついて、今度は昨日と違い、お姫様だっこをしてあげると、とても腕が痛い。
だが奈江の幸せそうな笑顔を見ると、その痛みも和らいだ気がした。
子供の笑顔を見ると明日も頑張れる、その意味が分かったような気がする。
階段を降りて共同スペースの扉を奈江に開けてもらうと、橋岡さんがフライパンを持ち、にっこりと笑っていた。
「おはよ、さ、座った座った!」
「だってさ、奈江降りてくれ」
「もう少し…ね?」
「駄目だ…腕痛いんだよ…」
「…分かっ…た」
躊躇いながらも腕から降りてくれ解放される。
そして奈江が椅子に座るのを見て、俺も隣の椅子に座る。
「…奈江ってあんたの前だと、案外喋んのね」
フライパンを片付け、キッチンから橋岡さんはこちらを不思議そうに見てくる。
「橋岡さんの前だとあんまり話さないんですか?」
「うん、くすぐったって、何したってなにも話さなかったよ、だからあんたを止めてほしいって奈江の口から聞いたときは結構驚いたし」
「…そう…なの?」
奈江はご飯をつかんだまま、
首をかしげてその緑色の目で見つめる、それに橋岡さんはコクりと頷くと、満足したのかご飯を口にいれた。
「あ、そうだ、ねぇ要、あんたこのあと新しい住民祝いってことでケーキ、買いにいってくれない?」
「はぁ…まぁ別にいいですけど、いつもの場所で?」
「そ、ガーベラでおねがい、他の料理はやっとくから」
「ガーベラ?」
どうやら分かっていないらしく、奈江はそう一言呟くと足元から花を咲かせる、真っ赤なガーベラだ。
「それじゃなくてケーキ売ってるとこの名前」
ガーベラ、それはここから歩いて数分で着く最寄りのケーキ屋さんで渋かっこいいおじさん、中村さんと、バイトの娘、近くにある高校に通っている名屋ちゃん一人の店である、ここの荘の名前にユリがあるためか同じ花の名前がつく場所として、昔から橋岡さんと中村さんとの間で交流があるようでクリスマスやらのときもお世話になっている。俺が来たときもそこのケーキでパーティーを開いてもらっていて、お祝いしてもらっている、かなり美味しかった。
その時は中村さんに来てもらっていたが名屋ちゃんも新しく増えているので今回はどうするか、聞いてみる。
「…今回は、名屋ちゃんも呼ぶんですか?」
「奈江はどう?ここに二人、呼んでだいじょーぶ?」
その大丈夫にはこの植物のことを隠すことが出来るのかも含められている気がした。
「だいじょーぶ…かも」
うっかり植物をあの二人の前で生やしてしまったらどう思われるだろうか、普段からほとんど喋らない中村さんの驚くところも見てみたいが、変にこのことが広まるのも怖い部分はある。
「本当にか?」
コクコクと頷く、その頬にはご飯粒がついていた。
それを取り、食べ、ちゃっちゃと朝食も食べ終わり、残った食器をキッチンまで運んでいく。
「じゃ、そういうことでよろしく、ほら洗っておいてあげるから着替えといて」
「じゃ、お願いします、奈江ーそこでおとなしくしてろよー」
付いてくる気だったのか、急に食べるのを早めた奈江にひとこと残し、また階段を上って二回へと向かっていく。
その際、足元に絡み付こうとしてくる蔦を見て不安が残った。
「あ、佐原さん、いらっしゃいませ」
花のフレームがついている扉を開けると、名屋ちゃんがお辞儀をして挨拶をしてくれた。
黒髪ロングの名屋ちゃんはいかにも清楚という感じであり、何やら学校ではかなりの好成績とのこと。
橋岡さん情報である。
「ねぇ今って中村さんいます?」
「えぇ…店長なら奥でケーキの試作してますけど…どうしたんです?」
「花ユリ荘に新しい人が来て、それのお祝いを開こうかなと」
「…あんな場所に新しい物好きな人、来たんですね!」
少々毒のある言い方だが最初あったときもこんな感じなのでもう気にしてはいない、そういう性格なのだろう。
清楚な毒を吐くタイプである。
「まぁ、それで自分の時もそうだったんだけど、中村さんにケーキをお願いするのと、パーティに出ないかのお誘いを、で、名屋ちゃんにもどうかって橋岡さんから」
「はい、私は大丈夫ですよ、店長にも私から伝えておきますよ」
「ありがとう…」
俺からお礼を聞くとニコッと笑い、店の奥へ小走りで行ってしまった。
そこから待つこと数分、
中村さんが奥から出てきた、
後ろから名屋ちゃんもついてきている。
「話は聞いたよ、もちろん大丈夫、だけどケーキはどうするかな?」
「えっ?ケーキに何かあるんですか?」
俺が覚えている限り、
前のパーティーのケーキは、普通な感じで、何か特別な感じを出しているという訳ではなかったはずだ。
だがもう一度食べたいと思ってここに来たときにそれは無く期間限定物かとは思っていた。
「あぁ…そういえば…君は知らなかったね、美琴ったら君が来ると知ったときに急いでここに来て、具体的に彼の特徴を教えてそんな感じのを作ってくれないかと頼まれたんだよ」
「そうだったんですか…」
つまり俺の特徴をまとめて作った結果普通のになったと。なるほど。
「新しく来た人はどんな感じなのかな?」
「あ、私もそれ気になります、どんな変人ですか?」
「……あ、まぁ、不思議なゆるふわとした感じですかね、…女の子なんですけど」
「不思議な女の子…何か好きなものとかは分かる?」
「好きかどうかは知らないですけど…まぁあの花とか植物とかはよく見てる?…見てます」
「へぇ…普通に女の子じゃないですか」
名屋ちゃんは花ユリ荘に来る人が確実に変人も思っているのだろうか。
自慢じゃないけど俺近所で凡人って呼ばれてるからね。
「…ふむ、花ね…うん大丈夫、7時ぐらいには作って持っていくよ、他に何か必要なものはあるかな?」
「いえ、大丈夫です、何かすいませんでした、橋岡さんみたく急に…」
「いいや、こちらこそ昔より腕を上げたと思うから、昔のようにはならないさ、任せて」
かっこいい…よし後は全て橋岡さんに任せることとしよう…代金もね!
「それじゃあ私もそれぐらいに行きます、どんな人か気になりますし」
「うん、よろしくそれじゃ、本当にありがとうございます」
「あぁ、帰りに気を付けてね」
優しい中村さんに「はい」と
お礼をしてまた扉を開ける、
すると元気な子供たちの声が耳に届く、生ぬるい風がその声を遠くまで運んでいくために強く吹いていた。