閃光のあとに
窓が、そして壁が、光にのみ込まれ、そして砕け散った。
目を庇おうと腕を翳すその寸前、カシュールカは確かに見た。
砕けた窓ガラスの破片が、イルソンの喉笛を切り裂いたその様を……。
「ん……」
腕の中のミイが身じろぎをするのを感じて、カシュールカは意識を取り戻した。
気を失っていたらしい。
斬られた左腕は痛いが、それ以外に新しく怪我をした様子はない。
目を開けると、暗かった。
細い光が幾つか射し込んでいる。
おそらく、机を覆うように瓦礫が積み重なっているのだろう。
「大丈夫か?」
ひとまず、ミイの安否を問う。
「カシュールカ……。今のは……」
「サクだよ」
「サクのせい……だったの。じゃあ、あの日も?」
「そうだ」
その時、ミイが身を硬くした。
「イルソンは?」
ミイの問いに、カシュールかは首を振った。
自分の見間違いかもしれない。
傷が浅く、助かるかもしれない。
どうなったのか、この状況では知りようもない。
カシュールカには首を振ることしかできなかった。
「そう……」
ミイが呟く。
その時、どこからか焦げ臭い臭いが漂ってきた。
「この臭い……」
「火がついたのか。早くここから離れよう」
力を込めて、瓦礫の壁を蹴りつけると、ガラガラと崩れ去り視界が開けた。
この程度の重なり方でよかった、とカシュールカはしみじみと思う。
机の下から這い出し、ミイに手を差し伸べる。
ミイがその手を取ってくれることにほっとする。
ぐいと引き寄せると、軽いミイは再びカシュールカの胸の中に納まった。
「カシュールカ」
「よかった」
月光が二人を照らす。
カシュールカは腕に力を込めた。
ミイは、拒もうとはせず、そっとカシュールカの背に手を回す。
また無表情でいるのではないか、と怖くなってカシュールカはそっとミイの顔を窺った。
しかしその表情は予想に反して穏やかで、ほっとする。
「ミイ、一緒に行こう」
「……それも、いいかもね」
ミイが顔を上げて笑った。
カシュールカは、ミイを抱き上げ、強く抱きしめた。




