協力者と、とめどなく現れる屍
「親方っ!」
「おまえら、まだこんなところで足止めくらってんのか。とっととあのチビのところに行ってやれ。こっちは俺たちだけで充分だ。なあ、グクール」
ハーダッシュ盗賊団の副長は頭領の言葉に深く頷いた。
「親方―っ。ありがとうございます! まだ、指輪は発見できてないんですけど……」
「玄関先に佇んでるおまえら見りゃあ、そんなこたぁすぐわかる。この首の数見りゃあ、遊んでたんじゃねえこともわかる。後は任せろ。さあ、どこへなりと行きやがれ」
言いながらもハーダッシュは手にした大刀を振りまわり、一度に数体の首を刎ねる。
「感謝する」
「礼は後でたっぷりしてもらうぜ」
カシュールカは一礼した。
真っ直ぐに二階を見上げる。
後ろはハーダッシュたちに任せればいい。
安心できる。
「恐らく、時間はあまりありない。外で闘っている二人の魔術師たちの力は半端じゃない。本気でぶつかりあえば、この建物など簡単に崩れ去る。気をつけて」
ハーダッシュに言い置き、カシュールカは走り出した。
「おい、ルカさんっ。オレも行くぜっ」
その後をムウルが追う。
「おめえみたいな若造に心配されるほど落ちぶれちゃいねえぜ」
背後からハーダッシュの笑い声が聞こえる。
その太く大きな笑い声は、二人だけで屋敷に乗り込んでいたカシュールカとムウルに安心をもたらした。
「いい人だな」
「あったりまえだぜ。オレたちの親方だ。ミイだって、懐いてたんだぜ」
「それもわかる」
階段を駆け上がりながら、進路を邪魔する物だけを切り捨てる。
腕が上がらなくなってきた。
剣が重く感じられる。
ちっ、と舌打ちしながらカシュールカは腕に力を込めた。
その一瞬の隙に、ムウルがカシュールカの前に出た。
「さあ、行くぜ。ついて来いよ、ルカさんっ」
ムウルがカシュールカの肩を軽く叩く。
カシュールカがバテてきていることなど、お見通しなのかもしれない。
それにしても、ムウルのこの小柄な体のどこにそんな体力があるのか。
「悪い」
「気にすんな」
ムウルを先頭に、やっとのことで踊り場までたどり着いた。
二階までまだあと半分程階段が残っている。
その時、カシュールカは背後から肩をつかまれた。
冷たい感触。腐敗臭と、低い呻き声。
「頭下げろっ!」
ムウルの声に、即座に反応する。
頭上で剣が空を斬る音がしたかと思うと、屍の頭がごとりと目の前に落ちてきた。
「重ね重ね、悪い」
カシュールカは思わず踊り場に尻を下ろし、ムウルを見上げる。
「気にすんなって」
ムウルはしたたる汗を袖で拭うと、カシュールカに手を差し出した。
その手につかまり、カシュールカはなんとか腰を上げる。
「やばいな……」
「やばそうだな」
カシュールカが呟き、ムウルが同意する。このままではやばい。
「二階にも、こいつらが溢れてると思うか?」
「廊下にはいるかもな。でも、ドアの閉まっている部屋にはいないんじゃねえか?」
「自力でドアを開けることができなさそうだからか?確かにそうかもな……」
「よし、わかったぜ。ルカさんの背中はオレが守ってやる。ルカさんは前だけを見て、二階の部屋に飛び込め。ドアの閉まってる部屋ならどこでもいい。どこかにミイがいるはずだろ?」
「おまえは……」
「オレも付いて行くから、安心しろ」
「本当にいいのか?」
「かまわねえよ。時間がねえんだろ?」
二階から降りてくる屍を斬り捨て、踏み込んでは更に斬る。
一歩ずつ階段を上る。
前方に隙ができた。
「行けっ!」
ムウルの掛け声で、カシュールカは階段を駆け上った。
横からカシュールカを捕まえようと、屍の手が伸びてくるが、それを振り払いながら、ひたすら二階を目指す。
邪魔な屍を斬り払い、二階に一歩踏み込んだ。
左右に長く伸びる廊下。
屍は左に伸びる廊下の突き当たりの壁をすり抜けるようにして姿を現していた。
「おっしゃっ」
トン、と足音がして、ムウルも無事二階に到達する。
階段を振り返ると、動かなくなった屍が幾つも転がっていた。
ムウルが全て斬り捨てて来たらしい。
一階から階段を上ろうとしている屍に斬りかかるハーダッシュの面々の姿も見える。
「あそこだ……」
カシュールカが廊下の突き当りを剣先で指した。
「次々と現れやがるな。じゃあ、ルカさんは右の方を頼む。オレはこっちをから指輪を探していく」
ムウルが左を向いて言う。
カシュールカは頷いた。
右の廊下の方が遥かに動く屍の数が少ない。
カシュールカはムウルに甘えることにした。
一刻も早くミイをみつけだす。
そうすれば、屍を倒さずとも、そのままここから逃げ出せばいいのだから。
「頼む」
「ああ、任せとけ」
ムウルの力強い返事をきき、カシュールカは手近な部屋へと飛び込んだ。




