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植物少女との日常は  作者: いす
2/11

二日目

二話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

今日も帰ってきたは花ユリ荘。

上を見上げれば俺が住んでいる二階の部屋の隣の電気が暗闇照らしついている。 

つまりは新しい住人がここに住み始めたという訳である。

その事を確認して玄関を開けると裸足でペタペタ足音を鳴らしながら、昨日の彼女はほんわかしながらこちらに歩いてきた。

…結局、昨日はどんなに橋岡さんが話しかけても、質問に答えることは一つもなく、無言で首をかしげたまま座り込んで、そのまま眠ってしまった。

そこで、だったらと、橋岡さんがここ、花ユリ荘で保護することになったのだ。

彼女が何処の子なのか、未だに分かってはいないが、放り出すのも何なのでここにしばらく住んでみないかと、橋岡さんは俺が出掛けた後に聞いてみたそうで、少し嬉しそうに頷いてくれて今日からここの新しい住人だというメールが昼休み中、弁当を食ってたときに届いた。

個人的には昨日の一件もあり、思うところもあってかなり怖いのだが、そんなことがあったのはもちろん橋岡さんは知らない。話したところで疲れているのだと返されてしまうことが分かっていたので、結局言えなかった。

「ねぇあんた、もうちょい遅く出勤とか出来ないの?」

彼女に軽くただいまの返事をすると、スライド式のドアがガラッと開き、橋岡さんが頭だけ出して話しかけてきた。

その口には食べ終わったアイスの棒が入っている。

「なんでですか?そんな急に」

「いやさぁ、奈江が」

「なえ?」

苗、と言われ昨日のように振り返り、また植木鉢を確認する、それにつられ彼女もまた、植木鉢を見る。

「ん、いやほらその子、名前分からないじゃん?おい、とかねぇ、とか呼ぶわけにもいかないし、あ、ちなみに奈江ってのは奈良の奈に江ノ島の江ね、私の力作」

橋岡さんは得意気に指をパチンと鳴らす。

自分のことなんだと奈江は分かったらしく、呼んでくれと言わんばかりにスーツの袖を左手でつかみ、こちらをとろんとした目て見つめてくる。

ふと、昨日の事が脳をよぎる。

掴まれた腕から、こちらに巻き付いてくる蔦を。

「うぉっ!」 

掴まれた袖を離すために、反射的に後ろに勢いよく下がってしまう。

「なに、どしたの」

「あ、いや別に…」

「…………」

離された自分の左手を奈江は見つめた後、悲しそうな表情をし、右手を使い、左の袖を掴んできた。

そういう問題じゃない… 

「仲良くしようとしてるんだから、抱きしめるぐらいしてあげればいいじゃん、ねぇ奈江?」

奈江は掴んでいた袖を離し、両手をガバッと開き、抱きしめてくれと目で訴えてきた。

その目は夜空の星よりも強く、明るく輝いている。

「て、それより、あのさっきのさっさと帰ってこいってのは…」

「ヘタレ」

「うるさい」

「はぁ…いやね、この子朝起きたときにあんたがいなくなってたせいか、泣きそうになってたんだよ?ここん中走り回って、外に行かせないようにするの、大変だったんだから」

「……」

そうなのかと目線で奈江に視線を向けると優しく微笑んでこちらに抱きついてきた。

胸が当たってるううう!

