魔術師の邂逅と動く屍
「ようこそ。ゾルショワナ盗賊団の隠れ家へ」
突如、頭上から声が降りそそいだ。
サクは立ち止まり空を見上げる。
月を背に、一人の男が空に浮いていた。
「ロークッ!」
「このあいだは慌しくて申し訳なかった。今日はゆっくりと昔話につきあってやることができる。まあ、そう焦らないことだ」
言いながらゆっくりとロークは高度を下げ、サクたちの真正面まで降りてきた。
しかし、着地してはいない。
「そうだね、ゆっくりと僕に付き合ってもらおうか。訊きたいことは沢山あるんだ」
サクが顔の前で手を広げた。
微かな音と共に、一本の杖が現れる。
すかさずそれを握りしめ、杖越しにロークを睨みつける。
「面白い。だが、後ろの二人が邪魔だな」
ロークがカシュールカとムウルに視線を向ける。
「邪魔して悪いな。そこを通してくれるなら、俺たちはとっととこの場を去るさ」
「そうそう、後は二人でごゆっくり。オレは初対面のあんたとする話なんかねえんだよ。とっととそこを通しやがれ!」
カシュールカは腕を組んだままだが、ムウルは既に腰に下げた剣の柄に手をかけている。
「ふん。そういうわけにもいかないだろう。屋敷の中には、まだ捌ききれていない財宝が残ってる。盗まれたらたまらない」
「もともと盗んだモンばかりだろうが!」
ムウルがくってかかる。
「それはお互い様だ」
ロークは口を歪めて笑うと、つま先で二度ほど地面を蹴った。
「さがって!」
サクの声に反応して、カシュールカとロークは後ろに飛び退った。
次の瞬間、ぼごぼごと地面が盛り上がり、地中からなにかが現れる。
「なっ、なんだっ!?」
「動く屍だよ」
声を上げるムウルに対して、サクが冷静に説明する。
盛り上がった土はやがて人の背丈程の大きさにまでなった。
前に両腕らしき物を伸ばし、その腕はサクたちの方に向けられている。
その腕は皮がむけておぞましく、ものすごい腐臭がする。
カシュールカは眉根を寄せた。
サクは先陣に立ち、杖を横に薙ぎ払う。
その杖に打たれた動く屍は一瞬にして崩れる。
「なるほどねっ」
人外の物を相手にして動揺していたムウルだったが、簡単に倒せることを知り、やる気になる
「待って。まだだ」
しかし動く屍に斬りかかろうとしていたムウルをサクが呼び止めた。
「へっ!?」
既に地面を蹴って前に出ていたムウルは、動く屍に対して振り上げた剣をそのまま袈裟懸けに斬りつけた。
屍は崩れるように倒れる。
「なんだって?」
振り返るムウルの背後で、先ほどサクに薙ぎ払われた屍がむくりと起き上がっていた。
目を丸くするムウルに向かってその屍が手を伸ばす。
「うおっ」
ムウルが飛び退く。
カシュールカが即座に剣を抜き、その屍を切り捨てた。
「な、なんだよ、これ」
「相手はもう死んでるんだからね。頭を切り落とせば動かなくなるとは思うけど、操っている術師をなんとかしないと、キリがないね」
サクがひとつ息を吐く。
「遊んでる暇はない、そうだろ?」
カシュールカの問いに、サクが頷く。
「屋敷まで突っ切って。進行方向にいる邪魔な奴だけを叩き切って行けばいい。……ミイは、おそらく二階に居る」
カシュールカは深く頷いた。
「二階だな、了解だぜっ」
ムウルが剣を振り回しながら走り出す。
「死ぬなよ」
「そっちこそ」
カシュールカに笑顔を返し、サクはゆっくりと空へと浮き上がった。
そのまま動く屍の届かない場所まで浮き、ロークと対峙する。
カシュールカは空に浮く二人にちらりと視線を向けた後、ムウルを追って走り出した。
「どりゃー、うらぁー、はあぁーっ、でぇりゃーっ!」
ムウルの掛け声が聞こえ、飛び散る泥が見える。
ムウルが崩した屍を蹴散らす様にしてカシュールカも前進する。
サクは大丈夫だ。
自分にそう言い聞かせて、カシュールカは前方に見える屋敷の二階を見据えた。




