指輪の行方
「あぁあ……」
甲冑を着た姿で瓦礫にまぎれて転がっていたムウルは、深い深い溜め息を吐いた。
カシュールカの声にとっさに反応したはよかったが、なまじ身を守れるような物が他になかった。
自分が闘っていた中身が空の甲冑の中に入り込むので精一杯だったのだ。
幸いにも、ごろごろと転がったり、硬いものが甲冑の外側にぶつかったりはしたけれど、ムウル自信に怪我はなかった。
カシュールカのおかげとも言える。
――しかし、だ。
あの二人が抱き合っているとはどういうことだ。
覚えてろよ、と思いながらも、ミイのあの顔を見たら邪魔をするのも気が引けて、こうして転がったままの状態でいるのだった。
あぁあ……。
ムウルは再び溜め息を吐いた。
崩れた屋敷の下から、煙が昇っている場所がある。
それをちらりと見やり、抱き合う二人を見やり、再度煙を見て、漸くムウルは甲冑からの脱出を図ろうとしたその時、頭上から聞きなれた声が降ってきた。
「何時まで寝てんだ、置いてくぜ」
「親方!」
ミイたちに気をとられていて、人の気配に全く気づかなかったのだ。
「無事だったみてえだな」
「親方たちこそ!」
「とっくにみんな避難してるぜ。そこそこ収穫もあったしな」
「オレも、これを回収しましたよ」
ムウルは甲冑から這い出すと、ズボンのポケットから指輪を取り出した。
「本物だろうな」
「今度こそ本物っスよ」
「ならいい。行くぜ」
ハーダッシュがムウルの背をばしんと平手で叩いた。
その強さに眉をしかめながらも、ムウルもその場を後にすることにした。




