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悪魔への宣告

 サクは、もはや気力だけで立っている状態だった。


 やや離れた場所に、ロークが倒れているのがわかった。

 死んでいるのか、それとも息があるのか……。


 どちらでもいい。

 最初から、ロークには死してあの夜の償いをしてもらうつもりだったのだから。


 サクは、焼け付くように熱い左の眼窩をそっと手のひらで覆う。


 悪魔を従えようとしたロークは、自らの術が発動する直前、その能力をサクに封じられて悪魔の両翼の羽ばたきひとつで吹っ飛んだ。

 

 サクは空を見上げる。


 悠然と空を舞うフォートスの姿がそこにある。


 フォートスの封印が解かれた際の衝撃から、先ほどの羽ばたきのもたらした爆風から、カシュールカたちは無事身を守ることができただろうか。


 カシュールカなら大丈夫だと、信じてはいるけれど。 


「フォートスよ、頼みがあるんだ。今一度、この狭い仮宿へ戻ってはくれないか。時がきたら、必ず元の場所へ戻すと約束をする。それができるのは、僕だけだ」


 空へと語りかける。


 かつて無我夢中で封じた悪魔。

 今、従わせるための知識は、蓄えている。


 けれど従わせるだけの魔力が、もうおそらく残ってはいない。

 こんなぼろぼろの状態では、魔術の本来の力を発揮できない。


 だから、頼んでみる。


 けれど、それがどれだけ馬鹿げたことかもわかっている。


 相手は悪魔。


 か弱く今にも倒れそうな人間の命など摘み取って、自由の身を得ればよいだけのことだ。

 

 フォートスがもとの世界へ戻るのに、召し出した魔術師の力が必要なのかどうか、確信はない。


 フォートスは、戻って来ない。

 そうだろうとも。


 くくく、とサクは笑った。


「まあ、仕方がないよね。それじゃあ、フォートス、せいぜい覚悟することだ」


 魔力が足りなければ、別のものを使うしかない。


 サクは杖の先をフォートスに定め、宣告した。

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