悪魔と契約
「フォートスよ、我と契約せよ」
ロークがフォートスへ向かって叫ぶ。
サクの方など、もう振り向かない。
フォートスが解放されると同時に放たれた暴力的な光と風によって、周囲は瓦礫の山と化している。
それらに襲われたロークもサクも、もはや立つのがやっとの状態だ。
それなのに、ロークは自らの状態などまるで気にならないようだった。
それよりも、目の前に現れた悪魔の姿に、興奮している。
滞空するフォートスは、周囲の様子をうかがっているようだ。
フォートスを召喚したのはサクだが、契約はしていない。
そんな余裕も、実力もなかった。
召喚されたにも関わらず、何年ものあいだサクの左目という狭い空間に封じられていた
悪魔は、今なにを思うのか。
ロークが、右の指先で空に紋を描きはじめる。
悪魔を従わせるために必要なそれは、フォートスにしてみれば自らを縛るものに他ならない。
ロークがなにをしようとしているかに気づいたフォートスは、その鋭い眼光をロークへと向けた。
第二波だけは、避けなければ。
空に描き終えた紋へ、ロークが手のひらを向ける。
紋が光を帯びる。
その向こうには、フォートスの姿。
「契約が終わるその時、我の血の一滴、髪の一本までもそなたに与えるとここに誓う。さあ、我のもとへ下るがよい、フォートス!」
愚かな。
「ツアッシュクロスをもちて、その手に宿る力を封ずる!」
サクは杖の先をロークに突き付けたまま、短く唱えた。