「離れろって…まぁ、はい一応善処はしておきます、でも電車の時間的にも今でも結構きついんですよ?」

「ま、考えてくれるんならいいよ、ほら明日も仕事でしょ、さっさと休みなさい」

こちらに近づいてきて、カバンをひったくり、その代わりに何処から取り出したのか着替えを持たせ、風呂を指差す。

なんかちょっとした夫婦な気分。

「あ、橋岡さん!これついでに」

くっついている奈江をはがし、くるっと回し背中を向かせ、押していく。

安心してくれているのか、はたまた動くのが面倒くさいのか、体を預けていてくれとても腕に負担。

パソコンをうちまくって疲れた腕には絶妙な辛さだった。



「ふぃぃぃ」 

頭やら体を洗い終わり、湯船に浸かると、自然と口から声が出る。

疲れが言葉として抜けていく気がした。

その言葉も湯気に紛れて、

何処かへ去っていく。

こうして明日も頑張ろうと思えてくる、本当にお風呂は最高だ。

「…………」

今日、帰ってみて特に何かおかしなことが奈江周りで起きたことはない。

昨日のように手を繋がれても、何処からか蔦が来ることはなかった。

もしかしたら本当にあれは幻覚だったのでは無いだろうか。

何処からどう見ても奈江はただの可愛い女の子。

無口で可愛くて、優しくて、なつっこくて、可愛くて…

たぶん学生時代にあんな子と出会っていたならさっきと同じように手握られただけでも恋に落ちてた。

…あ。

そういえば、風呂場の鍵を閉め忘れていた。

そこら辺のラノベでよくある風呂場のぞいちゃった事件だが基本、風呂場の扉には鍵を閉めるところがちゃんとあり、あの場合主人公が殴られるのはかなりの見当違い。

悪いのはセキュリティ対策を怠ったヒロイン側である。

ちなみに、何故男なのに鍵を閉めようとするかというと、ここに来て、一週間ぐらいしたときに、風呂に入ってる時に、橋岡さんが突撃してきたことがあるのだ。

まぁ、開けてすぐスッ転んで気絶したから特に何もなかったんだけど。

その状態で放置も中々に異質だったので、着替えてソファまで運んで、そのまま合掌するというお葬式も一応開いておいた。

後々話を聞くと親から、そろそろ結婚しろと電話で言われたらしく、心が荒れた結果そういうことが起こったらしい。

流石、この地域で美人な変人として名が通っているだけはある、何をするか分からない。

ちなみに俺も美人な変人の被害者の凡人として、何故か優しい目線を向けられることが多い。

多分無理矢理この花ユリ荘に拉致られたとか、そんな風に見られてる。

なのでそろそろ家賃を値下げしてもらいたい。

「ふぅ…」

くだらないことを考え、徐々に上がっていく体温に、のぼせないようにと窓を開け、顔を出す、寒い風が流れ込んできて体を冷やすが今はこれぐらいが丁度良かった。

そして空を見あげれば満天の星空、

都会が近くにあるところではこの空も珍しいのではないだろうか。

夏になるとここらでは花火が上がり、この星空と交わって、とても綺麗になり、去年は屋根に登って二人でのんびりとそれを眺めていた。

去年したことを今年もするかは知らないが、それでも一人が増えるだけで結構ワクワクする。

一頻り湯船を楽しみ、窓を閉め、立ち上がる。

まだ残っている冷たい風は行き場を無くしたかのように、足元を静かにスルリと通り抜けていく。

この風ももう少ししたらなくなり、ぬるい風になり、最終的には熱風になる。

そのことを考えたら、季節が過ぎることが嫌になった。



時刻は12時を過ぎ、外を見れば、他の家の灯りがポツポツと消えていく。

この光が消えていく光景はあんまり好きじゃない、まるで自分だけが取り残されていくような、そんな孤独感が襲ってくる。

だがそれは昨日までで、今、俺の真後ろには奈江が居座っておりベットで絶賛横たわりこちらを見ている状態である。

ちらりとパジャマから覗くへそがかなりセクシー。

このパジャマは、奈江が住むと決めたときに橋岡さんが急いでサイズ確認をしないで買ってきたもので、上のパジャマは少し短く、パジャマズボンは長いというバランスの悪さである。

ズボンがずれて下着が見えないかなーと思ったが布団が全力でブロックしているのズボンすら見えない。

布団…俺とお前の仲じゃないか…

パソコンの電源を切りたたんで、鞄に入れる。

それを見て、奈江はぺたんとベットに座り布団をバサッと広げ、こっちで一緒に寝ようと言わんばかりにバサバサし始めた。

そのお陰か、布団で隠れていたズボンから少し緑色の下着が見え、ちょっと幸せな気持ちになった。

そのことが悟られないようにどっかの外国人四コマよろしく、前屈みになりながら、立ち上がり奈江から布団を取り上げ、

部屋と廊下を繋ぐ、扉を開ける。

先程のように足元にひんやりとした風が通った。

「ほれ、お前の部屋あるんだから、帰ってくれ」

「………」

無言でブンブンと首を振る、その目にはどことなく決意が感じられる。

これは…何も言わずに部屋に入れてしまった俺が悪いのだろうか。

可愛らしい女の子から頼られることがなかったためか、トテトテ小動物のようについてくる奈江を無下にすることは出来なかった。

ほら…普段上司というおっさんからしか頼られないから…

奈江がよりなついてくれるのは嬉しいのだが、そんな、一緒に寝て友達に噂されるとか恥ずかしいし…

このことが橋岡さんという迷惑なお友だちにバレたら、一日二日で近所全体に広がる。

もう一度、だが先程より感情を込め、言ってみる。

「…帰ってくれ」

だが奈江は動く気は一切なく、またベットで横になる。

ならば実力行使と、ベットに近づき、横たわる奈江の手を掴む。

「…やだ」

突然そう一言言うと、掴んだ手が引っ張られる。

「うおっ」

「ふふっ…」

奈江の胸辺りに倒れ、

柔らかい感触が俺の顔を覆う。

…これは事故なんです!仕方ないんです!やったぁ!

とっさに離れようとするが、離れない、ドンドン押さえつけられている感じがする。

それでも、なんとか動いて胸から離れ、自分の体を見ると、昨日のことは幻覚じゃない。そう答えを教えてくれるように蔦が絡み付いていた。

「これなんだよ…」

動かさないようにと力強く巻き付いてくる蔦に驚きを隠せない。何でだと奈江を見れば、引っ張られた際に雑にかけられていた布団を綺麗にかけ直してくれている。

そしてその腕には俺と同じように、いや彼女から俺の腕や体に蔦が巻き付いていて、二人の体を繋げている。

「…寝よ?」

布団を整え終わり、いつもと変わらない優しい微笑みでこちらの頭を優しく撫でてくる。

蔦もあり動けず、素直に撫でられているうちに眠気が増していき、この状況の答えは聞けぬまま微睡みに落ちていった。


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