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嘘つきメイドと面倒くさがりなご主人様  作者: 凪市有李
第2章
8/60

危険な(?)シチューあります

「手伝いを頼まれたぁ?」


 カシュールカの素っ頓狂な声が響いた。

 いつもの様に、カシュールカは長椅子の上でごろごろとしているところだった。

 ミイはこくりとうなずく。


「そう。よく行く果物屋さんで親しくなった人に、お願いされてしまって……」


 ミイがこの家に住み着いて、一ヶ月が経過していた。

 ミイが日々努力した甲斐あって、家の中が適度に住みやすくなってきた頃だった。


「で?」

「断りきれず……。果物をおまけしてもらった以上は、手伝ってあげた方がいいかな、と。今後のお付き合い上でも、良好な関係が築けると思うし……」

「好きにすれば?」


 カシュールカは起き上がろうともせず、面倒くさそうに言った。


「いいんですね?」

「いいさ。いいけど、俺たちは一切関わらないからな。なにかあったり、失敗したりしても、助けないぞ」


「わかっています」

「それならいいさ」


 それだけ言うと、カシュールカはミイから視線を逸らして目を閉じた。


 カシュールカの昼寝は、日課と言ってもいい。

 まあ、カシュールカは朝だろうが昼だろうが夕方だろうが夜だろうが、ほとんど寝て過ごしているんだけれど。 


 一ヶ月が経過したものの、カシュールカだけは最初の頃とほとんど変わらない。

 ミイはカシュールカの許可を得ることができたので、そのまま外出することにした。


「あ……」


 ミイはふと思いついて立ち止まった。

 カシュールカが一度は閉じた瞼を薄く開ける。


「サクさんは、今日はどちらにおでかけなんですか?」


 サクは昼前に外出したきり、昼食には戻って来なかった。

 どこへ行っているのかを事前に知っていれば、それ相応の準備ができる。


「サクは酒の買い出しだろ。昨夜、全部飲み干してたからな。そのうち戻って来るさ」


 酒の買い出しということは、市場の方へ向かったのだろうか。


「そうですか。じゃあ、戻ってきたら、お鍋にシチューがあることを教えてあげて下さい」

「はいはい。……っておまえ、また料理したのか!?」

「しましたよ。メイドですからね」


 わたしはなにを今更、とうなずいてみせた。


「あれほど料理はするなって言ってあったのに」


 カシュールカが、わしわしと髪をかきむしっている。


「でも、食事は必要ですよ」


「食える食事ならな。掃除洗濯は構わない。おまえの雑さもまあ俺たちの無頓着さにはかなわないだろうからな。だが、料理はするな。食材が可哀想だ。むしろ下手に手を加えずそのまま食ってやるほうがよほど食材も嬉しいだろう」


「カシュールカさん、前々から思ってましたけど、失礼ですよ」

「おまえの料理が危険すぎるんだ。あそこまでひどくなければ、俺だって文句は言わない」


 むぅ、とミイは唸った。

 確かにミイは家事全般が苦手だけれど、できないわけではない。

 料理だって、一応できるのだ。

 店が開けるほど美味いかと問われたら、否と答えるしかないけれど。


「贅沢はダメですよ」


 ミイがここに来て初めて作ったシチューをひとくち食べたカシュールカは顔を青くして咳き込み、サクはテーブルにつっぷしてしばらく反応がなかった。

 この人たちの口は、いったいどんな高級料理に慣れているのかと、そのときのミイは思ったものだ。


「いや、俺たちはむしろ質素に生きてるだろ、どこからどう見たって」

「まあ、豪華絢爛なお屋敷でないことは間違いないでしょうけど」

 

 むしろボロい年季の入った建物だ。


「そうだろう。だが、食事だけは、外食か出来合いのもので構わない。おまえに作らせるくらいなら、俺が作ったほうがましだ」

「え! カシュールカさん料理作っ――」

「作らないけどな」

「ですよね」


 少し期待してしまったミイは、肩を落とした。 


「まあ、作ってしまったものは仕方がない。……サクが帰って来た時に俺が起きてたら、伝えるぐらいはしてやる」

「……お願いします」


 期待できないな、と思いつつも一応頼んでおく。


 サクの昼食だけ用意しないことなどないのだから、たとえカシュールカが伝言を伝えずとも、サクが食べようという気になりさえすれば、すぐに鍋の存在に気づくはずだ。


 ミイはカシュールカに一礼すると、家を出た。



  

 川沿いの道にある果物屋に行くと、すっかり顔なじみになった奥さんが、お客の相手をしつつ、ミイを見てひとつうなずいた。


 そして川の方向を指差す。

 そちらに、ミイと約束をしている人物がいるということだろう。

 ミイは軽く頭を下げて、川岸へと向かった。


「ムウル!」


 川辺へ続く階段を下りながら声をかける。 

 川で果物を洗っていた少年が顔を上げて振り向き、ミイを確認するなり破顔した。


「ミイ!」 

「こっちは大丈夫。行けるわよ」

「助かった。もうすぐ終わるから、待っててくれ」 


 籠の中に洗い終わった果物を手際よく詰めている。


 ムウルはこの街に滞在する間、あの果物屋で雇ってもらうことになっているのだ。

 先ほどカシュールカに説明した、果物屋の人とはつまりムウルのことに他ならない。


 やがて作業の終わったムウルは籠を店に置きに帰り、奥さんに暇をもらってから、二人は並んで歩き出した。

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