一日目
一話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
花ユリ荘、それは俺、佐原要が住
んでいるアパートである。
このアパートは都心からは少し離れていて、ちょっとしたオシャレな家もあれば、古風な家もあったり
、はたまた今時の学生がゆっくりしてそうなカフェもあれば、かっこいいおじさんがいそうな年期のある喫茶店もある。
新しかったり古かったりのよく分からないところが俺の住んでいる地域の雰囲気である。
社会人になって二年目。
最初の頃は、実家暮らしも考えていたのだが、親から仕事についたのなら出ていけと言われ、そこそこの家賃でそこそこの広さの部屋がある花ユリ荘に決めたのだ。
最初は知らない人との共同生活は大丈夫だろうかと、心配もしたが、ここにどんな感じなのかと実際に見に来てみたところ、住んでいる人は大家さん以外いないというかなり悲惨な状態だった。
だがここの大家さん自体はその事を気にしている感じはなく、縁側で足を投げだしてゆっくりお茶を飲んでいたのを今でもハッキリ覚えている。
そんな花ユリ荘に、今日も今日とて、帰ってきたのだが、玄関に置いてある大家さんの趣味である植物の前にワンピースを着た女の子がしゃがみこんでそれを見つめていた。
緑色の髮にはパーマがかけられており、そこら辺のちょっとヤンチャしている学生かとも思って放置しようとも思ったが時刻はすでに9時を越えており、このままなにもしておかないのは、いかがなものかと、そう思ってしまった。
「あー…」
だが、なんと声をかけていいか分からず適当に声を出してあちらから気づいてもらおうとしたが、彼女が気付くことはなかった。
「あの…ちょっと?」
「………?」
自分が話しかけられたのだと気付いてくれたらしく、その子はゆっくりと振り返り立ち上がった。
まず目に入ったのは胸である。
…いやね、ほら俺だって男の子だし、けっこうこの子大きいし、うんうん。
誰にか分からない言い訳をしながら、なんとか顔に目線をもっていく。
髮の色と似たような感じで、優しそうなとろんとした目がこちらを見てくる。身長も俺よりはもちろん低いがそこそこあり、おっとりとした姉という感じだろうか。
緑色の目で見られることにドキッとしながらも、なんとか言葉をひねり出す。
「いや……ほら、そろそろ帰った方が…」
「………?」
これは…
言葉の意味を理解していないのか、はたまたすっとぼけているのか、彼女は分からないという感じでこちらを見続けている。
素直に大家さんを呼ぶべきだろうか…
だがここの大家さんはいなかったりもするので、半ば賭けで花ユリ荘の玄関を開け、大声で大家さんを呼んでみる。
「橋岡さーん!ちょっとー!」
橋岡美琴
それがここの大家さんの名前である、年は非公開と本人は言っていたが、見た目はかなり美しく、ここに住もうときめたのもそれが理由だったりする。性格がよろしくないという所もあるが花とかを育てる趣味があると言えば可愛らしくも見えるんじゃないだろうか。
「なになになんなのー、ゴキでも出たぁ?…ってあぁ彼女呼んだから出てけって?」
頭をワシャワシャ掻きながら、嫌そうに喋りながら出てきた橋岡さんは、こちらと隣にいる女の子を見たあとにニヤリとしてそう言った。
「いや、違いますって玄関にこの子が」
「つまり入居希望者?」
「さぁ、橋岡さんが育ててたの見てましたけど」
振り返り植木鉢を見ると、その子も俺を真似て植木鉢を見つめ始めた。
「おぉ、私の乙女な趣味に興味があるのかい?」
「んで、どうします?玄関で立ち話って時間じゃないと思いますけど?」
一応冬が終わり春ということになってはいるがそれでも夜の風は冷たく、体に悪い。
ワンピースしか着ていない彼女は俺より寒く感じているかもしれない。
いつまでも、自称乙女の趣味を見ていたら風邪を引いてしまう。
「ま、それもそうだね、ほらっおいで」
玄関で手招きをする橋岡さんを女の子は不思議そうに見つめていたが、俺が玄関で靴を脱ぎ始めると理解してくれたのかトテトテついてきた。
そして橋岡さんは伸びをしながら共同スペースに歩いていく。
「ほれ、さっさと靴脱いで行くぞ」
脱いだ靴を揃え、自分の鞄を持ち、歩いていく。
あぁ…そういえばやっておかないといけない仕事があるんだった…
この子のことで危うく忘れそうになっていたことを思い出して憂鬱になる。
嫌になってため息をつくと、後ろからそっと手に何かが触れる。
振り返り確認すると、彼女が手を繋いで、優しい笑顔をこちらに向けてくる。
そして
「ありがとう」
そう一言言うと、何処から来たのかか蔦のようなものが彼女に巻き付き、握られている手を介して腕に絡んでくる。
「うおぉ!?」
巻き付いてくる蔦自体は数は少なくそして細かったため、ミイラ状態になることはなかったがその奇妙な現象に驚き、手を離そうとしたが、蔦が絡み付いて、離れなかった。
そして彼女が満足したのか、それともただの幻覚だったのか、蔦はまた何処かへと戻っていった。
「お前…」
震えながらも、声を出すが、彼女は気にする様子はなく、奥へと歩いていく。
彼女の後ろ姿が俺には不気味でならなかった。