メイドは目的を達成できるのか
「おはよう」
ミイが外に出てゆくのと入れ違いに、サクが部屋から出てきた。
カシュールカが挨拶をすると、微かにうなずく。
起きぬけのままの姿でうろついているカシュールカとは違い、サクはきちんと身だしなみを整えていた。
起きてからそれだけの余裕があったということだ。
きっと、今まで部屋の中からカシュールカとミイの様子を窺っていたのに違いない。
「おう。これ見ろよ」
カシュールカはいまだにミイを見送った場所にいた。
そのまま台所の中を親指で示す。
「片付けていたのは気付いてるよ。僕の部屋、台所の隣だしね。そろそろ起きろよおまえたち、っていう無言のアピールなんじゃないだろうかと訝しく思っていたところだよ」
カシュールカの横から台所を覗き込み、サクはおお、と驚きの声を上げた。
「予想以上に片付いてる」
サクは目を丸くして言った。
「だろ? あいつ、意外と役に立ちそうじゃないか?」
「それはどうだろうね」
サクは即座に疑問符を投げかけた。
「いや、まあ、あいつの本当の目的がなんなのかはわからないけどさ」
疑っていないわけはない。
むしろ怪しすぎる、とカシュールカは思っている。
サクだって、大いに疑っているはずだ。
いまだかつて、職業安心所の世話になったことなど一度もないのに、そこから紹介状が出るわけがない。
あの紹介状が偽物だということは、初っ端から気付いていた。
しかしそこをあえて追求することはしなかった。
何故なら……面倒だからだ。
偽物か本物か。
それを明らかにするには職業安心所に直接確認を取るのが手っ取り早いが、あの時点で閉所時間を過ぎていた。
確認がとれない以上、証拠がないので、押し問答になる可能性が高い。
そんなくだらないことに無駄な労力を使いたくはなかった。
それに、ミイの目的が何かはわからないが、その目的はまず達成できないだろう。
ここには金目のものなどほとんどないし、俺たちの命を狙っているのなら昨日の時点で殺していたはずだ。
しかし、ミイに殺気は全くなかった。
特に武芸に秀でているということもなさそうだ。
だからこそ、ミイがここに住み着いても、特に支障はないだろうと判断したのだ。
……それ以上考えるのが面倒だったという理由もなくはないけれど。
「狙いはラクドット家の宝剣じゃないの?」
サクがカシュールカに問う。
ミイの目的の話の続きだろう。
「たとえそうだとしても、ミイには手に入れることができない。そうだろ?」
「おそらくはね」
「まあ、ラクドット家の名を出するという時点で怪しすぎるけどな。それが善意による調査なのか悪意による調査なのかは不明。ここにたどりついたことに関しては評価できるが、それだけだ」
「ま、そうだろうね。ここで何をどう調査したって、彼女の求めているものは見つからない」
「じゃあ、問題ないじゃないか。放っておけば勝手に家の中が片付くわけだし、賄い代なんて一日にいくらもしないしさ。おまえだって便利だと思うだろ? でもって、目的の物にたどり着けないと判断したら、そのうち勝手にいなくなるさ」
「僕は行動を制限されて、非常に厄介だけどね」
「早く慣れろよ。慣れれば、会話だって平気になるだろうし」
「二、三日で出て行くなら、別に慣れる必要もないかなって思ったんだけど、そういうわけにはいかないってこと?」
「そういうことだな。俺から、進んであいつの偽装をあばくつもりはないからさ。どうしても嫌なんだったら、おまえが自分で追い出せばいい」
はあ、とサクが溜め息を吐く。
人見知りをするサクが、ミイを追い出すのは至難の業だろう。
「わかったよ」
「よかったよかった。今、あいつがパンの買出しに行ってるから、帰ってきたら昼飯にしよう」
「了解」
サクは台所の隅に置いてある果実酒の瓶を三本持つと、自分の指定席に腰を下ろした。